The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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対人援助職の現状と実践力育成について考える

教師,臨床心理士,保育士に注目して

Fri. Nov 7, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 406 (4階)

[JC08] 対人援助職の現状と実践力育成について考える

教師,臨床心理士,保育士に注目して

増田健太郎1, 生田淳一2, 友清由希子2, 濱田尚志3, 黒川光流4 (1.九州大学, 2.福岡教育大学, 3.香蘭女子短期大学, 4.富山大学)

Keywords:対人援助職, 実践力, 養成・研修

【企画趣旨】
「教師は大量退職の時代を迎え,若年層の教師の増加が著しい。」「臨床心理士は,33%が30歳以下と若年層の割合が多い。」「保育士も保育園の整備が整っているが,絶対数が不足していること,早期退職者多い。」など,対人援助職のおかれる厳しい状況が報告されている。
このような現状から,対人援助職に必要な資質・スキルの解明とそれらを促進する養成プログラムの開発,社会や組織の変化とキャリアアップに対応した研修システムと内容の開発が急務であり,育成システムの開発を進めるためには,対人援助職の現状に対する理解の必要性がある。
本シンポジウムでは,対人援助職として,特に,教師,臨床心理士,保育士に注目して,それぞれの領域についての探索的な研究の結果を報告する。そして,その結果から見えてきた課題をもとに,対人援助職の実践力育成のあり方について検討し,今後の対人援助職の養成プログラムや研修プログラムの開発について議論する。

【話題提供】
1.対人援助職としての教師の実践力
生田 淳一
教師の対人援助職としての役割に対する期待は,依然として高い。最近では,児童・生徒だけにとどまらず,保護者対応・地域との連携など,さまざまな場面での対人援助が求められている。
しかしながら,教師が最もその機能を発揮しなければならないのは,児童・生徒に対してであり,実際に,教師は多くの時間を,児童・生徒への対人援助に費やしている。
このとき,教師の児童・生徒への対人援助には,個へのアプローチと集団へのアプローチの2つのアプローチが存在する。教師の対人援助は,三次的援助サービス(問題行動など)への対応のように個別対応が注目されがちだが,それ以上に教師は学級集団にどのように関与し対応していくのかが求められている。ここに教師の対人援助の難しさもあるのではないかと考える。
特に,ここでは授業中の対人援助職としての実践力に注目して話題提供を行う。授業は,教師にとって最も重要な実践の場の一つである。授業は,学習指導の場であるだけでなく,生徒指導の場であり,学級経営の場である。この点を踏まえ,かつ,個と集団双方へのアプローチを考慮して,教師の対人援助職としての実践力について検討する。具体的には,授業スキル尺度の構成の取り組みとその結果について報告する。

2.対人援助職としての臨床心理士の実践力
友清 由希子
対人援助職は専門性が高く,養成段階で実践力が完成するわけではない。生涯にわたって自ら実践力を育む姿勢が不可欠である。
臨床心理士においても,養成段階で目指されているのは,特定の理論や技法への習熟というより,実践力の基盤づくりである。この点について,経験豊富な臨床心理士へのインタビュー調査では,大学院では,人と関係を築く力や人への思いやりなどの基本的な力を身につけさせてほしいという指摘があった。
臨床心理士の実践力を育てる上で大きな役割を果たしているのが,資格の更新性であると考えられる。日本臨床心理士会,臨床心理士資格認定協会を中心に,実践力を向上させるための様々なプログラムが提供されており,資格を維持するためには,プログラムへの参加が必要となっている。また,スーパービジョンという経験豊富な臨床心理士の指導を(しばしばマンツーマンで)受けることが推奨されている。
しかし,修了後すぐの,まだ臨床心理士資格を取得していない者が教育を受ける機会は,各自の自主性に任されている部分がある。臨床心理士の実践力を育てる観点から,修了後教育についても検討していくことが必要である。

3.対人援助職としての保育士の実践力
濱田 尚志
保育士として必要とされる実践力を明らかにするために,20年以上の経験を持つ保育士にインタビューを行った。まず実践力については「担任として子どもを導きながら1年間やっていく力」「子どもを観察し援助する力」「年間を見通し計画し実行できる力」「保護者と連携できる力」「園全体のサポートができる力(園行事の計画・準備,後輩の指導も含む)」等があげられた。実践力には援助の対象となる乳幼児への保育に加え,子どもを取り巻く「全体」が見えることも含まれているのではないか。次に,実践力が身に付いた時期では,3年目,5年目,10年目,0歳から5歳までの全てのクラスを担任として経験した時,など様々な回答が見られた。実践力を身につけるために関係していることとしては,数年経験し年間での仕事の流れをつかむこと,子どもの発達プロセスを体験的に理解したこと,等があった。
実践力が身に付いたというためには,年単位の時間が必要であり,蓄積された経験を言語的または体験的に自分のものとしてまとめていくことが重要であると思われる。養成課程は2年間または4年間という限りがある中,社会的要請や待遇等保育士のおかれる状況を念頭に置きながら,養成プログラムや現職者研修の内容について検討していく必要があるだろう。

4.アンケート調査結果から見えてきたこと
-教師,臨床心理士,保育士の比較―
黒川 光流
対人援助職には,早く激しい社会の変化の中で,適切に他者と関わることが求められる。そのような資質やスキルは,長く経験を積むことで身に付ければ良いものではなく,またそれだけで身に付けられるものでもない。それが対人援助職の難しさの1つである。
また対人援助職には,多くの人が共通して抱えている困難,あるいは多くの職種に共通して必要な実践力があると考えられる。その一方で,同じ「対人援助」を主な職務としていても,援助の対象や職務特性は異なるため,職務に必要な資質やスキル,あるいは感じているストレスやおかれている状況は,職種によって異なる部分も多分に存在することが予想される。
これまで,職務上のストレスとそれへの対応,職務に対する意欲,スキル,職場状況,ならびに実践力として職務に必要なものは何か等について,様々な対人援助職にある方々を対象にアンケート調査を実施してきた。ここでは,多様な対人援助職の中でも,教師,臨床心理士,および保育士に焦点を絞り,職種間の比較,あるいは全体と各職種との比較を通して,対人援助職の現状を職種間の共通性と個別性の両面から整理する。それを基に,対人援助職に必要な資質やスキル,すなわち実践力の育成に必要な職場内外からのサポートやプログラム等について検討したい。
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本研究は,JSPS科研費:24330218「対人援助職の実践力養成プロセスの分析とバーンアウト予防の学際的研究」(研究代表者:増田健太郎)の助成を受けたものです。