The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PA

(501)

Fri. Nov 7, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 501 (5階)

[PA084] 虐待的な養育環境と完全主義,自己愛と抑うつの関連

クラスタ分析によるサブ・タイプの抽出

福井義一 (甲南大学)

Keywords:虐待, 完全主義, 自己愛

目的
完全主義と自己愛が抑うつに及ぼす影響について,福井(2013)は完全主義が自己愛を介して抑うつを左右するモデルを提唱した。さらに福井ら(2013)は,完全主義(Flett, et al., 2002参照)や自己愛(例,Johnson, et al., 1999)の形成要因として虐待的養育環境が想定されていることから,モデルを拡張した結果,完全主義が先行するモデルを採用した。しかし,ここでは変数間の線形関係のみに注目しており,臨床適用の際はサブ・タイプ論の観点が必要であると思われる。
そこで,本研究ではクラスタ分析を用いてサブ・タイプを抽出し,虐待的な養育環境と完全主義,自己愛の組み合わせが,どのように抑うつと関連しているかについて詳細に検討した。
方法
調査協力者:平均年齢18.72歳(SD =.832)の大学生258名(男性:144名,女性:114名)を分析対象者とした。なお,本研究は福井ら(2013)で用いたデータの再分析である。
尺度構成:虐待的養育環境を,CATS(Sanders, & Giolas, 1991; Sanders, & Becker-Lauren, 1995)の邦訳版(田辺, 1996, 2005)を用いて測定した。完全主義を,福井・山下(2012)による尺度により測定し,「完全性と理想の追求」,「不完全性と失敗への恐れ」の2つの下位尺度得点を得た。自己愛を,小塩(1998)による自己愛人格目録短縮版によって測定し,「注目・賞賛欲求」,「優越感・有能感」,「自己主張性」の3つの下位尺度得点を得た。抑うつを,Zung(1965)のSDS日本語版(福田・小林, 1973)で測定した。
手続き:コース・クレジット制度を利用し,書面で同意を得た上で,質問票調査を実施した。
結果
各尺度得点を用いて,クラスタ分析を行い,7つのクラスタに調査協力者を分類した。その得点プロフィールをクラスタ毎にFigure 1に図示した。CL1は,虐待はなく自己愛が低く,抑うつは平均的であった。CL2は,一部の自己愛が高く,完全主義は低く,抑うつもやや低かった。CL3は,被虐待経験が最も多く,優越感・有能感以外の自己愛と不適切な完全主義が高く,抑うつもやや高かった。CL4は,注目・賞賛欲求と完全主義が高く,抑うつはやや高めであった。CL5は,被虐待経験がやや多く,自己愛が低く不適切な完全主義が高く,抑うつも高かった。CL6は,自己愛も完全主義も低いが,抑うつは平均的であった。CL7は,被虐待経験は平均以下であり,自己愛と適応的な完全主義が高く,抑うつも最も低かった。クラスタを要因とした多変量分散分析を行った結果,全ての従属変数についてクラスタの主効果が0.1%水準で有意であった。
考察
本研究の結果,虐待と完全主義,自己愛の特徴的なパターンを示すサブ・タイプの存在が示唆された。例えば,1)抑うつが高い群の中に,被虐待群とそうでない群が存在すること,2)自己愛の高さが抑うつに正反対の効果をもたらす場合があること,3)完全主義の適応的側面と不適応的側面の大小関係で前者が高い場合に抑うつが抑制されることなどが分かった。今後,こうした知見を臨床に適用するための検討が必要である。