[PB021] 大学生は教員からどのような社会的影響を受けるのか
成人愛着スタイルにもとづく検討
キーワード:成人愛着スタイル, 社会的影響, 大学生活
問題
加藤(2012)は,学生の特性の中から成人愛着スタイルをとりあげ,学生が教員も含めた重要な他者から受ける社会的影響力について検討した。そこでは,学生の成人愛着スタイルによって,学生が教員から受ける社会的影響力が異なることは明らかになったが,具体的にどのような種類の影響力かについては不明であった。
そこで本研究では,教員が学生に与える社会的影響力の内容に関する検討を行うことを目的とする。
方法
被験者は四年制大学および短期大学の学生304名である。回答に欠損が多い者を除いた214名(平均年齢18.6歳,SD=1.04,男性52名,女性161名,その他1名)を分析の対象とした。
被験者には,回答を拒否しても何ら不利益は生じないことを含めたインフォームド・コンセントを実施して,倫理的配慮を行った。
質問紙としては,1) Bartholomewら(1991)の4分類愛着スタイル尺度(Relationship Questionnaire; RQ)(加藤, 1998/9),2) Imai(1993)の社会的影響力尺度(Perceived Social Power Scale; PSPS),3)藤井(1998)の大学生活不安尺度の3尺度を用いた。大学教員についての社会的影響力は2)によって評定された。
結果
RQによって評定された愛着スタイルの割合は,安定型が28%,拒絶型が7%,とらわれ型が41%,恐れ型が24%であった。
大学生活不安尺度(以下,不安尺度)のα係数は .84であり,内的整合性が認められた。愛着スタイルを独立変数,大学生活不安尺度の得点(以下,不安得点)を従属変数とする一元配置分散分析を行ったところ,有意差が認められた(F(3, 210)=5.064, p<.005)。post hoc 検定(Tamhane法)によって,とらわれ型は安定型よりも有意に高い不安を感じていることが示された。
大学教員の社会的影響力に関しては,天井効果の見られた2項目(EXP3,EXP4:今井(1993)参照)を削除し,因子分析を行った結果3因子が抽出されたことから,それぞれ「魅力と支援」,「専門性と正当性」,「強制と従属」と命名し,愛着スタイルを独立変数,各因子(項目の合計得点)を従属変数とする一元配置の分散分析を行ったところ,「強制と従属」因子について,有意差が認められた(F(2, 210)=6.040, p<.001)。post hoc 検定(Tamhane法)によって,拒絶型およびとらわれ型は安定型よりも有意に「強制と従属」などのネガティブな影響を受けることが示された。
前の研究(加藤, 2012)でも,とらわれ型は安定型よりも有意に教員の社会的影響力を受けることが示されていたが,本研究によって,その影響力の内容は,「強制と従属」のようなネガティブな影響力であることが示された。
考察
とらわれ型の学生も,「魅力と支援」といったポジティブな影響力については安定型の学生と有意差が認められないことから,「強制と従属」などのネガティブな影響力を選択的に受容しているというよりは,自己観に合致しているネガティブな影響力を増幅して感じているのだろうと推測される。一方,大学生活に関する不安については安定型と有意差のない拒絶型の学生において,教員からのネガティブな社会的影響については安定型と有意差が認められた理由は定かではないが,一見不安そうでもなく,他者から距離をおいている拒絶型の学生が,実は教員からネガティブな影響を受けていると評定している点は,指導上はより注意を要すると思われる。
ハラスメント予防においても,強い立場にある側は弱い側の特性に応じた指導を行う責任を有するとされるが,学生の特性に応じて調整する必要があるのは,罰や強制などのネガティブな影響力の方であるということを本研究は明らかにしたといえる。
引用文献
Bartholomew, K. & Horowitz, L. M. 1991 Attachment styles among young adults: A test of four-category model. Journal of Personality and Social Psychology, 61, 226-244.
藤井義久 1998 大学生活不安尺度の作成および信頼性・妥当性の検討 心理学研究, 68, 441-448.
Imai, Y. 1993 Perceived social power and power motive in interpersonal relationships. Journal of Social Behavior and Personality, 8, 687-702.
加藤知佳子 2012 大学教員が学生に与える社会的影響力-学生の成人愛着スタイルによる違い-,日本教育心理学会第54回総会発表論文集,p. 771.
加藤和生 1998/9 Bartholomewらの4分類愛着スタイル尺度(RQ)の日本語版の作成 認知・体験過程研究, 7, 41-50.
加藤(2012)は,学生の特性の中から成人愛着スタイルをとりあげ,学生が教員も含めた重要な他者から受ける社会的影響力について検討した。そこでは,学生の成人愛着スタイルによって,学生が教員から受ける社会的影響力が異なることは明らかになったが,具体的にどのような種類の影響力かについては不明であった。
そこで本研究では,教員が学生に与える社会的影響力の内容に関する検討を行うことを目的とする。
方法
被験者は四年制大学および短期大学の学生304名である。回答に欠損が多い者を除いた214名(平均年齢18.6歳,SD=1.04,男性52名,女性161名,その他1名)を分析の対象とした。
被験者には,回答を拒否しても何ら不利益は生じないことを含めたインフォームド・コンセントを実施して,倫理的配慮を行った。
質問紙としては,1) Bartholomewら(1991)の4分類愛着スタイル尺度(Relationship Questionnaire; RQ)(加藤, 1998/9),2) Imai(1993)の社会的影響力尺度(Perceived Social Power Scale; PSPS),3)藤井(1998)の大学生活不安尺度の3尺度を用いた。大学教員についての社会的影響力は2)によって評定された。
結果
RQによって評定された愛着スタイルの割合は,安定型が28%,拒絶型が7%,とらわれ型が41%,恐れ型が24%であった。
大学生活不安尺度(以下,不安尺度)のα係数は .84であり,内的整合性が認められた。愛着スタイルを独立変数,大学生活不安尺度の得点(以下,不安得点)を従属変数とする一元配置分散分析を行ったところ,有意差が認められた(F(3, 210)=5.064, p<.005)。post hoc 検定(Tamhane法)によって,とらわれ型は安定型よりも有意に高い不安を感じていることが示された。
大学教員の社会的影響力に関しては,天井効果の見られた2項目(EXP3,EXP4:今井(1993)参照)を削除し,因子分析を行った結果3因子が抽出されたことから,それぞれ「魅力と支援」,「専門性と正当性」,「強制と従属」と命名し,愛着スタイルを独立変数,各因子(項目の合計得点)を従属変数とする一元配置の分散分析を行ったところ,「強制と従属」因子について,有意差が認められた(F(2, 210)=6.040, p<.001)。post hoc 検定(Tamhane法)によって,拒絶型およびとらわれ型は安定型よりも有意に「強制と従属」などのネガティブな影響を受けることが示された。
前の研究(加藤, 2012)でも,とらわれ型は安定型よりも有意に教員の社会的影響力を受けることが示されていたが,本研究によって,その影響力の内容は,「強制と従属」のようなネガティブな影響力であることが示された。
考察
とらわれ型の学生も,「魅力と支援」といったポジティブな影響力については安定型の学生と有意差が認められないことから,「強制と従属」などのネガティブな影響力を選択的に受容しているというよりは,自己観に合致しているネガティブな影響力を増幅して感じているのだろうと推測される。一方,大学生活に関する不安については安定型と有意差のない拒絶型の学生において,教員からのネガティブな社会的影響については安定型と有意差が認められた理由は定かではないが,一見不安そうでもなく,他者から距離をおいている拒絶型の学生が,実は教員からネガティブな影響を受けていると評定している点は,指導上はより注意を要すると思われる。
ハラスメント予防においても,強い立場にある側は弱い側の特性に応じた指導を行う責任を有するとされるが,学生の特性に応じて調整する必要があるのは,罰や強制などのネガティブな影響力の方であるということを本研究は明らかにしたといえる。
引用文献
Bartholomew, K. & Horowitz, L. M. 1991 Attachment styles among young adults: A test of four-category model. Journal of Personality and Social Psychology, 61, 226-244.
藤井義久 1998 大学生活不安尺度の作成および信頼性・妥当性の検討 心理学研究, 68, 441-448.
Imai, Y. 1993 Perceived social power and power motive in interpersonal relationships. Journal of Social Behavior and Personality, 8, 687-702.
加藤知佳子 2012 大学教員が学生に与える社会的影響力-学生の成人愛着スタイルによる違い-,日本教育心理学会第54回総会発表論文集,p. 771.
加藤和生 1998/9 Bartholomewらの4分類愛着スタイル尺度(RQ)の日本語版の作成 認知・体験過程研究, 7, 41-50.