日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PA

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PA028] ク?ルーフ?メンハ?ーとの握手は協同問題解決を促進するか

山田陽平1, 中山留美子1 (奈良教育大学)

キーワード:握手, 協同問題解決, 社会的動機づけ

本研究では,協同で問題を解く学生間で握手することが,問題解決を促進させるかどうかを検討する。問題解決場面では,他者視点や異なる視点から問題を眺めることによって,解にたどり着きやすくなる(小寺ら, 2011; 林ら, 2007)。したがって,協同で問題を解くメンバーが積極的に自分の回答を提案できれば,正答を導き出しやすくなると考えられる。握手は援助行動を促したり,他者への安心感を高めたりすることから(Levav & Argo, 2010),グループ内での発言がしやすくなるはずである。その結果として,さまざまなメンバーの視点が用いられ,問題解決が促進されるのではないかと予測した。

方法
参加者 大学生177名を握手群(n = 86)とジャンケン群(n = 91)に分け,一つのグループは3名から5名で構成した。課題を指示通りに完了しなかったグループは分析から除いた。そのため,握手群で17グループ,ジャンケン群では20グループを分析対象とした。
問題解決課題 レーヴン上級漸進的マトリックス(Raven's Advanced Progressive Matrices: 以下APMとする)の中の10問を用いた(Raven, 1962)。
質問紙 握手によってグループ活動に対する動機づけが変化するかどうかを調べるために,協同学習場面における社会的動機づけ尺度(中西ら, 2014)を用いた。回答は5件法で行われた。
手続き 実験は集団形式で行われた。APM課題の説明を行った後,各課題の前にグループで握手またはジャンケンをするよう指示した。全てのグループが握手/ジャンケンを完了させた後,一斉に問題を解いた。各問題はチームで話し合って,一つの答えに決めるよう指示した。一つの問題につき制限時間は90秒であった。1試行は握手/ジャンケン,問題解決課題の順であり,フィラー2試行を含め12試行繰り返した。全ての課題が終了した後,社会的動機づけに関する質問紙を実施した。

結果
正答数の分析 握手群の平均正答数は5.35(SD = 1.37),ジャンケン群は5.80(SD = 1.44)であった。正答数に対して,対応のないt検定を行ったところ,有意な差は認められなかった(t(35) = 0.96, p = .341)。つまり,課題前に握手することはジャンケンすることに比べて問題解決を促進しなかった。
社会的動機づけ尺度 握手群,ジャンケン群ごとに,各下位尺度の平均値を算出した。各下位尺度の平均値に関して,対応のないt検定を行ったところ,「メンバーからの被評価動機(握手群:2.85 vs. ジャンケン群:3.25)」,「メンバーからの被嫌悪回避動機(握手群:2.94 vs. ジャンケン群:3.36)」,「他者からの知識影響に対する動機(握手群:3.57 vs. ジャンケン群:3.82)」において,有意な差が認められた(ps < .05)。つまり,グループ内のメンバーから評価されたい,嫌われたくないという動機づけ,および異なる考え方に触れたいという動機づけは,ジャンケン群よりも握手群で低かった。

考察
本研究では,課題前の握手は協同問題解決を促進しなかった。その理由として,比較対象としたジャンケン群においても,協同問題解決を促進していた可能性が考えられる。すなわち,ジャンケンというメンバーとの闘争状況は,攻撃行動を促し,協同問題解決場面においては,「自分の回答を積極的に提案する」という形で攻撃行動があらわれたのかもしれない。
一方,握手群は,握手することによって他者に援助しようと思う,あるいは他者への安心を感じることで,援助・信頼行動として「自分の回答を積極的に提案した」のではないだろうか。実際,握手群は,グループメンバーから評価されたい,あるいは嫌われたくないという動機づけが低かった。この結果は,握手によってグループメンバーに対する安心感が高まり(Levav & Argo, 2010),メンバーから評価されることに対して敏感ではなくなったと解釈することができる。その結果,安心できるメンバーに対して,積極的に自分の回答を提案したのではないかと考えられる。
握手,ジャンケン両者の行為は,協調と闘争という正反対の行動ではあるが,協同問題解決場面においては,どちらの行為を行っても,グループ内で個人が意見しやすくなり,結果として問題解決が促進されたのではないかと考えられる。