日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PA

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PA004] ピア・メディエーション(PMTP)を活用した仲裁的思考を育むプログラムの開発

松山康成1, 池島徳大2 (1.大阪教育大学大学院, 2.奈良教育大学)

キーワード:ピア・メディエーション, いじめ防止, 開発的生徒指導

【問題と目的】
森田・清水(1994)が指摘するように、いじめ防止には傍観者や仲裁者への着目が重要である。だが、これまでのいじめの傍観者や仲裁者に関する研究では、介入行動を抑制する要因についての検討が多く(例えば渡部,2000)、傍観者や仲裁者に視点を置いた、直接的に仲裁的行動や援助的介入行動を支援するような研究は少なかった。
このようなことから松山・池島(2013)はその支援及び対立問題に修復的に関わることを目指し、ピア・メディエーショントレーニングプログラム(PMTP:Peer Mediation Training Programs)を開発している。それは学校教育において展開され、学級適応やスキル獲得など一定の効果があることを明らかにしているが(例えば池島・吉村,2013)、実際に対立場面で活用されているか、対立に介入しようという思考を育めたかという検討はなされていなかった。また、Olweus(2007)はいじめの防止とその介入におけるピア・メディエーションの活用には、学級において他者の対立に介入できる安心感を、学級担任が主導となって形成していく必要性を示しており、Cremin(2011)はその安心感を形成するワークとして、サークル・タイムの導入を薦めている。
そこで本研究はこのようなことを踏まえて、小学校5年生を対象に、学級においていじめや対立問題に仲裁的に関わろうという思考を育むためのプログラムを、ピア・メディエーションを活用して開発し、その導入効果の検討を行う。
【方法】
①対象:A府内の公立小学校5年生1学級38名(男子20名、女子18名)。効果を見るために、統制群として同じ学校、同学年の別の学級37名(男子19名、女子18名)にアンケートの回答を求めた。
②時期:X年9月上旬から11月下旬に全14回(1回45分)の授業を総合的な学習の時間に行った(Table1)。
③効果測定材料:対立・対人葛藤場面においての行動方略を測定するために、プログラム導入前後に山岸(1997)の対人交渉方略尺度を実施した。また、プログラム導入後に、いじめ及び対立場面における仲裁的思考を測定するために、越智(1987)の援助的介入質問紙を実施した。
【結果】
①対人交渉方略:尺度で示されている3つの対立場面において、プログラム導入による行動方略の変化を統制群と比較して検討するために、介入群、統制群それぞれのプログラム導入前後の結果を、t検定を用いて検定した。その結果、示された9つの方略の中で、「じゃんけんをする(t(69)=1.93,p<.05)」と、「説明をしてどいてもらう(t (72)=-2.25,p<.05)」という方略に有意差が見られた(Table2)。
②援助的介入:質問紙にて示された8つの場面(傍観者の有無,各4場面)において、介入群と統制群での援助的介入的傾向の見られた割合(Table3)を、χ2検定を用いて検定した。その結果、有意差が認められた(p<.05)。また、傍観者の影響を明らかにするために、場面に分けて整理した(Table4)。
【考察】
結果①より、対話により修復的に対立に向き合おうという思考が定着したことが確認できた。また、結果②より、いじめ及び対立場面で仲裁者として介入する割合が統制群と比較して高いこと、そして傍観者の有無の影響がないことが確認できた。以上の結果より、本研究が仲裁的思考に影響を与えることが示唆された。実際のプログラム後の子どもたちの様子を見てみると、同級生の対立場面への関わりは消極的であったが、下級生の対立・けんか場面において介入する姿がしばしば見られた。
同級生の問題に介入することに消極的である要因には、ピア・プレッシャー(仲間からの圧力)の影響が推察される。よって、学級担任が主導となり学級の安心感を形成していくことは、いじめ予防、防止には極めて重要であり、それが学校全体で行われることが望まれる。今後は仲裁的思考とピア・プレッシャー、そして安心感との関連について検討し、子どもが対立問題に修復的に向き合える学級・学校環境の構築を目指していきたい。