[PB008] スピリチュアリティが進路選択行動に及ぼす影響
Keywords:大きな問い, 探究心, 高等教育
問題と目的
大学生のスピリチュアリティに関する大規模縦断調査(Astin et al., 2011)では,実存,宗教,形而上学等の「大きな問い(big question)の探求」得点の高群は,人生の意味を見つけることが,大学進学の理由として非常に重要であると評価していることが明らかになった。従来,生徒指導や進路指導において,生きる意味を問うことは本来的な課題であることが指摘されてきたが(中川, 2005),Astin et al. (2011)の調査結果は,これを一部支持するものであるといえよう。しかしながらわが国では,教育のスピリチュアリティ研究には目立った進展がみられないのが現状であり,これらの変数間の関連性を解明することで,議論の展開に向けた基礎資料を提供することができるだろう。
そこで本研究では,まず,スピリチュアリティを,「自己,世界,超越的存在の在り方や,生の意味,死や愛,価値など人生の根本的な問題について考える能力」と定義する。そして,スピリチュアリティと進路選択行動の媒介変数として,探究心およびその上位概念である批判的思考態度に着目し,これらの変数間の関連について調査を行うことを目的とする(「仮説2-1:スピリチュアリティは,進路選択行動に正の影響を及ぼす」,「仮説2-2:スピリチュアリティは,批判的思考態度を媒介して進路選択行動に正の影響を及ぼす」)。
方 法
対象者 関西圏の大学に所属する大学生310名を分析対象とした(有効回答率85.64%;男性121名,女性183名,不明6名)。学年の内訳は,1回生205名,2回生60名,3回生32名,4回生6名,5回生1名,不明6名であった。
調査方法 心理学関連の講義内で授業の一環として調査を実施し,研究使用の許可が得られた対象者から回収を行った。
質問紙の構成 (1)Big Question尺度(BQS; 村上, 2012):「人生の意味の希求」「価値の探求」に関する11項目,6件法;(2)進路選択行動尺度(冨永, 2010):8項目,5件法;(3)批判的思考態度尺度(平山・楠見, 2004):33項目,5件法;(4)宗教形態に関する質問。(1)で使用した質問項目は,予備調査の結果をもとに選定した。
結果と考察
探索的因子分析および各下位尺度間の相関分析の結果をもとに,構造方程式モデリングによる仮説モデルの検証(Amos 20)を行い,最終的にFigure 1に示すモデルを採用した。
Figure 1 仮説モデルの検証結果
まず,BQSの生きるうえでの価値の希求から,進路選択行動に有意なパスはひかれなかった。このことから,仮説2-1は支持されなかった。次に,生きるうえでの価値の希求は,探究心と証拠の重視を媒介して,進路選択行動に正の影響を及ぼしていたという点で,仮説2-2は一部支持された。
本研究の結果より,人生の目的や幸福について思慮することは,具体的な職業像へと直結し難い反面,問いに対して客観的な態度をとろうとすると,進路選択行動を阻害することが示唆された。道田(2004)は,「色々な可能性を想像すれば,不確実性を強く意識してしまうため,極端な場合には,行動を起こす意欲を無くしてしまう」(p. 334)と述べているように,偏りのない判断を意識するあまり,思考からの脱中心化が過ぎ,就職に向けた具体的行動や将来像の構築が困難になるのかもしれない。進路選択における問いの思慮にあたっては,他者との対話や新奇な出来事の探索など,思考を拡張する態度の助長が望ましいと言える。
主な引用文献
Astin, A. et al. (2011). Cultivating the Spirit. Jossey-Bass.
大学生のスピリチュアリティに関する大規模縦断調査(Astin et al., 2011)では,実存,宗教,形而上学等の「大きな問い(big question)の探求」得点の高群は,人生の意味を見つけることが,大学進学の理由として非常に重要であると評価していることが明らかになった。従来,生徒指導や進路指導において,生きる意味を問うことは本来的な課題であることが指摘されてきたが(中川, 2005),Astin et al. (2011)の調査結果は,これを一部支持するものであるといえよう。しかしながらわが国では,教育のスピリチュアリティ研究には目立った進展がみられないのが現状であり,これらの変数間の関連性を解明することで,議論の展開に向けた基礎資料を提供することができるだろう。
そこで本研究では,まず,スピリチュアリティを,「自己,世界,超越的存在の在り方や,生の意味,死や愛,価値など人生の根本的な問題について考える能力」と定義する。そして,スピリチュアリティと進路選択行動の媒介変数として,探究心およびその上位概念である批判的思考態度に着目し,これらの変数間の関連について調査を行うことを目的とする(「仮説2-1:スピリチュアリティは,進路選択行動に正の影響を及ぼす」,「仮説2-2:スピリチュアリティは,批判的思考態度を媒介して進路選択行動に正の影響を及ぼす」)。
方 法
対象者 関西圏の大学に所属する大学生310名を分析対象とした(有効回答率85.64%;男性121名,女性183名,不明6名)。学年の内訳は,1回生205名,2回生60名,3回生32名,4回生6名,5回生1名,不明6名であった。
調査方法 心理学関連の講義内で授業の一環として調査を実施し,研究使用の許可が得られた対象者から回収を行った。
質問紙の構成 (1)Big Question尺度(BQS; 村上, 2012):「人生の意味の希求」「価値の探求」に関する11項目,6件法;(2)進路選択行動尺度(冨永, 2010):8項目,5件法;(3)批判的思考態度尺度(平山・楠見, 2004):33項目,5件法;(4)宗教形態に関する質問。(1)で使用した質問項目は,予備調査の結果をもとに選定した。
結果と考察
探索的因子分析および各下位尺度間の相関分析の結果をもとに,構造方程式モデリングによる仮説モデルの検証(Amos 20)を行い,最終的にFigure 1に示すモデルを採用した。
Figure 1 仮説モデルの検証結果
まず,BQSの生きるうえでの価値の希求から,進路選択行動に有意なパスはひかれなかった。このことから,仮説2-1は支持されなかった。次に,生きるうえでの価値の希求は,探究心と証拠の重視を媒介して,進路選択行動に正の影響を及ぼしていたという点で,仮説2-2は一部支持された。
本研究の結果より,人生の目的や幸福について思慮することは,具体的な職業像へと直結し難い反面,問いに対して客観的な態度をとろうとすると,進路選択行動を阻害することが示唆された。道田(2004)は,「色々な可能性を想像すれば,不確実性を強く意識してしまうため,極端な場合には,行動を起こす意欲を無くしてしまう」(p. 334)と述べているように,偏りのない判断を意識するあまり,思考からの脱中心化が過ぎ,就職に向けた具体的行動や将来像の構築が困難になるのかもしれない。進路選択における問いの思慮にあたっては,他者との対話や新奇な出来事の探索など,思考を拡張する態度の助長が望ましいと言える。
主な引用文献
Astin, A. et al. (2011). Cultivating the Spirit. Jossey-Bass.