日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PA

(501)

2014年11月7日(金) 10:00 〜 12:00 501 (5階)

[PA086] パチンコ・パチスロ嗜癖傾向と大学生活充実感の関連

西邑翼 (香川大学大学院)

キーワード:嗜癖, 充実感, パチンコ

問題と目的
現代社会では,パチンコ・パチスロをはじめ,競馬,麻雀などさまざまなギャンブルが存在する。なかでも,パチンコ・パチスロは大学生が比較的触れやすいギャンブルであろう。安藤(2000)が大学生を対象に行った調査でも,男子学生で7割,女子学生でも約3割もの学生が過去に一度でもパチンコに触れたことがあると回答しており,他のギャンブルと比較して一番接触経験が多かった。
嗜癖についてCraig(2012)は,アディクションによって行動する時には,他人との関わりを断って自分の世界に入らなくてはならないため,他者と有意義な関係をもつことができず,ますますアディクションの対象に引き寄せられていくという悪循環に陥るとしている。
大学生活充実感に関して,國眼他(2005)は,学生が,大学生活で最も大切にしていることは,勉学と豊かな人間関係であったことも示していた。
大学生活で,上記のような嗜癖に陥ると,他人との関わりが希薄することで,孤立し,大学生活を充実したものと思えなくなるのではないかと考えられる。そして,それが苦痛となり,その苦痛を和らげようと嗜癖の対象に向かっていくという悪循環におちいると予想される。そこで本研究は,パチンコ・パチスロ嗜癖傾向と大学生活充実感との関連を検討する。
方法
予備調査 今回はGAを参考にしつつ,予備調査によって大学生のパチンコ・パチスロ嗜癖を尋ねる項目を作成した。
調査対象者 K大学生325名(男性162名,女性163名)。パチンコ・パチスロを現在行っているまたは,過去行ったことがある学生を主な調査対象とし,比較対照のためパチンコ・パチスロ経験のない学生にも大学生活充実感のみの回答を求めた。
質問紙 パチンコ・パチスロ嗜癖傾向尺度について,大学入学当初と現在のそれぞれについて回想法によって五件法で回答を求めた。同様に大学生活充実感尺度についても,大学入学当初と現在のそれぞれについて回想法を用いた。
結果
パチンコ・パチスロ接触経験 入学当初にパチンコ・パチスロを経験したことがあるものは26名で,現在までにパチンコ・パチスロを経験したことがあるものが51名と増加していた。
パチンコ・パチスロ嗜癖傾向尺度と大学生活充実感尺度の関連 パチンコ・パチスロ嗜癖傾向尺度の下位尺度と充実感尺度の各因子の相関をみたところ,パチンコ・パチスロ嗜癖傾向尺度の「認知の乖離(現在)」と充実感尺度の「自立(入学当初)」(r=-.500,p<.05)「連帯(入学当初)」(r=-.492,p<.05)に負の相関がみられた。また,充実感得点差(現在-入学当初)とパチンコ・パチスロ嗜癖傾向尺度と,下位尺度ごとの相関をみた結果,「認知の乖離(現在)」と「自立差」(r=.593,p<.05)に正の相関がみられた。「認知の乖離(入学当初)」と「充実感差」(r=-.581,p<.05)「自立差」(r=-.554,p<.05)に負の相関が見られた。また,パチンコ・パチスロ経験の有無×時期の2要因分散分析を行った。その結果充実感の自立に対して交互作用が有意であった(F(1,294)=4.4. p<.05)。自立については時期の主効果(F(1,294)=9.5. p<.01)が有意であった。時期の単純主効果を検討したところパチンコ・パチスロ経験の有りでは有意傾向であった。
考察
パチンコ・パチスロ嗜癖傾向は大学生活の充実感と関連していることが示された。現在のパチンコ・パチスロ嗜癖傾向の認知の乖離得点の高いものは,入学当初は自立得点,連帯得点が低かった。また入学当初のパチンコ・パチスロ嗜癖傾向尺度の認知の乖離が高いものは,大学生活の充実感得点が入学当初よりも有意に低くなっており,自立得点もまた有意に低くなっていた。これらの結果は入学当初に人付き合いなどの人間関係がうまくいっていないものが現在パチンコ・パチスロ嗜癖傾向に陥っている可能性を示唆しており,そのパチンコ・パチスロ嗜癖傾向が大学生活の充実感や自立を下げている原因の一つとなっていることが示唆される。嗜癖傾向と自立は正の相関にあった。Giddens(1995)が,嗜癖行動は個人にとって自己が特殊な形で選択された結果であるとしており,一時的にはパチンコ経験が自立の感覚を高める部分がある。しかし,長期的には嗜癖が強まることで自立が低下していく可能性が考えられる。よってより長期的なスパンで検討することが必要である。