日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PA

(501)

2014年11月7日(金) 10:00 〜 12:00 501 (5階)

[PA076] 心的数直線の形成と空間認知能力との関連

浦上萌1, 杉村伸一郎1 (広島大学大学院)

キーワード:心的数直線, 数直線課題, 幼児

目的 心的数直線は,数量に関する知識や能力を規定し,幼児期に形成されると考えられている。これまでにも,数直線上で数を見積る課題 (数直線課題) によって心的数直線の発達的研究が集中的に行われてきた。そして近年では,数直線課題で見積る際に,空間を部分と全体の関係で捉える必要があるという観点から,心的数直線の形成に空間認知が関連することが明らかになりつつある (例えば,Slusser et al., 2013)。しかし,心的数直線の形成と空間認知との関連を体系的に捉えた研究は見当たらず,数直線課題に即した空間認知を特定する必要がある。
そこで本研究では,数直線の捉え方を,空間認知課題を用いて検討する。数直線課題は,提示数を数直線の長さに変換するために,数直線全体を把握した後に提示数に応じて数直線を分割し,数を配置することが必要になると考えられる。また,そのように数直線を分割する際には,数直線上の両端の点 (始点・終点) がどのように使用されているかも関わってくるだろう。よって,空間認知課題は,直線全体をどのように捉え分割しているのかに関わるマッピング能力と,範囲のある直線の基準となる点 (始点や終点) を利用して,空間を捉えることができているかに関わるスケーリング能力を検討できる課題を設定する。それに加え,先行研究でも関連が見られた視空間WMとの関連も検討する (LeFevre et al.,2010)。
方法 参加者 私立保育園年少児43名 (平均4歳2ヶ月),年中児57名 (平均5歳1ヶ月),年長児53名 (平均6歳5ヶ月)。数直線課題 実験者が口頭で提示する1~9までの整数の1つを,B5用紙の左に0,右に10を記した長さ20cmの数直線上で,その数があると思う地点に色鉛筆で印をつけさせた。マッピング課題 B5用紙の中央にある20cmの直線上にトンボが1匹描かれていた。参加者には,トンボの位置を記憶するよう教示し,20cmの直線だけが描かれた解答用紙に再生させた。10試行行った。スケーリング課題 マッピング課題と紙の大きさや直線の長さが異なる提示刺激を2種類使用した。一つは用紙がB4で直線の長さが32cmのもので,もう一つは,B4で8cmのものであった。参加者には,トンボの位置を記憶するよう教示し,16cmの直線だけが描かれたB4の解答用紙に再生させた。各5試行ずつ,全10試行行った。視空間WM課題 ランダムに並んだ8つの四角形を実験者が指差し,参加者には,それを同じ順序で繰り返させた。指差す四角形の数を1つから出来る数まで増やした。
分析対象者は,4つの課題を全て遂行できた年少児38名 (平均年齢4歳6ヶ月),年中児50名 (平均年齢5歳0ヶ月),年長児52名 (平均年齢6歳5ヶ月) の計140名であった。
結果 数直線課題は,提示した数と見積った数との差 (PAE = (|見積った数-提示数|/数直線の範囲×100) を算出し,マッピング課題とスケーリング課題は,正しい位置と子どもが再生した位置とのズレの大きさを算出した。また視空間WM課題は,正答数に1点ずつ与え,得点とした。まず,月齢と各課題の相関を検討した結果,数直線課題,マッピング課題,スケーリング課題,視空間WM課題の全てにおいて相関があった (順に,r = -.30, -.20, -.19, -.46, すべてp < .05)。次に,数直線課題と他の課題間の相関を検討した結果,視空間WM課題のみ相関があり (r = -.30, p < .01),マッピング課題,スケーリング課題には相関がなかった (順に,r = .13, r = .11, すべてn.s.)。なお視空間WM課題は,月齢を統制しても数直線課題と相関があった(r = -.19, p < .05)。
考察 数直線課題の成績は視空間WM課題以外とは相関が見られなかった。本研究で,マッピングやスケーリングとの関連が見られなかった理由として,第1に,マッピング課題とスケーリング課題において天井効果がみられたことが考えられる。統計的には月齢と有意な相関があったが,いずれの値も低かった。第2に,マッピング課題やスケーリング課題において,全体と部分の関係を捉えることと,数直線課題で全体と部分の関係を捉えることは異なると考えられる。数直線課題は,提示数に応じて数直線を分割しなければならない。よって,マッピングやスケーリングは比較的年少の子どもでもできたが,数直線課題において,数直線を上手く分割できなかったという結果は,基本的な連続空間の全体と部分の関係性の理解はできていても,数量概念の知識も伴わせて数直線課題に取り組むことは,幼い子どもでは困難であると考えられる。