The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PA

(501)

Fri. Nov 7, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 501 (5階)

[PA079] 前言語期乳児のネガティブ情動表出に対する調律的応答と母親が抱く子ども表象との関連

蒲谷槙介 (東京大学大学院)

Keywords:調律的応答, 子ども表象, 母子相互作用

【問題と目的】母子アタッチメント研究の領域では, 母親が幼い子どもを「心をもった存在(psychological agent)」と見なして接することの重要性が指摘されている(Sharp & Fonagy, 2007)。これに関して, 近年特に着目されているものとして調律的応答(Gallese et al., 2007)が挙げられる。これは乳児の泣きやむずかりといったネガティブ情動表出に対して, 母親が共感した上で, その乳児の情動をメタ化してフィードバックするものとされ, Sharp & Fonagy(2007) においては, アタッチメント安定型の母親がこの種の応答を行うことが想定されている。その実証として, 蒲谷(2013)は 前言語期乳児とその母親を対象に相互作用場面の観察を実施し, アタッチメント安定傾向の母親が乳児の泣きやむずかりに対して「笑顔を伴った心境言及」を行いやすいことを見出した。
本稿では, 対乳児相互作用の質を方向付けるワーキングモデルとして知られる「子ども表象」(本島, 2007)と調律的応答との関連を吟味し, 調律の個人差要因をより詳細に検討することを目的とする。
【方 法】生後5~11ヶ月の乳児とその母親40組を対象とし, 母子相互作用を20分間観察した。その映像データをもとに, 乳児がネガティブ情動を表出してから5秒以内に母親がどのような応答をしたのかを24パターン(母親の表情4種×母親の発声発話6種) に分類した(cf. 蒲谷, 2013)。また母親には子どもが生後3~9ヶ月時にWMCI (Zeanah & Benoit, 1995)を実施し, その回答の一部をもとに, 「子ども表象」産出困難感を測定した(cf. 蒲谷, 2014)。母親は, 産出容易群(n = 12), 中位群(n = 16), 産出困難群(n = 12) に分類された。
【結果と考察】イメージ産出困難群(D)を基準とし, 産出容易群(E)および中位群(M)それぞれにおける各種応答パターンの生起数をポアソン回帰分析により比較したところ, 乳児のネガティブ情動表出に対し, (1)困難群よりも中位群の母親が「心境言及のみ」をしやすい傾向にある(M > D, β = .82, p < .10), (2)容易群よりも困難群の母親が「会話的応答のみ」をしやすい(E < D, β = -.87, p < .05), (3)困難群は容易群および中位群よりも「ポジティブ表情 + 会話的応答」をしやすい傾向にある(E < D, β = -.82, p < .10; M < D, β = -.67, p < .10), (4)容易群および中位群は困難群よりも「ポジティブ表情 + 単純応答」をしやすい(E > D, β = 2.07, p < .01; M > D, β = 1.44, p < .05), との結果が得られた(Figure 1)。
これらの結果を総括すると, わが子のイメージを容易に産出する(≒安定した子ども表象を持つ)母親は, それに困難を覚える母親に比べ, 乳児の泣きやむずかりに会話的に応じることは少ない代わりに, 乳児の内面を映し出す「心境言及」を行いやすいことが窺える。またこの点に関して, 特に産出困難感が中程度の母親が心境言及の類を最も多く行う傾向にあることが示唆されるが, 中位群の母親がどのようなワーキングモデルを抱いているのか, 今後より詳細な吟味が必要かもしれない。
【引用文献】
蒲谷槙介. (2013). 前言語期乳児のネガティブ情動表出に対する母親の調律的応答:母親の内的作業モデルおよび乳児の気質との関連. 発達心理学研究, 24, 507-517.
蒲谷槙介. (2014). 乳児の母親が行う調律的応答の個人差要因の検討:母親が抱く子ども表象に着目して. 発達研究, 28. 63-74