The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

自主企画シンポジウム » 自主企画シンポジウム

岡山県総社市における「だれもが行きたくなる学校づくり」

小学校・中学校の“連続性”を考える

Sat. Nov 8, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 504 (5階)

[JD05] 岡山県総社市における「だれもが行きたくなる学校づくり」

小学校・中学校の“連続性”を考える

三島浩路1, 赤澤大史2, 栗原慎二3, 藤井和郎4, 三宅理抄子4, 合澤菜穂子5, 新井肇6 (1.中部大学, 2.岡山県立岡山東商業高等学校, 3.広島大学, 4.総社市立総社西中学校, 5.総社市立総社小学校, 6.兵庫教育大学)

Keywords:学校教育, 適応, 連続性

<企画の趣旨>
義務教育学校の現場では,「いじめ」「不登校」をはじめとした生徒指導上の問題等,様々な問題への対応が求められている。学区が重なる小学校と中学校との連携を強化し,教育の力を強めようとする動きが各地でみられる中,岡山県総社市においては,各学校における指導・支援を,教育委員会による積極的なコーディネート等により,有機的に結び付けるユニークな実践が進められている。実践の背景となる考え方や連携の概要,さらには,個々の学校で行われている実践に関する話題提供をもとにして,小学校・中学校教育の連続性等について考えてみたい。
<話題提供>
■「学校づくり」の基本的な考え方
栗原 慎二(広島大学)
総社市では現在,マルチレベルアプローチ(Multi-level Aproach,MLA)という生徒指導を展開している。これは包括的生徒指導(ComprehensiveSchool Counseling and Guidance)をベースとしたもので,多層的な介入や生徒間の協同を重視したアプローチである。このMLAにおいても「連携」は重要なキーワードであり,連携を重視した実践を展開してきた。具体的には,まず第一に,「ゴール=育てたい子ども像」を学校のみならず,地域や家庭,行政,実業界等が共有することであった。第二に,幼稚園,小学校,中学校が同じ指導理念と指導方法を身につけることを目指した。これが上述のMLAであり,過去4年間,幼小中の教員が同じ研修を繰り返し受け続けてきた。第三に,子ども理解の共有である。そのために,小中共通のアセスメントツールの導入,小中合同の事例検討,幼小中相互乗り入れによる公開授業研究会等を行ってきた。第四に地域コーディネーター制度の活用である。この制度は元々存在していたが,その活用を推奨し,児童の学習支援と地域の教育力の向上を目指した。優れた実践も生まれつつある。
こうした取組の結果,中学校における不登校出現率は約40%減の,1.95%まで低下した(平成25年,速報値)。暴力行為といじめ認知件数は元々低かったが,中学校における暴力行為の発生件数(千人当)は全国の発生率の約50%,いじめ認知件数は約20%となっている。学力についても平成24年度の中学1年生は,岡山県内17市町のなかで主要4教科(英語を除く)で,全教科トップとなるなどの成果を上げつつある。シンポジウムでは,特に連携に焦点を当てた取組の概要を紹介する。
■「だれもが行きたくなる学校づくり」の
概要と連携型小中一貫教育
総社西中学校 校長 藤井和郎
総社市には小学校15校,中学校4校,計19校あり,「だれもが行きたくなる学校づくり」はそのすべての学校で行っている。これは,総社市教育委員会が不登校対策の一環として平成22年度に始めたもので,協同学習,SEL,ピア・サポート,品格教育の4プログラムをマルチレベルで実践している。この取組により,総社市の不登校出現率は減少してきている。
具体的には,中学校区ごとに協議や工夫をして行っており,この実践が基になり,連携型小中一貫教育にスムーズに移行してきている。現在では4中学校区それぞれが小中一貫教育の取組を進め
ているところである。
シンポジウムでは,私の前職である総社市教育委員会の立場から「だれもが行きたくなる学校づくり」の概要と経過,そして現任校の校長の立場から,本校区の小中一貫教育である「一貫WEST」の取組の概要を紹介したい。
■進んで人と関わりをもち,
好ましい人間関係を築こうとする子の育成
総社小学校 教諭 合澤菜穂子
本校の研究は,総社市で取り組んでいる「だれもが行きたくなる学校づくり」に基づいて行っている。不登校を未然に防ぐために『進んで人と関わりをもち,好ましい人間関係を築こうとする子の育成 「SEL」「協同学習」「ピア・サポート」「品格教育」を通して』を研究テーマに,低・中・高学年別の目指す児童像を設定して研究に取り組んだ。
実践をとおして,次のような成果がみられた。「SEL」では,コミュニケーション能力の向上がみられた。「協同学習」では,1日30分実践することを目標に取り組み,安心して自分の考えを伝えたり友だちの考えを受け止めたりできるようになった。「ピア・サポート」では,異学年関係ばかりでなく,同学年の中でも友だちと協力できるようになったり優しく接したりでき,日常生活でのコミュニケーション力が向上してきた。「品格教育」では,よりよい習慣が身に付いて行動ができるように,学校ばかりでなく家庭や地域との協力の下で取り組んだ。児童も毎月の目標の意義を理解しながら行動できた。全校児童のアンケートでも,89%が「学校は楽しい」という肯定的な回答があり,一定の成果がみられた。しかし,11%の児童,クラスでは3~4人が「楽しくない」と言っている。今後は,この児童たちが少しでも「楽しい」と思えるように,4領域をスパイラルに絡み合わて実践化をしていく必要がある。
■総社西中学校における三次支援体制
総社西中学校 教諭 三宅理抄子
昨今の社会的な背景を反映し,中学生を取り巻く家族のあり方や友達関係の築き方も複雑化してきており,中学生の心はとても不安定なものになっている。
そのような中学生に一人ひとり違う言葉かけやアドバイスをする必要があり,教員だけでは時間的にも知識的にも限度がある。また,発達障がいのある子どもたち,その保護者に適切な支援も必要であり,専門的知識のある人員,リソースの活用が不可欠である。
総社西中学校では定例の「教育相談委員会」を開き,タイムリーな生徒に関する情報交換と,教員への情報提供をしている。
学校内での専門的知識を持つリソースとしてはSC,SSWがあげられる。SCは生徒・保護者のカウンセリング以外にも教育相談委員会でのアドバイス,授業参観,集会への参加をし,生徒に対する正しい状況把握ができるような機会を設けている。
またSSWは週1回半日のペースで勤務しており,生徒だけでなく,保護者や,場合によっては家族全体へ働きかけ,環境を調整し,本人や保護者の「困り感」を軽減する役割を担っている。特に発達障がいのある生徒の見立てと,担任へのコンサルテーションが適切で,教員,保護者から信頼されている。今年度は2学年全クラス参観してもらい,それぞれのクラス担任にアドバイスをしていただく予定である。
校内でのSCC(教師カウンセラー),SC,SSWの連携としては学期末に連携カンファレンスを行っている。2名のSC間,SCとSSW間で同じケースを共有している場合もあり,それぞれ役割を変えたアプローチをすることや今後の見通しを立てることはとても有意義である。
校外の機関との連携としては,市の適応指導教室,市役所こども課,主任児童委員,児童相談所,小学校などから情報提供をしてもらい生徒の指導にあたっている。ネットワークを広げればケース会議の際により多くの情報が集まるが,調整に時間がかかってしまう問題点もある。さらに保育園,幼稚園,児童自立支援施設とも連携ができれば生徒の家庭環境はより把握できると思う。
今後の課題として,教員のコミュニケーションスキルがあげられる。さらにより良い方向に進めるよう,生徒同士だけでなく教員側も生徒,保護者との強いボンドを築く必要がある。