日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PA

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PA001] 教師の「いじめ」認識と学校現場における「いじめ」の言葉の用いられ方

教師を対象としたインタヴュー調査から

中野真也 (文教大学)

キーワード:いじめ, 教師

問題と目的
1980年代に教育問題として成立した「いじめ」は,強者が弱者に一方的に継続的に行う「弱いものいじめ」であった。それが数度の「いじめ」の社会問題化によって様々な施策が行われる中で,いじめ自殺など深刻な事件を繰り返さない目的のもとで定義が拡大し,被害側の主観的な苦痛をベースにしたものへと変化してきた(中野,2014)。しかし,こうした「いじめ」の定義やそれに基づいた対応が,学校現場で実際にどのようになされているかは明らかでないと思われる。
本研究は,学校現場におけるいじめ問題の理解と対応の実際を把握し,関わる諸要因を明らかにする目的で,教師にインタヴュー調査を実施した。その結果の一部として,教師の「いじめ」認識と学校現場における「いじめ」の言葉の用いられ方について示し,考察を行う。
方法
調査期間 2013年5月7日~8月28日
対象 公立中学校に勤務する教師16名(男性11名,女性5名)。年齢は20代半ば~50代。
調査方法 予め用意したインタヴュー項目による半構造化面接。内容は,①「いじめ」をどのように捉えているか,「いじめ」という言葉をどのように用いているか(教師,子ども,保護者),②いじめ問題とその対応,③関わる諸要因,④「いじめ」の時間的変化や困難さ,などについての質問(本発表は①にあたる)。
分析方法 音声データを逐語化し,MGTAの手続きに準拠する形で行った。但し,幅広く共通概念を拾い上げるため,全ての対象者のデータを概念化し,その整理・検討をした上で概念名をつける形で分析を行った。
結果
教師の「いじめ」認識 文科省による定義に準じた,被害生徒が嫌だ・苦痛を感じることを「いじめ」とする〈主観的な苦痛としての「いじめ」〉を採用していることが示された。しかし,〈範囲の広さ・曖昧さ〉や,「いじめと言えばいじめ」として対応すること,嫌なことを全ていじめとすると対応仕切れないといった〈主観的定義への疑問〉なども見られた。また,加害側の生徒に悪意があるかなど〈独自の定義〉の採用や,以前のいじめ定義の要件であった「強者弱者の関係」や「継続性」,「一方的に」など〈客観的ないじめ要件〉を考慮していることが明らかとなった。このことは,いじめ問題などの対応において〈今後学校生活をどう過ごすか〉という,子どもたちの関係性や成長を考えた上で指導・対応に当たることを教師が重視しているためと考えられた。加えて,「いじめ」とされるか否かに関わらず〈やってはいけないことへの指導〉を行っていることが明らかとなった。
「いじめ」の言葉の用いられ方 子どもは〈からかい・冗談〉や,〈些細なことでの「いじめ」表現〉など,本来的でない用い方をしていた。保護者においても,〈「いじめ」としての訴え〉がすぐ,ちょっとしたことで出てくる傾向が挙げられた。一方で,深刻な被害の子どもは〈「いじめ」と言わない〉で,〈具体的な行為での訴え〉をすることが分かった。また,「いじめ」の言葉の使うと〈加害者を作る〉ことにつながったり,その〈曖昧さ〉という問題点があるため,教師は〈「いじめ」を用いない〉で,〈代わりの言葉を用いる〉という配慮を行うと共に,子どもへの指導で役に立つ場合に「いじめ」を用いる〈実用主義的使用〉を行っていることが明らかとなった。なお,個別で見ると,学校の特徴や地域性,指導の仕方によって大きな違いがあった。
考察
文科省による定義や方針を受けつつも,教師が個々に「いじめ」の捉え方や指導に工夫を凝らしていると考えられた。いじめ防止というだけでなく,子どもたちが今後の学校生活をより良く送れるかという現実的な課題があり,その上で指導を行っているためと思われる。また,「いじめ」の言葉の広まりにより,それぞれの立場でさまざまな使われ方や影響が生じており,用いる際の配慮や工夫が行われているものと考えられる。
文献
中野真也(2014).「いじめ」がどのように語られ,変化してきたか 子どもの心と学校臨床,10,119-129.