[JE07] 教職大学院における特別支援教育に関する資質向上の取組
学校心理士が得るべき通常学級の教育的ニーズへの対応力とは
Keywords:教職大学院, 教育的ニーズ, 特別支援教育
企画趣旨
学校では,教員の年齢構成の急激な変化のなか,教育的ニーズへの対応も重要な課題である。教職大学院は,教育の高度化に向け,改革の一翼を担い,研究的視点や新たな理論的枠組を取り入れ,学校現場での多様な経験から得られた実践の知を,大学院で学んだ理論の知と往還させることで,問題事象を客観的に検討し改善策を見出すことを期待され設立された。
本企画は,学校適応援助を専門とする福岡教育大学教職大学院中堅リーダー養成コース独自の特別支援教育実践実習・学校適応アセスメント実習に関し,大学教員・中堅院生・教育行政の視点から報告し,指定討論者からの全国の動向をふまえた問題提起を基に議論を深めたい。
「生徒指導・教育相談リーダーコース」の取組
福岡教育大学 髙松 勝也
本教職大学院では,教育実践力開発コース(学部卒生),学校運営リーダーコース(現職教員)とともに,生徒指導・教育相談リーダーコース(現職教員等)の院生が,共に学んでいる。本コースは,個人の教育的資質向上基礎段階 ⇒ 個人の専門的資質向上基礎段階 ⇒ 学校システム構築能力育成段階 ⇒ 学校システム強化能力育成段階を2年間(54単位)で修める。「学校心理士認定運営機構 学校心理士」資格を,学校適応を促進する専門的力量が獲得されたことを示すものと捉え,養成カリキュラムに準拠した学習内容としている。当日はそうしたプログラムの枠組の説明を行う。
特別支援教育実践実習と学校適応アセスメント実習
本教職大学院のカリキュラムでは,授業の基礎的な力量を確認する「授業研究実習」を終えた後,2年の在籍期間で,4つの専門実習が計画されている。そのうち特別支援領域は次の2つである。
「特別支援教育実践実習」は,附属校の特別支援学級において,教育支援計画が立てられている児童生徒個人を対象として,個別の教育的ニーズを見極め,主に学習面の支援策の検討と試行および振り返りを行うものである。
「学校適応アセスメント実習」は,地域の連携協力校の通常学級に在籍する児童生徒個人を支援対象として,心理社会面の適応状況・学力定着度・生活態度及び学級集団の状態をアセスメントし,その課題に沿った支援活動を実習校での校内研修などを通して提案し,試行して,成果を学習指導や学級経営に活用できるようまとめる。
教職大学院における「特別支援教育」の在り方
福岡教育大学 納富恵子
日本の教員養成は,多くの困難な学校課題に対応する必要性から,高度化しつつある。その中で,今後に向けた大学改革に必要な教育内容として特別支援教育が取り上げられた。
通常学級における特別支援教育の基礎として,福岡教育大学教職大学院では,1年後期の共通科目で,特別な教育的ニーズの対応と特別支援教育の推進に必要な基本的情報を含んだ授業を行っている。
実習においても設置当初から,通常の学級における特別支援教育に関する科目を必修共通科目とし,同時に現職院生と新人院生の特別支援教育関連の実習を併行して行ってきた(※併行実習は,時期・内容を現在調整中である)。
そのうえで,現職の中堅教員である,生徒指導・教育相談リーダーコースの院生には,特別な教育的ニーズのある児童生徒の実態把握をもとに,通常学級の特別支援教育に必須の個別指導計画の作成と,それに基づく児童生徒への指導が可能となるよう指導している。児童生徒との関係作りを基盤に,個別の教育支援計画や指導計画の授業等への反映を理解し,TTとして適切に指導できる力の育成を目指すのである。
以下に紹介する2つの実習では個々の実習の学びに加え,実習先の学校と,教職大学院の院生の両者が学び合う関係が形成できた。また,その効果は,特に修了後に行われた追跡調査から,実践に役立っていることが明らかとなった。
特別支援教育実践実習をおこなって
福岡教育大学教職大学院 江頭雄一郎
特別支援教育実践実習では,院生3名が附属学校の特別支援学級に行き,複式の各学級1人ずつが実習生として配属され,必要な支援を行いながら,個別の教育計画等の支援案作成を試行した。知的な課題や行動面のスキル不足,コミュニケーションの不全さなど,多くの課題から,支援対象児に最も適切な支援の糸口を見出し,授業中・休み時間などにそれに基づいて指導を行った。大学院教員と附属学校の担当主任の先生方から,現場での指導を受け,さらに教職大学院でも,3名の実習生のケースを持ち寄り,グループスーパーヴィジョンの形式により,コースの先生方と共に支援内容を振り返った。
この体験で,中堅教員として,一人の子供を丁寧に見つめることの意義と重要性,個の多様性に応じた支援と,省察の有効性を痛感した。在籍校においても,こうした力量の向上に向けた研修が行えるよう,積極的な推進を行いたい。
学校適応アセスメント実習で得られたもの
糸島市立怡土小学校 重冨紀子
学校適応アセスメント実習では,院生2名で地域の連携協力校で実習を行った。支援を要する児童の実態把握を行い,その背景を検討し,支援の糸口を見出して,授業中・休み時間等にそれに基づいた指導を対象の児童に行った。通常学級での本人の居心地が悪くならないよう配慮し,学級では学級担任の補助という位置づけで支援を行った。放課後に児童が下校すると,学級担任と特別支援教育コーディネーターの先生方と反省会を行い,各々が担当する児童とその環境としての学級への気づきや,担任が抱える思い,今後の発達段階を見据えた支援の在り方を話し合った。
この体験で,学校適応援助に専門性を持つ中堅教員として,一人の子どもをじっくりとアセスメントし,支援を考える経験は,在籍校に戻った現在,子どもを見る視点につながっている。現場への復帰後は専任の特別支援教育コーディネーターとして,校内の同僚のサポートや地域の資源との連携などを行っている。校内の先生方は必死に子どもたちに向かい合っている。同僚の先生方の小さな支援を逃さず価値付けすることで,無意識の支援を意識化し,特別支援教育の子供の見つめ方や考え方,支援の方向性などが広がっていくことを実感している。
教職大学院と地元教育委員会の連携
福岡教育大学 西山久子
教職大学院の院生は,教員免許を既に取得し,さらなる力量や実践力の向上を目指し,大学院で学んでいる。宗像・福津両市の多くの学校では,福岡教育大学教職大学院からの実習生を受け入れていただき,実習生の力量向上と学校力向上に向けた互恵的な関係を構築してきた。
特別支援教育を含む教育的ニーズの支援においても,教職大学院の現職院生が,連携協力校で,課題を抱える児童生徒の支援を行うための方略を共に考え,院生から支援策を提案し,当該学級の担任のもとで,チームティーチング形式で対象児への支援を行い,また実習報告会等を研修の機会と位置づけ,教職員へも,新しい取組や資料の整理手法を提案する。対象児の支援策への意見を受け,修正案を試行し,その成果を振り返るという取組を繰り返してきた。
こうした現状において,教職大学院生の特別支援教育に関する実習生を学校で受け入れていただくことには,次の意義があると考える。
?教職大学院における講義・演習等で当該領域を専門とする教員から得られた理論や実践的手法が連携協力校に紹介されること。
?小中学校で行われている実践を客観的に検討し,必要な改革に向けた,理論的な裏付けが明確化されること。
?大学院教員の支援力が実習指導で活用され,学校の教育力向上に活用されること。
?現職院生が,自身の在籍校で課題を抱えた児童生徒の支援を行う際,どのような提案が可能かを検討するにあたり,実際の学校現場で試行する機会を得ることができる。
今後,教職大学院での生徒指導や特別支援教育領域の授業・実習が,教職員の力量向上との間で広く互恵的に反映され波及していくには,更なる方途を工夫し協力を深める必要がある。
学校では,教員の年齢構成の急激な変化のなか,教育的ニーズへの対応も重要な課題である。教職大学院は,教育の高度化に向け,改革の一翼を担い,研究的視点や新たな理論的枠組を取り入れ,学校現場での多様な経験から得られた実践の知を,大学院で学んだ理論の知と往還させることで,問題事象を客観的に検討し改善策を見出すことを期待され設立された。
本企画は,学校適応援助を専門とする福岡教育大学教職大学院中堅リーダー養成コース独自の特別支援教育実践実習・学校適応アセスメント実習に関し,大学教員・中堅院生・教育行政の視点から報告し,指定討論者からの全国の動向をふまえた問題提起を基に議論を深めたい。
「生徒指導・教育相談リーダーコース」の取組
福岡教育大学 髙松 勝也
本教職大学院では,教育実践力開発コース(学部卒生),学校運営リーダーコース(現職教員)とともに,生徒指導・教育相談リーダーコース(現職教員等)の院生が,共に学んでいる。本コースは,個人の教育的資質向上基礎段階 ⇒ 個人の専門的資質向上基礎段階 ⇒ 学校システム構築能力育成段階 ⇒ 学校システム強化能力育成段階を2年間(54単位)で修める。「学校心理士認定運営機構 学校心理士」資格を,学校適応を促進する専門的力量が獲得されたことを示すものと捉え,養成カリキュラムに準拠した学習内容としている。当日はそうしたプログラムの枠組の説明を行う。
特別支援教育実践実習と学校適応アセスメント実習
本教職大学院のカリキュラムでは,授業の基礎的な力量を確認する「授業研究実習」を終えた後,2年の在籍期間で,4つの専門実習が計画されている。そのうち特別支援領域は次の2つである。
「特別支援教育実践実習」は,附属校の特別支援学級において,教育支援計画が立てられている児童生徒個人を対象として,個別の教育的ニーズを見極め,主に学習面の支援策の検討と試行および振り返りを行うものである。
「学校適応アセスメント実習」は,地域の連携協力校の通常学級に在籍する児童生徒個人を支援対象として,心理社会面の適応状況・学力定着度・生活態度及び学級集団の状態をアセスメントし,その課題に沿った支援活動を実習校での校内研修などを通して提案し,試行して,成果を学習指導や学級経営に活用できるようまとめる。
教職大学院における「特別支援教育」の在り方
福岡教育大学 納富恵子
日本の教員養成は,多くの困難な学校課題に対応する必要性から,高度化しつつある。その中で,今後に向けた大学改革に必要な教育内容として特別支援教育が取り上げられた。
通常学級における特別支援教育の基礎として,福岡教育大学教職大学院では,1年後期の共通科目で,特別な教育的ニーズの対応と特別支援教育の推進に必要な基本的情報を含んだ授業を行っている。
実習においても設置当初から,通常の学級における特別支援教育に関する科目を必修共通科目とし,同時に現職院生と新人院生の特別支援教育関連の実習を併行して行ってきた(※併行実習は,時期・内容を現在調整中である)。
そのうえで,現職の中堅教員である,生徒指導・教育相談リーダーコースの院生には,特別な教育的ニーズのある児童生徒の実態把握をもとに,通常学級の特別支援教育に必須の個別指導計画の作成と,それに基づく児童生徒への指導が可能となるよう指導している。児童生徒との関係作りを基盤に,個別の教育支援計画や指導計画の授業等への反映を理解し,TTとして適切に指導できる力の育成を目指すのである。
以下に紹介する2つの実習では個々の実習の学びに加え,実習先の学校と,教職大学院の院生の両者が学び合う関係が形成できた。また,その効果は,特に修了後に行われた追跡調査から,実践に役立っていることが明らかとなった。
特別支援教育実践実習をおこなって
福岡教育大学教職大学院 江頭雄一郎
特別支援教育実践実習では,院生3名が附属学校の特別支援学級に行き,複式の各学級1人ずつが実習生として配属され,必要な支援を行いながら,個別の教育計画等の支援案作成を試行した。知的な課題や行動面のスキル不足,コミュニケーションの不全さなど,多くの課題から,支援対象児に最も適切な支援の糸口を見出し,授業中・休み時間などにそれに基づいて指導を行った。大学院教員と附属学校の担当主任の先生方から,現場での指導を受け,さらに教職大学院でも,3名の実習生のケースを持ち寄り,グループスーパーヴィジョンの形式により,コースの先生方と共に支援内容を振り返った。
この体験で,中堅教員として,一人の子供を丁寧に見つめることの意義と重要性,個の多様性に応じた支援と,省察の有効性を痛感した。在籍校においても,こうした力量の向上に向けた研修が行えるよう,積極的な推進を行いたい。
学校適応アセスメント実習で得られたもの
糸島市立怡土小学校 重冨紀子
学校適応アセスメント実習では,院生2名で地域の連携協力校で実習を行った。支援を要する児童の実態把握を行い,その背景を検討し,支援の糸口を見出して,授業中・休み時間等にそれに基づいた指導を対象の児童に行った。通常学級での本人の居心地が悪くならないよう配慮し,学級では学級担任の補助という位置づけで支援を行った。放課後に児童が下校すると,学級担任と特別支援教育コーディネーターの先生方と反省会を行い,各々が担当する児童とその環境としての学級への気づきや,担任が抱える思い,今後の発達段階を見据えた支援の在り方を話し合った。
この体験で,学校適応援助に専門性を持つ中堅教員として,一人の子どもをじっくりとアセスメントし,支援を考える経験は,在籍校に戻った現在,子どもを見る視点につながっている。現場への復帰後は専任の特別支援教育コーディネーターとして,校内の同僚のサポートや地域の資源との連携などを行っている。校内の先生方は必死に子どもたちに向かい合っている。同僚の先生方の小さな支援を逃さず価値付けすることで,無意識の支援を意識化し,特別支援教育の子供の見つめ方や考え方,支援の方向性などが広がっていくことを実感している。
教職大学院と地元教育委員会の連携
福岡教育大学 西山久子
教職大学院の院生は,教員免許を既に取得し,さらなる力量や実践力の向上を目指し,大学院で学んでいる。宗像・福津両市の多くの学校では,福岡教育大学教職大学院からの実習生を受け入れていただき,実習生の力量向上と学校力向上に向けた互恵的な関係を構築してきた。
特別支援教育を含む教育的ニーズの支援においても,教職大学院の現職院生が,連携協力校で,課題を抱える児童生徒の支援を行うための方略を共に考え,院生から支援策を提案し,当該学級の担任のもとで,チームティーチング形式で対象児への支援を行い,また実習報告会等を研修の機会と位置づけ,教職員へも,新しい取組や資料の整理手法を提案する。対象児の支援策への意見を受け,修正案を試行し,その成果を振り返るという取組を繰り返してきた。
こうした現状において,教職大学院生の特別支援教育に関する実習生を学校で受け入れていただくことには,次の意義があると考える。
?教職大学院における講義・演習等で当該領域を専門とする教員から得られた理論や実践的手法が連携協力校に紹介されること。
?小中学校で行われている実践を客観的に検討し,必要な改革に向けた,理論的な裏付けが明確化されること。
?大学院教員の支援力が実習指導で活用され,学校の教育力向上に活用されること。
?現職院生が,自身の在籍校で課題を抱えた児童生徒の支援を行う際,どのような提案が可能かを検討するにあたり,実際の学校現場で試行する機会を得ることができる。
今後,教職大学院での生徒指導や特別支援教育領域の授業・実習が,教職員の力量向上との間で広く互恵的に反映され波及していくには,更なる方途を工夫し協力を深める必要がある。