The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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児童の学習を支える力の育成・支援

Sat. Nov 8, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 503 (5階)

[JE06] 児童の学習を支える力の育成・支援

常深浩平1, 田村綾菜2, 小川詩乃3, 猪原敬介4, 福田由紀5 (1.いわき短期大学, 2.愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 3.京都大学, 4.電気通信大学, 5.法政大学)

Keywords:コミュニケーション, 学習障害, 読書

【企画趣旨】
文部科学省(2012)の調査によると,通常の学級に在籍し,知的発達に遅れはないものの学習面で著しい困難を示す児童生徒の割合は4.5%であると推定されている。ここでの「学習面で著しい困難」とは,「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」の一つあるいは複数で著しい困難を示す場合を指している。これらの能力は全ての学習の前提となっており,一つでも困難を抱えていると,学習全般につまずいてしまう可能性がある。
そこで,本シンポジウムでは,このような学習を支える能力をいかに育成・支援できるのかを考えることを目的として,それぞれの能力に関する実証研究について話題を提供し,指定討論者,参加者と共に議論したい。

【話題提供】
「聞く」「話す」について
田村綾菜
子どもは,乳児期から幼児期にかけてコミュニケーションの手段としての話しことばを獲得する。そして,児童期に入る頃から文字学習を始め,学習の手段としての書きことばを獲得していく。この書きことばの獲得は,話しことばの発達が前提になっているといえる。また,児童期には文字の読み書きができるようになるだけでなく,書きことばと話しことばが相互に関わりながら言語発達が展開していく。このような発達過程を考慮すると,児童期における学習において,書きことばとともに,話しことばの発達は重要な課題である。今回は,言語発達の最も基礎にあたる一対一の直接対話場面での話しことばに着目する。
私たちは日常的に,聞き手として話し手の意図や知識を考慮して発話を理解しようとしたり,話し手として聞き手が理解できるようにするにはどのように伝えたらよいのかを考えながら発話したりしている。このようなコミュニケーションが成立する背景には,自分の視点とは別に,他者の視点に立つという視点取得能力の発達がある。本話題提供では,このような視点取得能力を必要とする情報伝達課題を用いて,さまざまな学習上の困難を持つ児童の特徴を検討した研究について報告し,「聞く」「話す」の支援の可能性を検討する。

「読む」「書く」「計算する」について
小川詩乃
話題提供者はこれまで学習に困難を抱える児童の学習支援に携わってきた。本発表では,実践を通して行ってきた評価や支援について紹介し,よりよい支援方法について考察する。
読み書きについて
文字学習の基本として,読みでは文字から音への変換,書きでは音から文字への変換がある。こうした文字と音の対応関係を学習するためには,聞き取った音韻を分析して把握する力や,文字の構造を分析して認識する力が必要である。このため文字学習に困難を示す児童への指導は,文字学習そのものだけではなく,その前提となる能力を評価し,困難の背景となっている認知能力そのものを伸ばす必要がある。
さらに,熟達した読みには,前述した音韻的処理(視覚情報を,その文字・単語を構成する音に結び付け分析するプロセス)だけではなく,正字法的処理(単語のつづり全体から単語を理解するプロセス)も必要である。話題提供者らはストループ効果による視覚単語認識テストを開発し,読み書き障害の児童は正字法的処理に困難があることを明らかにした。本発表では,こうした読み書きに関わる認知機能とその評価方法を紹介し,読み書きに困難を示す児童に行ってきた支援を紹介する。
計算について
計算に難しさを抱える児童の中には,数字の量の概念を理解しておらず,表面的に数字を操作しているものが少なからずいる。具体的には,数字を順番に数えたり,数字を読んだりすることができるが,タイルを見てその量の数を選ぶことができない,「10のかたまりのタイルが1本」と「1のタイルが10個」が同等であることが理解できないなどである。こうした児童は表面的な理解しかしていないため,計算テクニックを活用してある程度の計算はできても,そのあとの計算でつまずいてしまう。本発表では,計算に困難を示す児童に行った,タイルを活用した数の概念の指導を紹介する。さらに,計算が苦手と訴える児童の中には,不注意によるミスのために苦手意識を持っているものもいる。そうした児童がケアレスミスを防ぐために行った工夫についても合わせて紹介する。

「読む」「推論する」について
猪原敬介
子どもに対して読書を奨励することは,我が国に限らず,多くの国で行われている。その大きな動機として,子どもの言語を扱う力を伸ばしたいというものがある。事実,多くの先行研究が読書と言語力の関連を報告しており,その実行の容易さも相まって,読書は子どもの言語力を高める現実的な手段となっている。
本話題提供では,はじめに「読書と語彙力・読解力の関係」について現在までに分かっていることを述べる。英語圏を中心に,広い年齢・様々な言語力の子どもを対象に調査研究・実験研究が行われており,読書と語彙力・読解力の間に正の相関関係が見られることを報告している。また,これまでは少なかった日本児童に対する調査について,話題提供者らの行った研究を報告する。
次に,読解における推論に焦点を当てる。文章の読解とは,ただ文章中の単語の意味を把握すれば良いものではなく,それらを文法でつなぎ合わせ,自らの知識と照合して,文章が指す状況を「推論」しなくてはならない。推論能力の発達についての知見を紹介する。
最後に,語彙力・読解力・推論能力の発達を促すための提言を行う。文章はそれ自体が,言葉の使い方や,文章の流れのパターンなどを学習させる有益な教材である。したがって,「一人読み」でも読書をすることで読解力は上がっていく。しかし,それは単語の意味がおおよそ理解でき,文章内容も把握できるといった「適度な一人読み」が成立する場合の話である。現在は,子どもが一定年齢を超えると自動的に「読み聞かせ」を終了し,比較的すばやく「一人読み」に移行している。中間的段階として,教育者が子どもに対して質問をしたり,感想を聞いたり,読み終えれば適当なレベルの本を紹介するといったフェイズが重要であり,今よりもゆるやかな移行が必要であると考える。