The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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学校教育と自己の発達

新たな自己研究へ(3)

Fri. Nov 7, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 403 (4階)

[JC03] 学校教育と自己の発達

新たな自己研究へ(3)

浅田匡1, 遠山孝司2, 梶田叡一3, 皆川英明4 (1.早稲田大学, 2.新潟医療福祉大学, 3.奈良学園大学, 4.広島市精神保健福祉センター)

Keywords:自己発達, 学校教育, クライン派

企画趣旨
早稲田大学 浅田 匡
これまで学力と自己,学級と自己をテーマとして,学校教育がもつ主たる側面と子どもの自己との関係を考えてきた。今回はそれらを踏まえながらも,自己の発達と学校教育との関係を考え,ほぼすべての子どもが経験する学校教育と自己発達の問題を考えたい。ここで学校教育とは幼稚園から大学までとし,学校教育システムとの関連での自己発達の俯瞰図を参加者との討論を通して描くことができればと思っている。それは,新たな自己の研究が何をどこまで研究内容として射程とするかを暫定的に限定することである。その上で,どのような研究方法が求められるのか,ということへテーマと進めていきたいと考えている。したがって,本シンポジウムではあえて指定討論をおかず,自己意識研究や心理臨床を実践している話題提供者との対話から本問題を考えたい。

話題提供1:有機体自己と意識体自己の関係性の発達-<いのち>の教育にむけての取組みを
奈良学園大学 梶田 叡一
意識の世界(意識体自己)だけを世界としてみがちな(どんなに意識化に努めても1点だけ意識化され得ない主体的機能が残るといった)デカルト的発想は,今後の教育的な取組みの中で克服されていかねばならない。意識世界の土台に広大な生命的活動の世界(有機体自己)が存在することに多面的な形で気づいていかねばならない。そして,生命的活動と意識の世界の連携強化を図り,意識内における自己内対話とそれを踏まえた決断が全有機体を挙げての方向づけとなるようにしていかなければならない(Figure 1参照)。このことは,また,天動説的自己観から地動説的自己観への転換と我々が呼んできたことところでもある。
学校教育の中では,教科教育を通じて,何よりもまず,意識の世界の拡大とその整理構造化が進められていく。新たな知識を獲得し理解を進め,それを基盤に思考の力,問題解決の力を強めていく。その過程では,意識の世界での自己内対話が重要な役割を果たす。この力をどう付けていくかも重要な教育課題となる。
もう一つ,生命活動全体(有機体自己)の中での意識の世界の機能に関しての教育課題がある。ここでは,生命活動のどの部分をどのような形で意識化していくか,意識世界が生命活動にどう関わっていくか,という両方向での連携強化が具体的な課題となっていくであろう。「いのちの教育」として現在追求されているところも,このことと大きく関わってくるのではないだろうか。
話題提供2:精神分析学からみた自己の発達
広島市精神保健福祉センター 皆川 英明
人の心を研究する分野は数多く存在し,精神分析学もそのひとつである。精神分析学が他の多くの学問領域と最も違う点のひとつは,人の心の中に「無意識」を想定していることである。心の発達の解明に特に革新的な研究を行ったのが,英国クライン学派と呼ばれる精神分析学の研究グループである。彼らによると自己の発達は以下の通りである。
出生直後から人間の心は作動していて,外界を認識している。その役割の大部分は,無意識の世界が担っている。しかし当然のことながらそれは,私たち大人が認識するような世界とはずいぶん異なっている。例えば乳児は,母親の献身的な世話によって成長していく。しかし乳児はその母親を,自分とは独立した全体像を有する1人の人間(全体対象)としては認識していない。自分を見つめる「眼」や,自分をあやす「手」や,お乳を与えてくれる「乳房」などの身体各部が,バラバラに独立して存在する(部分対象)ものとして認識している。また乳児には「不在」の概念はない。自分が空腹のまま放置されているとき,乳児は自分を冷たく見下ろす「悪い眼」や,抱っこしてくれない「悪い手」や,飢えを満たしてくれない「悪い乳房」が存在すると認識している。そして空腹が満たされたときには,優しい「良い眼」や,抱っこしてくれる「良い手」や,「良い乳房」が存在すると認識する。このように,部分対象はさらに「良い対象」と「悪い対象」に分裂している。乳児の成長に伴い視覚が発達し,それに伴って,バラバラに存在していると思っていた身体各部が実は母親という一人の人間(全体対象)のものだったことが認識されるようになる。同時に,「良い」と「悪い」に分裂していた対象のイメージも統合される。このとき人間は,人生最初の「抑うつ状態」を経験するとされている。しかしそれは,統合された自己の感覚を獲得する上での重要な発達課題である。これは乳幼児期に達成することを要求された後,思春期にも再度達成を要求されることになる。
発表当日は,人の心がどのように発達し,自己の感覚が形成されていくのか,英国クライン学派の学説に従って検討を試みる。

資料(討論のための資料)
①小学生における自己教育性の変容
小学校3年生から6年生までの2年間の自己教育性の変容の割合を示しているが,達成承認欲求は変容しにくく,肯定的自己感覚も変容しにくい自己の側面と考えられる(Table 1参照)。

Table 1 学年による教育性の変容 (n=1024)

②学力と自己教育性との関連
観点別標準学力検査得点と自己教育性の変化しにくい側面(達成承認欲求)と変化しやすい側面(自信・意欲)との関係において,変化しにくい側面との相関がみられ,変化しやすい側面とはほとんど相関がみられない(Table 2参照)。
(当日さらに自己の発達のデータを討論の資料として示し,フロアとの議論を行う予定である。)