[PA064] 明示的な指示が幼児期のスクリプトの変更に及ぼす影響
プラニングおよび実行機能との関連の検討
Keywords:スクリプト, 実行機能, 幼児
問題と目的
日常生活で繰り返される出来事の行動系列に関する知識はスクリプトと呼ばれている (Schank & Abelson, 1977)。スクリプトは大枠としていつも同じように繰り返されるものの, 他者による予定の変更などにより, スクリプトの実行に様々なレベルで変化が加えられる。本研究では, 幼児が“幼稚園服スクリプト” を実行できる柳岡 (印刷中) の人形課題をもとに, スクリプト実行中に明示的に別のスクリプトの変更するよう教示する課題を作成した。この課題では, 別のスクリプトに変更するために, 後戻りが必要とされる。しかし, 変更の指示があった場合でも, 後戻りをする必要のない状況は存在する。本研究では, 明示的な指示のもと後戻りを実施し, スクリプトの変更を行うとともに, 状況に応じて後戻りをしない選択をするようになる発達過程を探ることを1つ目の目的とした。さらに, その背景にある認知機能をプラニングと実行機能との関連から検討することを2つ目の目的とした。
方法
参加児 私立幼稚園に通う園児66名(男児35名, 女児31名)を対象に個別実験をおこなった。その内訳は, 年少児24名(男児14名, 女児10名 ; 平均年齢 4 ; 1), 年中児24名 (男児12名, 女児12名 ; 平均年齢 5 ; 1), 年長児18名(男児9名, 女児9名 ; 平均年齢 6 ; 1)であった。
手続き 課題の数が多いことから2回に分けて実験をおこなった。1回目に, 絵画語彙検査 (上野・名越・小貫, 2008), 抑制を測定する赤/青課題, シフティングを測定するDCCS, 子安 (1993) をもとに筆者がKlahr (1978) に改善を加えたプラニングを測定するケーキ課題を実施した。2回目に, アップデーティングを測定する9ボックス課題とオリジナルの人形課題を実施した。
人形課題では, はじめに, 幼児に実際に人形を使って, “幼稚園服スクリプト” を行ってもらうスクリプト確認問題を実施した。次に, スクリプト実行終了直前に別のスクリプトに変更するよう指示する指示変更後戻り問題と, スクリプト実行開始直後に別のスクリプトに変更するよう指示する指示変更問題の2問を実施した。2問の問題構成を図 1に示した。
結果
指示後戻り変更問題では, 後戻りをしてスクリプトを変更するかどうかを指標としたところ, 62名中57名が通過し, 天井効果を示した。指示変更問題では, 指示後戻り変更問題で正答した57名に対し, 不要な後戻りの数を指標として分析をおこなった。学齢群による差を検討するために, 1要因分散分析を行ったところ, 年少児は年長児に比べて, 多くアイテムを脱がしていた(t = 2.92, p <.05)。また, プラニングおよび実行機能が指示変更問題の成績に与える影響を検討するために, 階層的重回帰分析を行った。結果, 赤/青課題と9ボックス課題の成績が有意な独立変数となった (赤/青: B =.26, t = 2.22, p = 0.31; 9ボックス課題: B =.39, t = 3.22, p = 0.02)。また, モデルとしても十分な適合性がみられた (R 2 = .352, p <.001)。
考察
柳岡 (印刷中) の結果と異なり, 明示的な指示のもとでは, 年少児からすでにスクリプト実行中の後戻りが可能であることが示唆された。しかし, 状況に応じ, 不要な後戻りを行わなくなるのは年長児ころからであった。その認知的背景には, 抑制とアップデーティングの発達が関与することが示された。今後は, 状況に応じたスクリプトの変更が可能になるプロセスを詳細に検討していく必要がある。
日常生活で繰り返される出来事の行動系列に関する知識はスクリプトと呼ばれている (Schank & Abelson, 1977)。スクリプトは大枠としていつも同じように繰り返されるものの, 他者による予定の変更などにより, スクリプトの実行に様々なレベルで変化が加えられる。本研究では, 幼児が“幼稚園服スクリプト” を実行できる柳岡 (印刷中) の人形課題をもとに, スクリプト実行中に明示的に別のスクリプトの変更するよう教示する課題を作成した。この課題では, 別のスクリプトに変更するために, 後戻りが必要とされる。しかし, 変更の指示があった場合でも, 後戻りをする必要のない状況は存在する。本研究では, 明示的な指示のもと後戻りを実施し, スクリプトの変更を行うとともに, 状況に応じて後戻りをしない選択をするようになる発達過程を探ることを1つ目の目的とした。さらに, その背景にある認知機能をプラニングと実行機能との関連から検討することを2つ目の目的とした。
方法
参加児 私立幼稚園に通う園児66名(男児35名, 女児31名)を対象に個別実験をおこなった。その内訳は, 年少児24名(男児14名, 女児10名 ; 平均年齢 4 ; 1), 年中児24名 (男児12名, 女児12名 ; 平均年齢 5 ; 1), 年長児18名(男児9名, 女児9名 ; 平均年齢 6 ; 1)であった。
手続き 課題の数が多いことから2回に分けて実験をおこなった。1回目に, 絵画語彙検査 (上野・名越・小貫, 2008), 抑制を測定する赤/青課題, シフティングを測定するDCCS, 子安 (1993) をもとに筆者がKlahr (1978) に改善を加えたプラニングを測定するケーキ課題を実施した。2回目に, アップデーティングを測定する9ボックス課題とオリジナルの人形課題を実施した。
人形課題では, はじめに, 幼児に実際に人形を使って, “幼稚園服スクリプト” を行ってもらうスクリプト確認問題を実施した。次に, スクリプト実行終了直前に別のスクリプトに変更するよう指示する指示変更後戻り問題と, スクリプト実行開始直後に別のスクリプトに変更するよう指示する指示変更問題の2問を実施した。2問の問題構成を図 1に示した。
結果
指示後戻り変更問題では, 後戻りをしてスクリプトを変更するかどうかを指標としたところ, 62名中57名が通過し, 天井効果を示した。指示変更問題では, 指示後戻り変更問題で正答した57名に対し, 不要な後戻りの数を指標として分析をおこなった。学齢群による差を検討するために, 1要因分散分析を行ったところ, 年少児は年長児に比べて, 多くアイテムを脱がしていた(t = 2.92, p <.05)。また, プラニングおよび実行機能が指示変更問題の成績に与える影響を検討するために, 階層的重回帰分析を行った。結果, 赤/青課題と9ボックス課題の成績が有意な独立変数となった (赤/青: B =.26, t = 2.22, p = 0.31; 9ボックス課題: B =.39, t = 3.22, p = 0.02)。また, モデルとしても十分な適合性がみられた (R 2 = .352, p <.001)。
考察
柳岡 (印刷中) の結果と異なり, 明示的な指示のもとでは, 年少児からすでにスクリプト実行中の後戻りが可能であることが示唆された。しかし, 状況に応じ, 不要な後戻りを行わなくなるのは年長児ころからであった。その認知的背景には, 抑制とアップデーティングの発達が関与することが示された。今後は, 状況に応じたスクリプトの変更が可能になるプロセスを詳細に検討していく必要がある。