日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PA

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PA002] 職員室はいかに意味づけられているか

現役教員の語りからの検討

佐藤昭宏 (北海道大学大学院)

キーワード:職員室, インタビュー

問題意識と研究目的

現在の学校や,教員をとりまく困難な状況を受け,教員の執務の場であり,授業の合間の休憩などをはじめとする「生活行為」の場ともされる,職員室への関心が高まっている(藤原・竹下,2012)。
しかしながら,実際に職員室に在席する教員の目線から,職員室を検討しようとした研究は未だ少ない。職員室から,困難な状況に置かれている教員を支えるための方策を考えるには,教員自身が,職員室をいかに体験し,いかに意味づけているかを理解する必要がある。
そこで本研究では,教員が語る言葉から,職員室がいかに意味づけられる環境となっているかを明らかにしようと試みた。

研究方法

方法
「職員室をどのような場と考えているか」,「これまでの職員室はどのような場であったか」という質問を事前に設定し,その回答に応じて調査者が適宜追加質問を行うという,半構造化面接法を採用した。
調査対象
A,Bの2名。
Aは教員経験年数30年で,中学校の校長職を務めている。現在までの述べ勤務校数は8校である。教諭時代は主に中学校で数学を担当し,初任校で小中学校の並置校,管理職になってから2校の小学校での勤務を経験している。
Bは教員経験年数28年で,小学校の校長職を務めている。正式採用されてからの勤務校数は5校である。教諭時代は小学校に勤務し,管理職になってから1校の小中学校並置校と,1校の中学校での勤務経験がある。

結果と考察

結果の考察に際し参考にしたのが,言葉を話者の世界観,世界の見方とする,バフチンの言語論(1996)である。それに基づくと,職員室は,学校を取り巻く状況や構成人員によって多様な意味づけがなされながら,一貫して,「多声的な場」となっていると考えられた。この「声」とは,それを発する者の人格,情動や意志,意図などを意味する広汎な概念である(バフチン,前掲)。以下〈〉は筆者が見出した職員室への意味づけを,『』は実際に得られた語りの引用を示している。
まず職員室には,教員自身の声が響いている。後輩教員が先輩教員に日々の実践についての指導を求め,先輩教員がそれに応えるといった声の対話がその代表例である。
他方,職員室内の対話には,地域住民や保護者,関係組織の声なども響いている。
Aは職員室を,〈教員を束ね,揃え,まとめる場〉と意味づけていた。多くの教員が席を共にする分,職員室では教員間の対立関係も生じうる。一例が全国学力学習状況調査を行おうとする管理職と,それに反対する一般教員とのやりとりである。この対話において発せられる管理職,一般教員の声は,調査を実施しようとする教育委員会,それを拒否しようとする教員組合という,学校外の組織の声を代弁するものとなっていた。
Bは3校目の赴任校の〈違和感を感じる場〉としての職員室で,自分の声を他の同僚に響かせるため,『地域住民を味方につける』という試みを行った。それは具体的には,『役場のさ,課長さんそうやって言ってたよ』という,地域住民の声の引用を行うことであった。
以上の結果から,職員室には多くの声が響いており,職員室への意味づけは,それらの声の多様な相互関係から生成されていくものであることが示唆された。今後職員室から教員支援を考えるにあたっては,こうした職員室が持つ多声性を念頭においた上で,声同士がいかなる関係にあるのかを検討していく必要があると考える。

引用文献

バフチン,M.M. (1996).『小説の言葉』(伊東一郎訳).平凡社.
藤原直子・竹下輝和.(2012).『中学校職員室の建築計画:教員の教育活動を支える学校・校舎』.九州大学出版会.