[PB015] 小学生が認知する教師の潜在的影響力
回想法による調査
キーワード:教師の勢力資源, 大学生, 質問紙法
本研究は,学級や児童生徒に対する教師の影響力のうち,具体的な指導行動を発揮する背景とな
る潜在的な影響力である,勢力資源に着目する。勢力資源研究では,近年,従来使用されてきた田
崎の尺度とは異なる質問項目を用いたもの(三島・淵上, 2010)が発表されており,本研究はこの
新しい項目を用いて,回想法による調査を行う。
【方法】
調査対象 大学生241名。25歳以上を除外し,計234名を分析対象とした(M=20.2歳(SD=1.5))。
質問紙 (1)フェイスシート:年齢,性別,小学生時代の担任制度(副担任および持ち上がり(担任継
続)の有無)を尋ねた。(2)教師の勢力資源尺度:三島・淵上(2010)の尺度(計34項目)を使用し,小学校4~6年生の担任教師のうち,自分自身がよく指示に従っていた教師1名を想起させる回想法によ
り,5件法(1:全くあてはまらない~5:非常にあてはまる)で回答を求めた。
【結果と考察】
尺度の検討
教師の勢力資源尺度について因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行った結果,4因子32
項目が抽出された。各因子を,「自信・一貫性」「受容・親近」「正当性・罰」「威圧感」と命名した。α係数は.824~.928で,十分な信頼性が得られた。教師の勢力資源の認知
小学校高学年における教師の影響力の捉え方はどのようなものだったのか。因子ごとの平均得点
をTable1に示す。調査対象者全体の得点について1要因分散分析を実施したところ,有意差が認めら
れ,多重比較の結果,受容・親近>自信・一貫性>正当性・罰>威圧感の順に得点が低かったこと
が示された(全てp<.01)。特に「威圧感」すなわち教師の体格や身体のたくましさ等は,勢力資源と
しての認知度が低いことがわかった。続いて,因子ごとの平均得点を男女間で比較したところ,ど
の因子でも有意な性差はなかった。上述した勢力資源認知の傾向は,男女間で共通といえる。
副担任ならびに担任継続の有無ごとの各因子の平均得点を,Table 2にまとめて示す。各得点に対
するt検定の結果,「受容・親近」に関しては,担任継続1年の得点が,複数年継続を上回っていた
(p<.10)。教師の受容的態度や親しみやすさの認知は,大きな勢力資源ではあるが,時間経過ととも
に,その影響力は減少するのかもしれない。他の得点に有意差はなかった。また,副担任制の有無
による差は,どの因子でも認められなかった。
以上より,小学校高学年児童が認知する教師の潜在的影響力について,大学生の回想からは,4
つの勢力資源が認知されていること,そのうち,受容・親近と自信・一貫性が,男女ともに大きな影響力を持つことが明らかになった。
【文献】三島美砂・淵上克義 (2010). 学級集団,児童・生徒個人に及ぼす教師の潜在的な影響力. 岡山大学大学院教育学研究科研究集録, 145, 19-29.
る潜在的な影響力である,勢力資源に着目する。勢力資源研究では,近年,従来使用されてきた田
崎の尺度とは異なる質問項目を用いたもの(三島・淵上, 2010)が発表されており,本研究はこの
新しい項目を用いて,回想法による調査を行う。
【方法】
調査対象 大学生241名。25歳以上を除外し,計234名を分析対象とした(M=20.2歳(SD=1.5))。
質問紙 (1)フェイスシート:年齢,性別,小学生時代の担任制度(副担任および持ち上がり(担任継
続)の有無)を尋ねた。(2)教師の勢力資源尺度:三島・淵上(2010)の尺度(計34項目)を使用し,小学校4~6年生の担任教師のうち,自分自身がよく指示に従っていた教師1名を想起させる回想法によ
り,5件法(1:全くあてはまらない~5:非常にあてはまる)で回答を求めた。
【結果と考察】
尺度の検討
教師の勢力資源尺度について因子分析(最尤法・プロマックス回転)を行った結果,4因子32
項目が抽出された。各因子を,「自信・一貫性」「受容・親近」「正当性・罰」「威圧感」と命名した。α係数は.824~.928で,十分な信頼性が得られた。教師の勢力資源の認知
小学校高学年における教師の影響力の捉え方はどのようなものだったのか。因子ごとの平均得点
をTable1に示す。調査対象者全体の得点について1要因分散分析を実施したところ,有意差が認めら
れ,多重比較の結果,受容・親近>自信・一貫性>正当性・罰>威圧感の順に得点が低かったこと
が示された(全てp<.01)。特に「威圧感」すなわち教師の体格や身体のたくましさ等は,勢力資源と
しての認知度が低いことがわかった。続いて,因子ごとの平均得点を男女間で比較したところ,ど
の因子でも有意な性差はなかった。上述した勢力資源認知の傾向は,男女間で共通といえる。
副担任ならびに担任継続の有無ごとの各因子の平均得点を,Table 2にまとめて示す。各得点に対
するt検定の結果,「受容・親近」に関しては,担任継続1年の得点が,複数年継続を上回っていた
(p<.10)。教師の受容的態度や親しみやすさの認知は,大きな勢力資源ではあるが,時間経過ととも
に,その影響力は減少するのかもしれない。他の得点に有意差はなかった。また,副担任制の有無
による差は,どの因子でも認められなかった。
以上より,小学校高学年児童が認知する教師の潜在的影響力について,大学生の回想からは,4
つの勢力資源が認知されていること,そのうち,受容・親近と自信・一貫性が,男女ともに大きな影響力を持つことが明らかになった。
【文献】三島美砂・淵上克義 (2010). 学級集団,児童・生徒個人に及ぼす教師の潜在的な影響力. 岡山大学大学院教育学研究科研究集録, 145, 19-29.