[PA023] 自尊感情と学校享受感に関する日中比較
東京都版自尊感情尺度を使って
Keywords:自尊感情, 日中比較, 学校享受感
自尊感情に関する国際比較研究からは,日本の子どもたちの自尊感情得点が低いことを示すものが多い。日本青少年研究所(2011)が発表した日・米・中・韓4か国の調査を見ても「わたしは価値のある人間だと思う」「自分に満足している」などで,日本の高校生が最も低くなっていた。一方,こうした国際比較研究の結果に対して,文化的な違いを根拠に考察されることが多かった。たとえば,日本文化の特徴として挙げられる「謙遜の美徳」や「恥の文化」(人との関係を重視し世間体等を重んじる国民性)から,他者との協調性や調和を重視するという傾向である。しかし昨今,学校教育でも個性が重んじられ自己主張や自己決定が求められるにつれ,日本人の価値観や考え方にも大きな変化が見られるようになってきたとの見方もある。本研究では,東京都版自尊感情と学校享受感に注目しつつ,日本と中国の比較を行いたい。
方 法
調査時期と調査対象者 日本では2009~2010年にかけて,首都圏の中学校(6校,1~3年計1144名),高校(3校,1~3年計1564名)の児童・生徒。一方,中国では2011年に,中高一貫校(2校,中・高校1~3年計1029名)に実施した。
調査内容 ①『東京都版自尊感情尺度』(伊藤・若本,2010):<自己評価・自己受容:(「自分のこと
好きだ」等8項目><関係の中での自己:「私には自分のことを理解してくれる人がいる」等7項目><自己主張・自己決定:「自分の判断や行動を信じることができる」等7項目>の3因子22項目。②『学校享受感尺度:「学校のことが好きだ」等』(古市,1991)1因子10項目。4件法で実施。
結果と考察
自尊感情・学校享受感得点の日中比較
自尊感情尺度3因子「自己評価・自己受容」「関係の中での自己」「自己主張・自己決定」,および学校享受感得点を比較した(Table1)。その結果,自尊感情は3得点とも,日本より中国の方が高かった。ところが,学校享受感については,中国より日本の方が高いことが明らかになった。自分に対する“評価”でもある自尊感情においては日本の子どもたちの自己評定は低いが,“学校の楽しさ”という面では,むしろ日本の子どもたちの方がポジティブであることが確認された。
学校享受感を従属変数,自尊感情3得点を独立変数とした重回帰分析
日本では,学校享受感に対し<関係の中での自己>が最も影響力が強く,<自己評価・受容><自己主張・決定>は弱いながらも正の影響力が有意であった。他方,中国では<自己評価・受容>と<関係の中での自己>が正の影響力を持ち,<自己主張・決定>は負の影響力が有意であることが明らかになった。日本では,人間関係による自信が学校の楽しさを最も強く支えるが,中国では,自己評価的な側面と人間関係の中での自己がほとんど同じ比重で重視される一方,自己主張や自己決定という面での自信は,学校享受感にはむしろマイナスの影響をもつことが示された。
付 記
*本研究は,2012年度までの3年間行われた慶應義塾大学(伊藤)と東京都の共同研究の一部である。発達心理学会第25回大会で発表予定であったが,当日出席できず取り下げた内容と同一である。
方 法
調査時期と調査対象者 日本では2009~2010年にかけて,首都圏の中学校(6校,1~3年計1144名),高校(3校,1~3年計1564名)の児童・生徒。一方,中国では2011年に,中高一貫校(2校,中・高校1~3年計1029名)に実施した。
調査内容 ①『東京都版自尊感情尺度』(伊藤・若本,2010):<自己評価・自己受容:(「自分のこと
好きだ」等8項目><関係の中での自己:「私には自分のことを理解してくれる人がいる」等7項目><自己主張・自己決定:「自分の判断や行動を信じることができる」等7項目>の3因子22項目。②『学校享受感尺度:「学校のことが好きだ」等』(古市,1991)1因子10項目。4件法で実施。
結果と考察
自尊感情・学校享受感得点の日中比較
自尊感情尺度3因子「自己評価・自己受容」「関係の中での自己」「自己主張・自己決定」,および学校享受感得点を比較した(Table1)。その結果,自尊感情は3得点とも,日本より中国の方が高かった。ところが,学校享受感については,中国より日本の方が高いことが明らかになった。自分に対する“評価”でもある自尊感情においては日本の子どもたちの自己評定は低いが,“学校の楽しさ”という面では,むしろ日本の子どもたちの方がポジティブであることが確認された。
学校享受感を従属変数,自尊感情3得点を独立変数とした重回帰分析
日本では,学校享受感に対し<関係の中での自己>が最も影響力が強く,<自己評価・受容><自己主張・決定>は弱いながらも正の影響力が有意であった。他方,中国では<自己評価・受容>と<関係の中での自己>が正の影響力を持ち,<自己主張・決定>は負の影響力が有意であることが明らかになった。日本では,人間関係による自信が学校の楽しさを最も強く支えるが,中国では,自己評価的な側面と人間関係の中での自己がほとんど同じ比重で重視される一方,自己主張や自己決定という面での自信は,学校享受感にはむしろマイナスの影響をもつことが示された。
付 記
*本研究は,2012年度までの3年間行われた慶應義塾大学(伊藤)と東京都の共同研究の一部である。発達心理学会第25回大会で発表予定であったが,当日出席できず取り下げた内容と同一である。