日本教育心理学会第56回総会

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我が子の発達障害傾向を受容できない保護者の支援

2014年11月9日(日) 10:00 〜 12:00 503 (5階)

[JG07] 我が子の発達障害傾向を受容できない保護者の支援

水野智美1, 徳田克己1, 西館有沙2, 大越和美3, 西村実穂4 (1.筑波大学, 2.富山大学, 3.子ども支援研究所, 4.東京未来大学)

キーワード:発達障害, 保護者, 障害受容

企画趣旨
筆者らは,定期的に多くの幼稚園や保育所を巡回し,気になる子どもを担当する保育者やその子どもの保護者の相談に応じている。その中で,我が子の発達障害傾向をなかなか受容できない保護者が数多くいることを実感している。そのような保護者には,我が子に発達障害の傾向があることに全く気づいていない者から,定型発達児とは違うことに気がついてはいるがなかなか受け入れられない者,訓練などをすれば定型発達児に追いつかせることができると考えて子どもに無理を強いる者など様々いる。
保護者が我が子の発達障害傾向を受容する際にはいくつかの障害受容の過程を経ながら,新しい価値観を獲得することが必要となり,容易に進まない。しかし,発達障害傾向がある子どもにとっては,保護者の受容と適切な対応は最も重要である。保護者がそれをしない限りは,子どもは常に「できない」「わからない」という状態に置かれ,叱られ続けたり,自分はできないと思い続けることになり,二次障害に陥ることになるのである。これらのことから,保護者の障害受容過程を保育者や専門家などが支援することが不可欠である。
そこで,本シンポジウムでは,発達障害傾向のある子どもを持つ保護者が我が子の障害の受容を進められるように,今後どのような支援が求められるのかについて現状をふまえて,議論を深めていきたい。

【話題提供1】
保護者を支援する際に保育者が感じるとまどいとニーズ 子ども支援研究所 大越 和美
私は,以前,保育者として私立の幼稚園と認定こども園に勤務し,発達障害児をはじめとする気になる子どもを主に担当してきた。気になる子どもを保育する際に,その子どもの特性を理解した上で,子どもに最適な対応をするためには,家庭の協力が不可欠である。
しかし,気になる子どもの家庭に協力を求めようと,子どもの様子を保護者に伝えても,子どもの状態に目を向けてもらえないことが数多くあった。具体的には,保育者が気になった子どもの行動を伝えても,保護者は「家庭ではそのようなことはない」と主張したり,保育者の思い過ごしだと感じて取り合ってもらえないことが多かった。さらに,子どもの気になる行動を保護者に伝えたことによって,保護者が保育者と話すことを避けるような場合もあった。
また,子どもの問題行動は保育者の保育技術の未熟さによるのではないかと保護者から言われたり,担任の保育者を替えるように園長や主任に話をされたり,退園すると言われることもあった。
このようなトラブルが生じる背景には,保護者への適切な接し方に関する知識を保育者が持ちあわせていないことがある。このような事態を避けるために,気になる子どもの保護者に,どのような対応の方法があるのかを保育者に伝えていかなくてはならない。

【話題提供2】
保育者に求められる保護者支援
筑波大学 水野 智美
現在,発達障害児を担当する保育者の役割として,その子どもの特性に応じた指導をすることはもちろんのこと,その子どもの保護者の支援が求められている。保育者としても,保護者に子どもの特性を認識してもらい,家庭と幼稚園,保育所が共に,子どもに最善の方法を検討し,それを実施していくことが子どもの発達に重要であると考えている。そのために,保育者は保護者に対して子どもの様子を細かく話したり,連絡帳で伝えることを日常的に行っている。しかし,これだけでは保護者が我が子の状態になかなか気がつけなかったり,「うちの子どもは他の子どもと違うかもしれない」と薄々は感じていても,あえてそれを否認して,保育者の話を聞こうとしないことが多い。
まず,このような保護者に対して保育者に求められることは,集団生活における子どものありのままの姿を保護者に見てもらうことである。それによって保護者の気持ちが揺れ動いたら,保護者の不安をしっかりと受け止めることが重要である。その際に,保育者は保護者が障害を受容する過程でどのように気持ちの変化が起こるのかを知っておかなくてはならない。たとえば,多くの保護者が受容の過程で攻撃的になることがあることを保育者が知っていれば,保護者がそのような状態になった時に,保護者の怒りをやり過ごしつつ,次の受容の段階に促すことができる。
また,これまで園で行ってきた取り組みを伝えていくことが大切である。その際には,どのような対応によって子どもの困っている状態を改善できたのかなどを具体的に話す。その上で,今後,どう対応していく必要があるのかを保護者と検討し,子どもの特性に合った対応を家庭と共に進めていく。

【話題提供3】
保護者支援における専門家の役割
筑波大学 徳田 克己
スクールカウンセラーのように園に専門家が常時いる場合には,専門家が直接保護者と会い,障害受容の過程の支援をすることができるが,そうでない場合には専門家は保育者のアドバイサーとなり,保育者が保護者を支援する活動を支えるべきである。特にトラブル防止の関わり方やトラブル時の対応についての専門家のアドバイスは必須である。しかし多くの園では,厄介なこの問題をすべて専門家に任せたいと考えている。これまで私自身も園から依頼されて巡回指導している園で直接,保護者に会って障害受容過程の支援をしてきた。結果的に多くのケースでは保護者は受容の方向に進んだが,問題点も浮き彫りになった。常に園にいない専門家では,保護者の気持ちの変化にすぐに対応できないこと,保育者がこの問題は自分の仕事の範囲ではないと考えてしまうこと,保護者が強く否定してトラブルになった場合に園は専門家に責任を押し付けようとすることなどである。
現時点で我々が最も効果的であると考えているのは,保護者に対する心理教育である。その中では,発達障害をわかりやすく伝え,子どもの状態を最も把握しているのは親でも医師でもなく保育者であること,子どもの問題行動に背を向けることは子どもの二次障害につながること,子どもに「わからない状態」を長く続けさせることはある種の「虐待」であること,子どもに合った育児と保育・教育で,問題行動は軽減し,いろいろな点で大きく発達していくことなどである。年間約50回実施しているが,その効果の大きさに我々も驚いている。

【話題提供4】
今後の保護者支援の在り方についての提案
東京未来大学 西村 実穂
保育者は日々の保育を行い,そのうえで保護者の支援を行っている。このような状況で保育者が保護者支援を行うには限界がある。そこで,保護者支援のために保育者以外の専門職を活用することを提案したい。
保育者以外の専門職として,保健師が挙げられる。気になる子どもの保育を行う場合には,地域の療育機関や病院と連携をとる必要があり,保育所,幼稚園のなかだけでは対応できないケースが多い。保健師は,障害のある子どもや支援の必要な子どもが活用できる地域の資源や病院の情報を把握しており,保護者に情報提供を行ったり,支援機関と保護者をつないだりすることができる。また,保健師は子どもが保育所,幼稚園を卒園した後も継続的に子どもや保護者に関わることが可能であり,継続した支援行うためのキーパーソンとなることが可能である。
一方で,保健師の養成課程のなかで発達障害や発達障害児の保育について学ぶ機会は少なく,保健師の発達障害についての知識が乏しいという課題があり,保護者支援における保健師の活用のためには発達障害について学ぶ機会を設ける必要がある。