The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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再考,学校教育相談の固有性・独自性(その1)

隣接領域(生徒指導とキャリア教育)との異同の検討を通して

Sun. Nov 9, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 403 (4階)

[JG03] 再考,学校教育相談の固有性・独自性(その1)

隣接領域(生徒指導とキャリア教育)との異同の検討を通して

藤原忠雄1, 小林幹子, 大野精一2, 中原美惠3, 西山久子4, 都丸けい子5, 新井肇1, 三川俊樹6, 金山健一7, 今西一仁8 (1.兵庫教育大学, 3.日本教育大学院大学, 4.東洋大学, 5.福岡教育大学, 6.聖徳大学, 7.追手門学院大学, 8.県立広島大学, 9.高知県心の教育センター)

Keywords:学校教育相談, 生徒指導, キャリア教育

【企画趣旨】

大野(1996)が,日本における学校教育相談の展開史を総括するとともに,学校教育相談の包括的な概念規定を社会に発信し,学校教育相談の混沌とした固有性・独自性を明確にしてから早20年が経とうとしている。
その後,学校教育相談の隣接領域と考えられる様々な領域で,新たな動きが展開されてきている。石隈(1999)は,『学校心理学-教師・スクールカウンセラー・保護者のチームによる心理教育的援助サービス-』を刊行し,広く学校心理学を紹介した。また,『今後の特別支援教育の在り方について(最終報告)』(文部科学省,2003)を受け,特殊教育から特別支援教育へ移行し,2007年度より全ての学校で本格実施となった。さらに,約30年ぶりに『生徒指導の手引』が改訂され,生徒指導の基本書として『生徒指導提要』(文部科学省,2010)が刊行され,新たな展開が始まっている。加えて,『今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について』(中央教育審議会,2011)等に見られるように,従来の進路指導からキャリア教育への移行が進み,その実践が蓄積されようとしている。
こうした流れの中,生徒指導,学校教育相談,特別支援教育,キャリア教育の各々の活動の明確な整理がなされないまま,学校現場は混乱した状況にある。そのため,学校教育相談の固有性・独自性というものが,再び混沌とした状況に陥っており,学校教育相談の立場としても,他の隣接領域の立場としても,この状況を整理することの意義は大きいと考える。
そこで,本自主シンポジウムでは,3年計画で学校教育相談と隣接領域との異同を検討し明確にする。そして,学校教育相談の固有性・独自性を再度整理し直し,学校現場の混乱の収拾に寄与するとともに,学校教育相談の将来展望を示す契機とする。なお,隣接領域としては,生徒指導,キャリア教育(進路指導),特別支援教育,学校心理学の4領域に注目する。そして,1年次に前者2領域,2年次に後者2領域を取り上げて検討し,3年次に総括し展望を示す予定である。
【話題提供要旨】

生徒指導と学校教育相談との異同
兵庫教育大学 新井肇

学校現場においては,「社会化」に重点を置く指導的・審判的な生徒指導と,「個性化」に重点を置く受容的・非審判的な教育相談(学校カウンセリング)とは相反するものとしてとらえられがちである。そこには,カウンセリングとサイコセラピーを混同していることに由来する誤解があるように思われる。
カウンセリング(counseling)とは「言語的および非言語的コミュニケーションを通して,健常者の行動変容を試みる人間関係」(國分,1990)であり,病理性の高い人の人格変容をめざすサイコセラピー(psychotherapy)とは異なるものである。教育相談がその理論的基盤をカウンセリング心理学に置き,人と環境の相互作用に焦点をあて,個人の教育やキャリア発達を重視するならば,「社会的自己指導能力(=その時,その場で,どのような行動が適切か,自分で考えて,決めて,実行する能力)」(坂本,1990年)を育成するために,「最後は自分が決めた」という意識(=自律)を持たせる働きかけを行う生徒指導実践の考え方と,介入の目的や視座,方法という点で重なり合うことになる。
もともと生徒指導という言葉の源は,アメリカのスクールカウンセリングでいう <Guidance & Counseling(指導と相談・援助)>にある。援助なき指導(「偏った生徒指導」)は子どもの自律性を損ない,指導なき援助(「偏った教育相談」)は子どもの社会性を育てきれない。両者が相俟ってはじめて,真の児童生徒支援が可能になると思われる。そのつなぎ役となる存在を,「包括的児童生徒支援コーディネーター」と呼ぶことにする。児童生徒の心の危機へ適切に対処し,開発的・予防的な生徒指導を進めるための専門的な知識と実践力をもち,生徒指導,教育相談のみならずキャリア教育,特別支援教育を統括し,また,児童虐待や自殺予防などにも関与する「教師」である。将来的には,学校教育とカウンセリング心理学の専門的知識をもつ専任教員として各学校に配置されることが望まれる。
キャリア教育と学校教育相談との異同
追手門学院大学 三川俊樹

中央教育審議会答申(2011)により,キャリア教育は「一人一人の社会的・職業的自立に向け,必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して,キャリア発達を促す教育」と表現されたが,筆者は「キャリア教育とは,子どもや若者の社会的・職業的自立に向けて,一人一人のキャリアを形成するために必要な能力や態度を育てることを通してキャリア発達を促す教育であり,発達段階に沿った計画的・継続的な学習プログラムを基盤に,個別対応を重視したキャリア・カウンセリングを活用して,体験的活動等を中心としたさまざまな教育活動の中で展開される」という概念規定を提案したい。
キャリア教育は,学校教育相談と同じく,学校教育活動の一環であり,子どもの発達段階と発達課題をふまえた開発的・予防的な援助が強調されるほか,キャリア発達を促進するための学習プログラムの実施とそれを補完するキャリア・カウンセリングは教師が担う。また,キャリア・カウンセリングは,進路選択等の場面では外部の専門人材の活用も考えられるが,キャリア教育の目標に沿ったさまざまな教育活動の中に組み込まれ,子どもと教師の日常的な人間関係を基礎にした適切なコミュニケーションとして展開される。その一方で,キャリア教育(キャリア・カウンセリングを含む)には,危機介入の視点はなく,特別な援助ニーズがある子どもの問題状況の解決に向けた関係者へのコンサルテーションや専門機関等へのリファーなどは考えにくい。
キャリア教育の推進役には,キャリア発達を促す学習プログラムの開発能力,個別または集団を対象にした基本的なカウンセリングのスキルが不可欠であり,体験的活動の展開には地域の援助資源とのコーディネート能力に加えて,学校の内外に向けて理解と協力を得るための推進活動を積極的に行う意欲が求められる。

生徒指導の実践から
広島県立大学 金山健一

著者は中学教師の経験から生徒指導は,包括的支援モデルに位置づけている。その中でも,学級・学校の満足度の向上が諸問題の改善には不可欠である。学級・学校の満足度の向上とは,良質な学校文化・風土を形成することであり,これは学校教育相談が目指してきた学校観でもある。
学校教育相談は,Fig.1に示す包括的支援モデル(砂時計モデル)を構築し推進することである。児童生徒を砂に見立て,児童生徒が上から落ちてこないように,1次から3次の支援を実施する。水準,対象,領域,方略を,学校の特色を生かしながらコーディネートする。生徒指導・学習・キャリアの3領域に,大野(1998)のいう学校教育相談の中核をなす,子どもと丁寧に<関わる>,学校を組織的に<耕す>,チーム支援で<凌ぐ>,関係機関と<繋げる>ことで機能させ,全児童生徒を総合的に成長させ,人生の基礎づくりを支援ことである。
キャリア教育(進路指導)の実践から
高知県心の教育センター 今西一仁

筆者は,17年間,高等学校において教育相談を担当してきた。教育相談担当者として支援を行うにあたっては,Fig.2のように,保健室等と連携して行う健康面への支援を基盤として,進路面への支援を中心に,学習面,心理・社会面についての支援を行うというイメージで取り組んできた。その理由は,次の2点である。
・進路面への支援を中心に考えていくことによって,問題を抱えた特定の生徒を対象とした3次支援ではなく,すべての生徒を対象に発達を促進する1次支援に焦点を当てやすくなる。
・進路面を主題として考えていくことによって,担任との連携だけでなく,校務分掌間の連携が進めやすくなる。また,その前段階として考えられる個人の特性や能力の伸長,学校や学級・学校への適応の問題についても焦点を当てやすくなる。