The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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なぜ子どもへの学習支援が役立たなくなるのか

介在するメカニズムと本当の支援のあり方

Fri. Nov 7, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 401 (4階)

[JC02] なぜ子どもへの学習支援が役立たなくなるのか

介在するメカニズムと本当の支援のあり方

山本博樹1, 吉田甫1, 伊藤貴昭2, 川那部隆司1, 深谷優子3, 宮本正一4, 藤村宣之5, 安永悟6 (1.立命館大学, 2.明治大学, 3.東北大学, 4.中部学院大学, 5.東京大学, 6.久留米大学)

Keywords:学習支援, 子ども, 有効性

■企画主旨
教育心理学の実践的な姿勢がこのところ功を奏して,学習支援の考え方を取り入れた授業が散見されるようになってきたことは喜ばしい。背景には,学校心理士の活躍がすすんでいることがあるだろう。ここで手を緩めること無く,学習支援の底流にある,「支援モデル」の原則について確認しておくことが大事ではなかろうか。そのポイントは,児童・生徒を「最後の審判」(被支援者) に戴いた上で,その自立的な学習活動の支援を目指すという点である。ただ「支援モデル」には,抜き差しがたい問題が潜んでいることも事実である。例えば,学習者の支援ニーズを始発点に置くが,「支援ニーズとは何か」と問うても一義に定まらないという本質的な問題もあるが,これはすでに触れた (2009年,2010年教心シンポジウム)。
問題が深く根ざしていることを確認した上で,今回は学習支援の有効性の問題に着目したい。「支援モデル」では,支援の適否の判定までをも被支援者に委ねるが,ここに問題が根ざしている。これは手すりを喩えに出すとわかりやすい。手すりの有効性は設置者が決める場合と利用者が決める場合とで違うが,ここでの厄介な問題は,有効であるはずと設置者が信じるところの手すりが利用者には役に立たないという問題である。この問題を具体的に踏み込んで捉えてみると,例えばそもそも利用者の握力自体が弱いために,その手すりが役立たない場合もあるだろうし,それ以外にも様々のメカニズムが介在するだろう。今回のシンポジウムではこの点に斬り込みたい。
学習支援に戻して考えてみると,有効だと想定して (信じて) 提示した学習支援が子どもには見事に役立たない場合がある。もちろんこれは,支援の適否を判定できるのは被支援者のみという「支援モデル」の原則から一応の説明はつくが,ではどうすれば子どもに役立つ学習支援が提供できるかは不明のままである。そこで,今回は,結果として役に立たなかった学習支援の事例を共有し,介在するメカニズムを読み解きながら議論することが今回のシンポジウムの趣旨である。児童・生徒への学習支援事例を通じて,介在するメカニズムの検討を経て,本当に役立つ学習支援とは何かについて議論を積み上げていきたい。

■学習支援の受け取りは難しくないか
ー高校「倫理」教科書の学習支援から考えるー
山本 博樹(立命館大学)
学習支援の場面を思い起こしてみると,提供する学習支援を子どもがいつも受け取ってくれればよいが,必ずしもそうではないことに気づく。というよりむしろ,支援者自身は,いつも子どもに自分の提供する学習支援を受け取ってもらえるなどとは思わない方がよいのかもしれない。
要するに,子どもに対して役立つはずと想定して提示した支援がその子どもに受け取ってもらえないなら,有効なはずの支援でも役立たないことになることを言いたいのである。これは学習支援の受け取り難さと呼ぶことができる。これは,学習支援自体がもとより受け取り難いという認識を欠き,その受け取りにも別の過程が関わることを見逃すために生じると考えてみたい。本発表の趣旨は,そのメカニズムの一端を示すことである。
今回は,高校生が公民科「倫理」を学習する際に用いる教科書の学習支援を事例にして,学習支援の受け取り難さに関するメカニズムを示すことで以降の3名の議論のステップにしたい。


■ピアレビューによる推敲支援の効果と限界
深谷 優子(東北大学)
ピアレビューとは,学術雑誌の査読(peer review)システムを学習場面に援用して,仲間(ピア,peer)による,見直し/推敲(レビュー, review)を行う教授技法である(深谷,2009)。これまで筆者は作文における推敲プロセスにこのピアレビューを導入した試みを報告しており(例えば, Fukaya,2003など),その後,対象や課題,方法を変更・修正した実践を行っている。今回のシンポジウムでは,うまく機能しなかった学習支援について,1) 日本人大学生が特定の論題の賛否いずれかの立場で立論する課題,2) 日本への留学生が日本語で好きな事柄を作文およびスピーチにて紹介する課題,3) 知的障害のある方が好きな事柄を作文およびスピーチにて紹介する課題,のなかからいくつかの事例を取り上げて検討する。具体的には,ピアレビュー方式の大きな利点は多様な意見へのアクセスがしやすいことであるが,この利点を十分活用できていなかったと思われる事例について,想定している学習/問題解決プロセス,参加者の特徴(認知,知識,信念など),課題の特徴,文脈などの点から,支援を有効化する条件やメカニズムについて考察したい。

■教育現場の実践から
宮本 正一 (中部学院大学)
筆者は教育委員会等の依頼により,岐阜県内の幼稚園・小学校・中学校へ発達障害児支援のために巡回相談を実践している。教育現場に赴く場合は教室での学びの様子を短時間観察した後,学級担任等から当該の発達障害児の学びの姿や支援の現状を伺い,現在課題としている支援の内容をコンサルテーションするという流れである。
子どもの年齢が幼い場合には教科学習ではなく,広い意味での行動支援となる。発達障害児への「学習支援」について教育現場は大変困っており,具体的な支援策を渇望しているのが現状である。教育現場の熱望に対してアイデア集等もたくさん発行されている。しかしなかなか成功が「継続する」事例は多くないと思われる。
なぜ学習支援が継続して役に立たないかと考えるといくつかの側面が考えられると思われる。1つには,子どものアセスメントが十分実施されていないことがある。2つには,子ども自身が変容し,それまでの支援が有効でなくなり,見直しが必要な場合があると思われる。当日は具体例をいくつか話題提供したいと思う。

■学習支援の有効性の分析から発達と学習の
メカニズムに迫る
藤村 宣之(東京大学)
児童・生徒の学習支援に関して,学習支援が有効である場合とそうでない場合を対比させることで,子どもの学習やその背後にある発達のメカニズムに迫ることが可能になり,そこから学習支援や発達支援のあり方が明らかになってくるのではないかと考えられる。本報告では,小学生から中学生の算数・数学に関する概念的理解を促進することを目的として実施した3つの教育心理学的研究(個別介入研究,教授介入研究,デザイン実験研究)を事例として,それぞれの研究における学習支援の有効性を分析する。それを通じて,①学習支援が有効であった学習者とそうでなかった学習者では何が異なるのか,②後者の学習者には潜在的な変化は見られないのか,③学習支援が有効であった授業とそうでなかった授業では何が異なるのか,④後者の授業では何を変化させると学習支援の有効性は高まるのか,といった点について話題提供を行い,子どもの学習や発達の支援のあり方について議論を深めたい。

■参考文献
山本博樹・深谷優子・伊藤久仁子・島田英昭・藤村宣之・大野精一 (2009). 児童・生徒の支援ニーズから組み立てる教材学習の支援ー改めて「支援ニーズ」とは何かー 日本教育心理学会第51回大会発表論文集, S54-S55.
山本博樹・島田英昭・瀬尾美紀子・東原文子・吉田甫・岸学・鹿毛雅治 (2010). 児童・生徒における教材学習のつまずきと支援ー支援ニーズをくみとる論理と方法論ー 日本教育心理学会第52回大会発表論文集, 162-163