[PB027] 同一筆者が書いた異なる文字の部分を組み合わせた場合の筆跡個性
キーワード:漢字, 部首, 筆者識別
[目的] 筆跡は,筆者の書字行動の一部が紙の上に残された軌跡であることから,文字を書くための身体の運動の個人性は,書字行動の結果としての紙の上に残された色材の痕跡(=筆跡)にも反映されていると考えられる。漢字の字体の学習では,「短い横画+長い縦画+左はらい+右はらい=木」のように,1字画ずつ組み合わせる,『「きへん」に「白」で「柏」』のように意味やカテゴリーを示す部分(通常は部首)と音を示す部分を組み合わせる,「日+横画=目」のように字体が類似した漢字を用いる,などの学習方略がある。構成要素の組み合わせや,類似字体の漢字をもとにする学習方略により字体を学習するのであれば,新たに学習する漢字においても,共通部分には習得済みの書き方でその部分を書字することが考えられる。しかしながら,書字の学習では,個々の字画を正確に書くことのほかに文字の形態を整える必要がある。この過程では,既知の漢字の書字において習得した書き方に修正や変更が加わる。このため,基本的な字画の組み合わせが共通な字画であっても書字の仕方が異なっており,共通な部分を持つが異なる漢字で筆者識別を正しく行うことが困難であることはこれまで示してきた。しかし,文字の傾きや点画の始筆位置などには,文字種にかかわらずその人らしさがみられることがあることも知られている。本報告では,複数の局所的な共通部分に,書字行動の共通性がみられるかを考察した。
[方法] 成人10人の筆者が5回ずつ記載した「松,支,枝,板」を用いて筆者識別を行った。識別では,「松,支」を筆者が既知のデータ,「枝,板」を筆者が未知のデータとした。筆者識別には,「松,板,枝」の「きへん」部分と,「支,枝,板」の「又」部分を用いた。識別に用いた部分は,あらかじめ座標を測定する箇所を定めておき,計測箇所の座標を測定した。得られた座標値は,位置と大きさについて規格化した。筆者が既知の「松,支」の各計測点の座標は,同一人の繰り返し5回分の平均を求め,その筆者の「きへん」,「又」部の計測点の座標値とした。筆者が未知の「枝,板」は,それぞれの文字の「きへん」部分と「又」部分を識別に用いた。識別では,「きへん」による識別,「又」部による識別,「きへん」と「又」部の両者を用いた識別を行った。識別は,筆者が未知の各文字50個のデータ(筆者10人×繰り返し5回)と,筆者が既知の10人分のデータ(同一人の繰り返し5回の平均)について多次元ユークリッド距離を求め,未知データと既知データのユークリッド距離が最も小さい既知データを当該未知データの筆者とした。すべての未知データについて識別を行い,正しく筆者が識別された未知データの個数により,識別の正答率を求めた。
[結果および考察] 「きへん」の正答率は,「枝」で62%,「板」で60%であった。「又」は,「枝」で56%,「板」で44%であった。「きへん」と「又」の両者では,「枝」で72%,「板」で64%であった。「きへん」または「又」部のみでは,「きへん」のほうが正答率が高かった。これは,「きへん」は,文字の左側部分全体を占めており,文字の縦方向の大きさと「きへん」部分の縦方向の大きさがほぼ等しく,右側部分との独立性が高いためと考えられた。一方,「又」部は,特に「板」の場合に,字画の構成要素は同じであるが,「板」では,「支」の「又」部よりはむしろ「反」の一部としてとらえられ,「反」の形態に対応して縦長の形態になったためと考えられた。字画構成が共通でも全体の形態に対応して異なる書き方がなされること,ただし,複数部分の組み合わせで識別精度が向上することから,共通の字画構成ではその人なりの書き方がなされることがわかった。
[方法] 成人10人の筆者が5回ずつ記載した「松,支,枝,板」を用いて筆者識別を行った。識別では,「松,支」を筆者が既知のデータ,「枝,板」を筆者が未知のデータとした。筆者識別には,「松,板,枝」の「きへん」部分と,「支,枝,板」の「又」部分を用いた。識別に用いた部分は,あらかじめ座標を測定する箇所を定めておき,計測箇所の座標を測定した。得られた座標値は,位置と大きさについて規格化した。筆者が既知の「松,支」の各計測点の座標は,同一人の繰り返し5回分の平均を求め,その筆者の「きへん」,「又」部の計測点の座標値とした。筆者が未知の「枝,板」は,それぞれの文字の「きへん」部分と「又」部分を識別に用いた。識別では,「きへん」による識別,「又」部による識別,「きへん」と「又」部の両者を用いた識別を行った。識別は,筆者が未知の各文字50個のデータ(筆者10人×繰り返し5回)と,筆者が既知の10人分のデータ(同一人の繰り返し5回の平均)について多次元ユークリッド距離を求め,未知データと既知データのユークリッド距離が最も小さい既知データを当該未知データの筆者とした。すべての未知データについて識別を行い,正しく筆者が識別された未知データの個数により,識別の正答率を求めた。
[結果および考察] 「きへん」の正答率は,「枝」で62%,「板」で60%であった。「又」は,「枝」で56%,「板」で44%であった。「きへん」と「又」の両者では,「枝」で72%,「板」で64%であった。「きへん」または「又」部のみでは,「きへん」のほうが正答率が高かった。これは,「きへん」は,文字の左側部分全体を占めており,文字の縦方向の大きさと「きへん」部分の縦方向の大きさがほぼ等しく,右側部分との独立性が高いためと考えられた。一方,「又」部は,特に「板」の場合に,字画の構成要素は同じであるが,「板」では,「支」の「又」部よりはむしろ「反」の一部としてとらえられ,「反」の形態に対応して縦長の形態になったためと考えられた。字画構成が共通でも全体の形態に対応して異なる書き方がなされること,ただし,複数部分の組み合わせで識別精度が向上することから,共通の字画構成ではその人なりの書き方がなされることがわかった。