日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PA

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PA043] 大学における反転授業の実証的研究

アクティブラーニングの観点から

森朋子1, 宗村広昭2, 本田周二2, 溝上慎一3 (1.関西大学, 2.島根大学, 3.京都大学)

キーワード:反転授業, アクティブラーニング, 協調的学習活動

研究の目的と背景
20世紀後半にアメリカで生まれ,草の根で広まった反転授業は,説明中心の講義をeラーニング化することで学習者に事前学習を促し,対面授業では協調的な学び合いや,教員による個別指導,そして発展的な学習内容を扱うひとつの授業フレームである。その効果を検証する実践的研究はまだ少なく,多くの先行研究は反転授業をブレンディッドラーニングとして捉えている(Bergmann & Sams 2012, Khan 2012,重田 2014)。しかし反転授業の効果を支える要素には,アクティブラーニングに係るものが多く含まれている事実がある。昨今の日本の大学教育改革においても,アクティブラーニングを推奨する動きがあることから,大学における反転授業が授業改善に大きく寄与する可能性は高い。そこで本研究は,反転授業をアクティブラーニングの視点から捉え,日本の大学教育においてどのような効果をもたらすのかを実証的研究で明らかにすることを目的とする。
方 法
本研究では,反転授業における学生の学びを多角的に捉えるため,定性と定量のデータを双方扱うミックス法を採用した。 学びの大枠を捉える定量的調査として,(1)授業の最初と最後に実施するプレポストの質問紙調査,(2)毎回の授業の予習に費やした時間と理解度を測る学生学習状況調査,(3)成績評価分析の3つを行う。質的調査は(a)毎回の授業観察,(b)各種質問紙の自由記述分析,(c)授業終了後に学生を対象としたフォローアップ調査を行い,双方の調査の分析結果をすり合わせながら解釈の妥当性を高めた。
授業のデザイン
地方国立S大学理学系学部に所属する第二著者は,2013年後期,水の流れに関する力学の基礎扱う専門科目「基礎水理学」(1~3年生49名対象)に反転授業を取り入れた。授業デザインは表1の通りである。対面授業で学生は4名1グループとなり,提示された5問程度の課題に取り組んだ。その間,教員は1名のTAと手分けをして各グループを回り,個人のノートの作成具合や理解度をチェック・指導した。毎回,授業の締めくくりの最後の10分間は,演習の解答を講義形式で教員が解説した。評価はその学びのプロセスを大事にするため,一括した期末試験ではなく,3回に分けた小テストの合算とした。
表1 反転授業のデザイン
教育活動学習活動
事前学習1講義動画視聴
事前学習2該当箇所のノート作成
事前学習3演習問題への解答
対面授業
(4人1組の協調的活動)演習の続き
教員による個別チェック
演習の解答説明/講義
考 察
授業観察の結果,グループ活動では,普段,授業外で自主的に学習活動を行うことが難しいタイプが違う学生同士が,事前学習という共通認知基盤を基に活発に議論する様子が伺えた。また授業担当教員が「教える」役割よりも,学習相談や個別指導など多く学生とコミュニケーションを取り,「学びを支える」役割を担っていた。特徴的なのは,同授業との昨年度との成績分布の比較である。二極化していた昨年度と比べ,正規分布に近い今年度の成績は,完全習得学習型として大きな効果を挙げたと判断する。しかし上位層だけでみれば,人数に減少が見られることから,発表当日は他のデータを含め,その要因の検討も行う。