[PA008] 過去の否定的経験と大学・大学院専攻志望動機との関連についての研究(3)-2
専攻志望動機及び専攻に対する期待に関する量的データの予備的検討
キーワード:心理学, 専攻志望動機, 期待
問題・目的
これまで筆者らは,心理学専攻の動機には自分の過去の否定的経験があり,心理学を学ぶことで否定的経験にまつわる問題を解決しようとしているのではないかという仮説を立て,検証してきた。その結果,心理学に自他の問題解決を期待するのは一般的なことであるが,専攻を選択するにあたり,心理学系学生は自己の否定的経験が契機となり,心理学を学ぶことで結果的に問題を解決しているという様が推測された(金綱・谷口, 2012;谷口・金綱,2013)。
しかし一方で,これらの現象が心理学独自のものなのか,他の専攻についても同様にみられるものなのかは分からなかった。そこで金綱・谷口(2013),谷口・金綱(2013)では,改めて心理学系・非心理学系専攻の両学生に,自身の専攻を志望した動機と,その専攻に期待することについて,量的な検討を試みた。ところがそこで報告した因子分析及びt検定結果について誤りが認められたため,本発表ではその改訂結果を報告する。
方法
関西圏私立四年生大学心理学系学部在籍の学生100 名 (男子:48 名,女子:52 名) 及び非心理学系学部在籍の学生80 名 (男子:45 名,女子:35名) を対象に無記名自記式質問紙による調査を実施した。質問紙は専攻動機を尋ねるものと,専攻に期待するものとの2種類から成った。
結果・考察
大学の専攻志望動機については,83項目全てを分析対象として因子分析(最尤法・プロマックス回転)を実施した結果,「自他経験・問題解決」,「現実的欲求充足」,「専門性獲得」の3因子が抽出された。これら3因子の得点を従属変数としたt検定を実施したところ,自他経験・問題解決因子得点及び専門性獲得因子得点については,心理学系学生は非心理学系学生と比べて有意に高い得点を示した一方で,現実的欲求充足因子得点においては,非心理学系学生が有意に高い得点を示した(表1参照)。しかしながら「専門性獲得」以外の平均値は3.00を下回っており,実際の専攻動機として適当でないことが分かった。
また大学の専攻に期待することについては,44項目全てを分析対象として因子分析(最尤法・プロマックス回転)を実施した結果,「自他理解・問題解決」,「一般的スキル獲得」,「専門性獲得」,「社会貢献」,の4因子が抽出された。これら4因子の得点を従属変数としたt検定を実施したところ,自他理解・問題解決,専門性獲得については心理学専攻学生が非心理学専攻学生より有意に高い値を示した。一方,一般的スキル獲得因子得点は非心理学専攻学生の方が高く,社会貢献因子得点については有意差がみられなかった。平均値から「自他理解・問題解決」及び「専門性獲得」のみが,心理学の期待として有意なものと考えられた(表2参照)。
以上の結果から,二つの問題が示された。まず1つは,否定的経験を動機として挙げる者が心理学専攻学生の方に相対的に多かったという結果(金綱・藤本,2012)と一致しなかったことである。2つ目は,今回取り上げた動機の質問項目は本研究で対象とした専攻に有意にはあてはまらなかったことである。何が本来の専攻動機となっているのか,研究法も含めて再度検討していきたい。
これまで筆者らは,心理学専攻の動機には自分の過去の否定的経験があり,心理学を学ぶことで否定的経験にまつわる問題を解決しようとしているのではないかという仮説を立て,検証してきた。その結果,心理学に自他の問題解決を期待するのは一般的なことであるが,専攻を選択するにあたり,心理学系学生は自己の否定的経験が契機となり,心理学を学ぶことで結果的に問題を解決しているという様が推測された(金綱・谷口, 2012;谷口・金綱,2013)。
しかし一方で,これらの現象が心理学独自のものなのか,他の専攻についても同様にみられるものなのかは分からなかった。そこで金綱・谷口(2013),谷口・金綱(2013)では,改めて心理学系・非心理学系専攻の両学生に,自身の専攻を志望した動機と,その専攻に期待することについて,量的な検討を試みた。ところがそこで報告した因子分析及びt検定結果について誤りが認められたため,本発表ではその改訂結果を報告する。
方法
関西圏私立四年生大学心理学系学部在籍の学生100 名 (男子:48 名,女子:52 名) 及び非心理学系学部在籍の学生80 名 (男子:45 名,女子:35名) を対象に無記名自記式質問紙による調査を実施した。質問紙は専攻動機を尋ねるものと,専攻に期待するものとの2種類から成った。
結果・考察
大学の専攻志望動機については,83項目全てを分析対象として因子分析(最尤法・プロマックス回転)を実施した結果,「自他経験・問題解決」,「現実的欲求充足」,「専門性獲得」の3因子が抽出された。これら3因子の得点を従属変数としたt検定を実施したところ,自他経験・問題解決因子得点及び専門性獲得因子得点については,心理学系学生は非心理学系学生と比べて有意に高い得点を示した一方で,現実的欲求充足因子得点においては,非心理学系学生が有意に高い得点を示した(表1参照)。しかしながら「専門性獲得」以外の平均値は3.00を下回っており,実際の専攻動機として適当でないことが分かった。
また大学の専攻に期待することについては,44項目全てを分析対象として因子分析(最尤法・プロマックス回転)を実施した結果,「自他理解・問題解決」,「一般的スキル獲得」,「専門性獲得」,「社会貢献」,の4因子が抽出された。これら4因子の得点を従属変数としたt検定を実施したところ,自他理解・問題解決,専門性獲得については心理学専攻学生が非心理学専攻学生より有意に高い値を示した。一方,一般的スキル獲得因子得点は非心理学専攻学生の方が高く,社会貢献因子得点については有意差がみられなかった。平均値から「自他理解・問題解決」及び「専門性獲得」のみが,心理学の期待として有意なものと考えられた(表2参照)。
以上の結果から,二つの問題が示された。まず1つは,否定的経験を動機として挙げる者が心理学専攻学生の方に相対的に多かったという結果(金綱・藤本,2012)と一致しなかったことである。2つ目は,今回取り上げた動機の質問項目は本研究で対象とした専攻に有意にはあてはまらなかったことである。何が本来の専攻動機となっているのか,研究法も含めて再度検討していきたい。