The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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学校で行うエビデンスベーストの心理プログラム

オーストラリアのベストプラクティスを日本の学校に

Sat. Nov 8, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 503 (5階)

[JF06] 学校で行うエビデンスベーストの心理プログラム

オーストラリアのベストプラクティスを日本の学校に

松本有貴1, 石本雄真2, 西田千寿子3, Kenardy Justin4, Le Brocque Robyne4, 小泉令三5 (1.千葉大学, 2.立命館大学, 3.田辺市立田辺東部小学校, 4.The University of Queensland, 5.福岡教育大学)

Keywords:子どものメンタルヘルス, 自然災害後の子どものPTSD, 予防教育

企画趣旨
松本有貴(千葉大学)石本雄真(立命館大学)
日本においては,不登校やいじめ,子どものうつ病など学齢期の不適応問題への対応が急がれる状況である。また国際比較において,学校を楽しいと感じている小中学生児童生徒の割合が日本は他国よりも小さいことが示されており(ベネッセコーポレーション,1997;杉村・石井・張・渡部,2007),明確な問題を示す児童生徒以外にも不適応状態が拡がっていることが懸念される。このような問題の予防を目的として,海外ではエビデンスベースドの心理プログラムが広く利用されており,それらの予防的効果は数多く示されている(Burke・葛西,2013など)。しかしながら日本の学校においては,エビデンスベースドの心理プログラムはほとんど実施されておらず,早急な導入が期待される。とりわけ不適応問題の拡がりが比較的小さい学齢期早期,小学校での予防的プログラムの実施が望まれる。さらに,地震や台風など数多くの自然災害が起こる日本では,自然災害後の不適応に対しても効果が検証された予防・介入法の実施が不可欠である。本シンポジウムでは,学校教員が持つニーズ,小学校での先進的実施例をもとに日本の現状と課題を検討し,さらにオーストラリアのベストプラクティスから今後の導入に向けた方法について議論を深めたい。

小学校教員が児童に獲得させたいと考える力と行動
石本雄真(立命館大学)
児童生徒の不適応問題への対策として,欧米を中心に学校で行われる心理プログラムが広く実施されている。現在,日本では中学生の不登校率が2.6%(文部科学省,2013),中学1年生のうつ病時点有病率が4.1%(傳田ら,2008)など,学齢期の不適応問題が拡がっており,これらの問題への対応として心理プログラムの導入が期待される。しかしながら,日本の子どもの不適応問題は諸外国の不適応問題と同一ではなく,諸外国の心理プログラムをそのまま導入するだけでは日本の問題に対して有効な対策とならない可能性がある。また,学校適応に影響を与える要因についても同様ではない(石本・王・日潟,2014など)。これらのことから,日本において心理プログラムを導入する際には日本の実態に合わせたプログラムの導入が必要であるといえる。日本の実態に合わせたプログラムを導入するうえで,教員が児童生徒に獲得させたいと考える力や行動については参考にすべき観点であると考えられる。それらは,もっとも児童生徒を身近で見ている立場からの意見であるため,実際に児童生徒に不足する力や行動であり,獲得することで児童生徒の適応が向上すると考えられる力や行動であると考えられる。また,心理プログラムを学校で行う場合,プログラムを実施するのは教員であり,教員が獲得させたいと考える力や行動をプログラムによって獲得することができれば,教員が心理プログラムを実施することに対する効力感を高めることができる。効力感を高めることは,プログラムが持続的に利用され定着する可能性を強くすると考えられ,心理プログラムを導入するうえでは重要な点である。本報告では特に小学校教員に着目し,小学校教員が児童に獲得させたいと考えている力や行動としてどのようなものがあるのかについて,アンケートの結果を報告する。

小学校におけるフレンズプログラム実施の試み
西田千寿子(田辺市立田辺東部小学校)
プログラム実施に先立って,小学校1年生(男子26名,女子36名),2年生(男子32名,女子33名)のクラスで,サポート資源についてのアセスメント:Social Support Scale for Children (SSSC; Matsumoto,2012)を行った。その中に大人のサポートを感じていない児童が多くいることが気にかかった。さらに,大人のサポートを感じていない児童を拾い上げてみると,担任が指導上気にかかる児童とほとんど重なることに気がついた。指導上気にかかる行動や様子とは,「トラブルがあるとすぐにキレる」「すぐに暴力をふるう」「いつまでも泣いている」「すねて何もしない」「表情が暗い」「ほとんどしゃべらない」などがあげられる。
そこで,児童のサポート資源と担任が気にかかる児童との関係に注目し,SEL:社会性,情動性を高めるプログラムであるフレンズプログラム(週1回~2回を10回)を行い,プレとポストの尺度の結果を比較した。今回行った,ファンフレンズ(オーストラリア, Paula Barrett博士, 2007)は,低学年用に開発されたもので,使用したアセスメントは,SSSC(Matsumoto, 2012),Spence Child Anxiety Scale (SCAS: Spence, 1997),Depression Self Rating Scale(DSRS: Birleson, 1981),Strengths and Difficulties Questionnaire(SDQ: Goodman,1997)である。また,担任からも,プレとポスト時の児童の様子を聞き取り,比較した。結果から,担任は,指導上気にかかる児童の行動や様子が,改善されたと感じていることが分かった。
今回のプログラム実施の経験をもとに,日本において心理プログラムを導入する際の利点と課題について報告を行う。

Childhood Trauma Reactions and the Role of Teachers and Schools Post-Natural Disaster: Training the Trainer.
J. Kenardy(The University of Queensland)
R. Le Brocque(The University of Queensland)
松本有貴(千葉大学)
In response to a series of natural disasters occurring in Australia in 2009 to 2011 a training and information package for teachers and school based mental health professionals was developed, ‘Childhood Trauma Reactions: A guide for Teachers from Pre-school to Year 12’. The training was delivered across the state of Queensland and positive evaluations relating to content, delivery, and accessibility were received from both child health specialists and school personnel. Since that time, the resources have been used in multiple setting across Australia and New Zealand and have been translated into Japanese following the 2011 Tsunami. The resources are currently being adapted for use in disadvantaged schools in South Africa. This presentation will review the teacher resources used to inform mental health support for children following trauma and disasters.
Teachers are in a unique position to identify children experiencing difficulties following natural disasters because of their role, expertise, and extended contact with children. This resource package was designed to assist teachers and health professionals in becoming more attuned to identifying emotional and behavioural difficulties in young people following a traumatic event and provides information on the prevention and management of long-term adverse reactions.
This session presents a summary of the information package and training delivered to teachers and mental health professionals and makes recommendations about how to respond to the emerging mental health needs of children post-disaster. We will overview child trauma reactions across development including very young children to adolescents, explore the role of teachers and schools in helping children after trauma such as natural disasters, and discuss strategies for identifying children who are in need of more specialised psychosocial support. We present information about working within the school environment and how teachers and child mental health specialists can work together to provide psychosocial support for the young people in their care in the wake of a natural disaster.
オーストラリアで開発されたこのトレーニング・インフォーメーション・パッケージは,日本語版が作られ,ホームページにて無償で提供されている。今回,作成チームの代表者である二氏によるワークショップを開催できることになった(会場では,日本語版教材が配布される)。心理プログラムを学校で行う利点は大きく,オーストラリア等における先行研究と実践から,日本の学校現場に応用できる実践法が学べると期待できる。
本シンポジウムでは,時間的な制約によりプレゼンテーションとして行われるが,中心となる理論と方法は充分にカバーされる。今後計画されているワークショップ情報が会場にて提供される予定である。
震災から時を経て必要な子ども支援が模索されている現状における今回の一連の研修は,オーストラリア政府とクイーンズランド大学の長期的な援助の一つである。今後の本邦における実践研究のため,実施を希望する学校との連携が不可欠であり,そのために,教育現場の専門職より活発な議論を得て,日本の社会文化に合った適用方法を見いだしていけることを期待している。