The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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中等教育での学びと高等教育での学び

Sun. Nov 9, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 505 (5階)

[JG06] 中等教育での学びと高等教育での学び

たなかよしこ1, 小山義徳2, 河住有希子1, 山口幸太3, 野崎浩成4 (1.日本工業大学, 2.千葉大学, 3.開智学園, 4.愛知教育大学)

Keywords:リメディアル教育, 学びの転換

1.企画趣旨
これまでの自主シンポジウムにおいて,「学力低下とリメディアル教育の実践と課題」(小山ほか2010),「教科学習を支える『学習言語』-生活言語から学習言語」(たなかほか2013)に取り組んできた。しかし,これらは,大学教育での視点に立脚しており,高校から大学への円滑な接続についての議論が不十分であった。そこで,本シンポジウムでは,中学・高校での学びを大学との比較を行うことで,大学入学後に学習方法の変化に戸惑い,円滑な学びの転換ができない学部生に対応するための高等教育の在り方について議論する。なお,初等・中等教育での学びについては,現職の先生に話題提供をしていただく場を設けた。
2.話題提供
話題提供1 ユニバーサル型化する大学での中等教育での学びの生かし方 たなかよしこ(日本工業大学)
70年代の大学のマス化に伴って,中等教育での学習成果を基盤として,高等教育における専門教育に重点を置くという流れが生まれ,大学に入ってすぐに,より専門性の高い教育を行うということが続いた。その後,2000年代以降,大学のユニバーサル化が進むに従って,リメデイアル教育・初年次教育という概念が大学教育に持ちこもれるようになった。
これらの一連の流れは,より大きな視点から見れば,中等教育での学びの成果を,専門教育でどう生かすか,という課題であることが伺える。上述した変化は,換言すれば,受験勉強での学びが充実することによって大学の教養教育の必要性が失われ,同じような「科目」を大学に入ってまで学びたくないという学生からのニーズに即して,大学が変化した後,ユニバーサル化が起こったことに問題の本質がある。
受験戦争がなくなり,大学全入時代においては,中等教育の学びは,より絞られた『学習指導要領の範囲』の中で,教員養成大学を出た教員によって,教員自身が潜り抜けた受験テクニックに依存した学習が実践されてしまうことになるという問題点もある。そのような中等教育での学びの問題点から,「ゆとり教育」が生まれたが,教員自身が経験していない「ゆとり」による豊かな体験や,幅広い知見を育む教授方法は,中等教育段階で成就することがなかったことが,ゆとり批判に結びついたのであろう。
これらの影響から,今日,大学に入って,角度を変えた,視点の広がりを持つ新たな切り口での「今まで学んだことを俯瞰する」という教養教育を成り立たせてはいない。このことは,リメディアル教育や初年次教育と名を変えた教養教育の一部が,単に高校までの学習内容の焼き直しに過ぎないという問題を生み出している。そこには,テストで計る学習内容に対応した「学習内容」を手続き学習として試験に課し,それで「教育の質が計られる」ことになるという危険も孕んでいる。
このような問題は,大前提である,中等教育でのそれぞれの教科の枠組みのままでの学びを大学で再度しようということにある。たとえば,中等教育では「物理」「地学」「家庭総合」「生物」「数学」「英語」という科目によって分断されていたそれぞれ分野の学習を,大学の建築学科における住宅設計に関わる「環境」を学ぶという場合に,それらの科目間を超えて縦横無人に知識が行き来し,つながり,統合することこそが大学で求められる学びのありようである。
本シンポジウムでは,このような学習を支えるものが,言語による定義であり,言語による整理であるという事例を報告する。
話題提供2 中等教育の学び -教師教育の立場から-
小山義徳(千葉大学)
今,「生徒の問う力」を伸ばすことのできる教員が中等教育の現場では求められている。問うということは,学習内容に関わることを言語によって行うことに他ならない。生田・丸野(2004)は「子供たちのほとんどが,授業中に質問を思いついていない」ことを報告している。また,生徒から質問があったとしても,「生徒の質問の82%は,質の低い問い」であることが先行研究では指摘されている(Eshach, Dor-Ziderman & Yefroimsky, 2013)。「教師の問う力」を伸ばす訓練は,「発問」という形で,教師教育の中でこれまでに行われてきた。しかし,「生徒の問う力」を伸ばすことのできる教員の育成は,これまでに重点的に行われてきていない。だが,自ら問いを立てて探求的に学ぶことのできる人材の育成が中等教育で必要なのである。中学生や高校生が,自ら問いを立てることができるようになることの利点は2つある。まず,問いを立てながら授業に臨むことで,注意が焦点化し理解が深まる。次に,自ら問いを立て,その問いについて調べることで探求学習が成立する。そして,調べる過程で新たな問いが産まれ,再び調べるという,自律的に学ぶ学習者の育成にもつながる。生徒の問いの質を高める1つの方法は,モデルとなるような質の高い問いを教員が発し,生徒に真似てもらうことである。しかし,教員の発問の84.5%は,質の低い問いに分類される(Eshach, Dor-Ziderman & Yefroimsky, 2013)との研究もあり,教員の問いが生徒にとって「良いモデル」となっていない可能性がある。
そこで,本発表では「生徒の問う力」を伸ばすことのできる教員の育成を,「1.教員自身の問いの質を向上させる実践」と「2.生徒の問いの質を向上させる実践」の2つの実践に分けて議論したい。1では,教員自身の「問うスキル」を向上し,モデルとなるような問い発することのできる教員の育成方法としてどのような実践が考えられるかについて述べる。2では,中等教育における実践として,問いを成績評価に組み込むこと等を提案したい。
話題提供3 中等教育での学びから広がるアクティビティ実践 河住有希子(日本工業大学)
中等教育にて獲得した知識や経験を大学での学びにおいて,また卒業後に自分自身を支える力へと転換し,卒業後も学び続けることのできる力を獲得することを視野に入れたアクティビティ実践を報告する。
大学での学びにおいては,様々な知識経験は断片的には存在しえない。既有知識の一つ一つを関連付け統合することによって知識を深め,新たな知識をその構造の中に取り込むことによって知見を広めていくことが,大学生の学び方であろう。
そこで,本発表では中等教育での経験の積み重ねから直感的に分かる(気がする)ことを,あえて改めて身体を使って検証し,それらを記述することによって,既有知識を精緻化し新たな知識を獲得することを目的としたアクティビティ実践について報告する。
本発表における活動では,個々の学習者が各々の経験の中で積み上げてきた知識経験をメタ認知するだけでなく,学習者間あるいは社会全体に暗黙知として存在していることについても自覚的になり,言語化する必要がある。このような学びに必要な言語を「学習言語」と呼ぶ。そして学習言語力育成の教育を通して,既有知識を新たな角度から再検討して視点を増やしていくという学習体験を積むと同時に,大学において専門分野を学ぶにあたっての基礎となる中等教育での学習内容への理解を深めることができる。
本発表では工学部生を対象とした学習基盤科目において行っているアクティビティ実践を報告し,話題提供とする。
話題提供4 初等・中等教育の現場から
=算数学と技術= 山口幸太(開智学園総合部)
開智学園総合部は,小中一環教育,中高一貫教育の二本柱を持っている。小中一環教育を行う総合部では,異学年によるクラス編成を行い,クラス活動を行う。小学生から中学生の発達の段階に応じた区切りとして,小学1~4年生,5年生~中学2年生,中学3年生~高校3年生の時期で,それぞれプライマリー,セカンダリー,ターシャリーと呼び,4-4-4制をとっている。プライマリーでは,体験から学ぶ,生活型・能力開発型学習を目標とし,セカンダリーでは,幅広く学ぶ,知識習得型・総合型学習を,ターシャリーでは,専門型学習を目指しています。なお,筆者は,セカンダリーにおいて,算数学と技術科を担当し,クロスオーバーな授業実践を行っている。
算数の授業を続けていると児童の実感と知識にギャップが生じることが多々ある。円の求め方を公式として半径×半径×3.14を知っていてもなぜそうなるのかという事(実感)できていない。1㎝や1mがわかっても,どのくらいが1㎝や1mなのかわからない,ということを感じる。実感のない知識は固形物であり,他とジョイントさせる考え方につながりがない。
一方で実感の伴う知識は流動的に色々なモノを取りこんでいく,物を使うためのアフォーダンスを感じる力もこの実感とセットになっているように感じる。小学校・中学校での実感を伴った学習が知識の作り方を学ぶと思われる。
生徒の実感と知識にはギャップがあり,正方形の算数における定義である「4つの辺と4つの角がそれぞれ等しい四角形」ということを知っていても,正方形を作る事が難しいということを知らない。立体の切断についても頭の中の空間で切断するのではなく,テクニックとして問題を解けるということが技術の授業では良く見られる。そのような現場からの報告を行う。
話題提供5 高等教育の学びで必要な「リテラシー」とは何か -教師に求められるICT活用指導力の育成-
野崎浩成(愛知教育大学)
本研究では,教師に必要な「ICT活用指導力」について考察する。ICT活用指導力チェックリスト(文科省2009)の「D情報モラルなどを指導する能力」に着目し,(1)中学技術家庭科における情報教育の現状と問題点,(2)Twitter投稿による炎上事例,(3)炎上などのトラブルを防止するための情報モラル教育の在り方,(4)高等学校における情報モラル教育の実践事例,などを紹介する。これにより,初等中等教育を担う教師に求められる資質,教員養成の場で,どのような「リテラシー」を学生が身に着けておくべきなのか,などを明らかにする。
附記 科研費(基盤研究(C))「学生の自己評価に基づいた個票による継続的自己教育力育成支援システムの開発と評価」(25330414)の助成を得た。