The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PA

(501)

Fri. Nov 7, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 501 (5階)

[PA075] 小学生における学校での怒りと社会的スキルの因果関係

交差遅れ効果モデルによる検討

寺坂明子1, 下田芳幸2 (1.現在なし, 2.富山大学)

Keywords:怒り, 社会的スキル, 学校

問題と目的
学校での暴力行為や“キレる”といった現象が注目されるようになって久しいが,怒り・攻撃性に関するメカニズムの解明や予防的・介入的知見に対する心理学的ニーズは依然高い。筆者らは,学校での予防・介入に役立てる目的で,学校という文脈に特化した多次元怒り尺度(MSAI, Furlong et al., 2002; Smith et al., 1998)の日本語版を作成し,ストレッサー,情動評価,自動思考等との関連から学校での怒りのメカニズムについて明らかにしようとしてきた。攻撃的な子どもは向社会的行動を取りにくく,仲間関係での失敗を経験しやすいことなどから,介入においては攻撃行動の低減そのものよりも向社会的行動を増やすことが焦点とされることが多い。本研究では,どういったスキルが怒りや攻撃性とより関連しやすいかを明らかにするため,学校生活で必要とされる社会的スキルに焦点を当て,怒りとの因果関係を検討する。

方法
調査対象 2012年10月,12月の2時点において,公立小学校2校に通う児童256名を対象に2波のパネル調査を行った。分析には回答にミスのなかった170名のデータを用いた(男子74名,女子96名)。
調査内容
1.学校での怒り多次元尺度日本語短縮版(JS-MSAI:下田・寺坂,2012)計20項目。“怒り体験”“敵意”“破壊的表出”“積極的対処”の各5項目4下位尺度からなる。
2.子ども用社会的スキル尺度(渡邊・岡安・佐藤,2002)29項目を用いて因子分析を行い,共通性,負荷量の低い項目を順次除いた結果,“仲間強化”“主張性”“規律性”の3因子を抽出し,各因子に負荷を示した計16項目を分析に用いた。各下位尺度の信頼性係数は.86, .81, .82.であった。

結果と考察
JS-MSAIと社会的スキルの各下位尺度の合計得点を変数として,Figure1に示した交差遅れ効果モデルを用い,構造方程式モデリングにより因果関係を分析した。図中のaはTime1の怒りがTime2の社会的スキルに与える影響を,bはTime1の社会的スキルがTime2の怒りに与える影響を表す。
男女共に敵意はのちの社会的スキル,特に仲間強化と規律性のスキルを低めることが示され,怒りのうちでも敵意が学校での不適応を予測しやすいと考えられた。さらに,男子では敵意と規律性との間,破壊的表出と規律性との間で相互に抑制的な影響が見られ,これらの間で正または負の循環が生じやすいと推測される。また男子では仲間強化のスキルがのちの怒り体験と破壊的表出を低めることも示され,仲間関係を維持できることが,怒りの認知や表出において適応的に作用すると考えられた。一方,女子ではこれらの因果関係が比較的弱く,仲間強化,規律性のスキルがのちの怒り体験や敵意を強める方向にも働くなど,必ずしも怒りに対して適応的に働かないことが示唆された。特に破壊的表出に関してはスキルからのパスがいずれも有意でなく,これら以外の要因によって規定されると考えられる。さらに,主張性は男女共に積極的対処を強めることが示されたことから,アサーショントレーニング等のスキルトレーニングが,怒りの問題にも効果を持つ可能性が示唆されたと言える。

引用参考文献
下田芳幸・寺坂明子 (2012). 学校での怒りの多次元尺度日本語版の短縮化 富山大学人間発達科学部紀要, 7(1), 129-138.
渡邊朋子・岡安孝弘・佐藤正二 (2002). 子ども用社会的スキル尺度作成の試み(1) 日本カウンセリング学会第35回大会発表論文集, 93.