日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PA

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PA005] ポストモダンにおける大学生の成長モデルと時間的展望獲得に関する探索的研究(1)

川上正浩1, 坂田浩之1, 佐久田祐子1, 奥田亮1 (大阪樟蔭女子大学)

キーワード:大学生, ポストモダン, 成長

問題と目的
本研究の目的は,大人社会の権威が失墜して,“大きな物語”を喪失し,価値観が多様化したポストモダンを生きる現在の大学生にとって,成長とは実際どのようなものであるかを把握することにある。日本の大学教育に導入されてきた学士力など“新しい能力”(松下,2010)の獲得を目指す教育は,ポストモダンを生きる大学生に対して,どんな状況,どんな文脈においても対応できる術を身につけさせようとするものだと言うこともできる。こうした現況において,現在の大学生の成長の実際を正しく把握し,現在の大学生に時間的展望を与える“大人になる”“成長する”イメージを提供することは,大学教育に携わる者にはもちろん,一般社会にとっても有益なことである。
本研究は,大学生が4年間の学生生活の中でどのように成長するのか,その実際を記録し,その記録を分析し,いくつかの変容パターン(成長モデル)を抽出することを目指すが,本発表では大学入学から2年次春の変容パターンを提示する。
方法
調査対象者 奈良県のO女子大学に所属する大学生28名。
実施時期 1年次入学時(2011年4月),1年次秋(同11月),および2年次春(2012年5月)。
調査内容 調査対象者に対し,上記調査時期の3時点で,表1のような大学生活の実際と現在の思いに関する質問について一問一答形式で回答を求めるインタビューを行い,それをデジタルビデオで記録した。

結果と考察
インタビュー内容を書き起こし分析対象とした。本研究ではこれからの過ごし方についての問い(Q1)に対して “楽しく過ごしたい”“充実させたい”といった漠然としたビジョンが述べられるか具体的な目標に言及されるか,また不安(Q3)に対して,進路や就職といった長いスパンの不安(卒業後不安)に言及されるか,に注目した。
Q3において卒業後不安に言及のない者は9名であり,これらのうち6名が,3回のインタビュー中,2回あるいは3回,Q1において,“楽しく過ごしたい”と漠然としたビジョンを述べている。またQ3において毎回卒業後不安に言及した者は2名であった。彼女らはQ1において,1回あるいは3回“楽しく過ごしたい”と漠然としたビジョンを述べており,卒業後不安を感じながらも漠然とした目標と現状のとらえ方をしていることがうかがえる。Q3において,入学当初は卒業後不安への言及がないが徐々にこうした不安に言及する者は17名おり,これが彼女らのメジャー層である。その中には,将来について気になりだすも現状の目標としては,とりあえず“楽しく”と漠然とした目標のまま日常を過ごすもの(8名)と,資格などの具体的な目標に言及しだすもの(9名)とに大別される。後者の者は,入学当初の不安として,“友人関係”に対する不安が述べられないことが特徴である。
以上から,一定の長期的な将来への時間的展望に基づくと考えられる不安をほとんど持たない,あるいは不安を過剰に抱えていることが,“終わりなき日常”(宮台,1995)としての大学生活に楽しみを求める態度につながることが示唆された。前者は将来に対する自覚のなさや輝かしい将来の見えない現実に対する適応,後者は不安に対する逃避的態度が示されていることが考えられる。また適度な時間的展望とそれに伴う不安が,具体的な目標の意識につながることが考えられる。ただし,大学生活の進行に伴い将来への不安が高まる場合でも,目標を考え始める者とそうでない者とがおり,後者は身近な現実である交友関係に不安を抱いているため,まず日常の“楽しく”を優先している可能性がある。あるいは,自分のまわりに漂う慢性的な空虚感を取り払うために一生懸命楽しもうとしている(香山,2002)可能性もある。
本研究で得られた大学1年次から2年次春の成長プロセスに関する仮説は,4年間を通じての成長を追うことで検証される必要がある。