日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PA

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PA007] 過去の教師との関わり経験と教師関係への動機づけの関連

中井大介 (愛知教育大学)

キーワード:教師, 信頼感, 動機づけ

問題と目的
対人関係の形成や維持の過程に関わる規定要因の一つに対人関係に対する「動機づけ」がある。生徒も教師関係を形成・維持する際,個々に異なる動機づけに基づき教師に対する働きかけを行っていると推察される。
近年,対人関係をこのような動機づけの観点から概念化する理論の1つとして,Ryan & Deci(2000)の提唱した「自己決定理論」が着目されている(岡田,2005)。この自己決定理論に基づき,友人関係や親密な人間関係における「動機づけ」の過程が検討されている(Blais, Sabourin, Boucher & Vallerand, 1990;Richard & Schneider, 2005)。
しかし,生徒の教師関係に対する動機づけの観点から教師‐生徒関係の個人差が生じる過程を検討した研究は少ない。他の対人関係領域において動機づけの過程が存在することを踏まえれば,教師‐生徒関係においても生徒の教師関係への動機づけの過程が存在すると考えられる。
以上を踏まえ,本研究では生徒の教師関係への動機づけがどのような要因によって規定されているのかを検討するため,生徒の教師関係への動機づけと,過去の教師との関わり経験との関連を検討する。
方 法
調査対象・調査時期 A県の3つの公立中学校について1クラス単位の調査を実施した。内訳は中学1年生157名,中学2年生 175名,中学3年生 151名,合計483名。この調査対象者は中井(2014)と同一の対象者であった。
調査内容 調査内容 ①教師関係への動機づけ尺度(4因子):中井(2014)が作成した尺度を使用した。②過去の教師との関わり経験尺度:中井・庄司(2009)が作成した尺度を使用した。
結果と考察
生徒の過去の教師との関わり経験が教師関係への動機づけに及ぼす影響を検討するため,各変数の相関係数による仮説モデルを構成し,最尤推定法による構造方程式モデリングで検討した。適合度指標はGFI=.995,AGFI=.962,CFI=.999,RMSEA=.022であった。次に性別の相違の有無の検証を行うため,それぞれ多母集団同時分析を行い,各群について最尤法を用いてパラメータの推定を行った。その結果,「親密・承認経験」「受容経験」といった過去のポジティブな関わり経験は,男女とも「内的調整」「同一化」といった自律的動機づけを高めること,一方,数値は低く,男女によっても異なるが統制的動機づけである「取り入れ」「外的調整」も高める可能性が明らかになった。「傷つき経験」は男女とも「取り入れ」「外的調整」といった統制的動機づけを高め,女子では「内的調整」を低減することが明らかになった。「不信経験」は男子で「取り入れ」を高め,女子で「取り入れ」を低減することが明らかになった。
これらの結果から,生徒の過去の教師との関わり経験が生徒の教師関係全般への動機づけに関連し,その様相は男女によって異なることが明らかになった。この結果からも,教師-生徒関係の形成過程は,生徒側の要因と相互作用を繰り返すことで次第に形成されるプロセスであると考えられる。