[PB031] 視覚的素材を用いた診断的評価の有効性の検討Ⅰ
中学校理科の授業設計のツールとして
キーワード:診断的評価, 授業設計, 中学校理科
1研究の目的
授業において,学習者の実態を把握する診断的評価は,形成的評価や,総括的評価と同様に,効果的な学習を促すためにきわめて重要である。しかし,学校教育においては,テスト等の結果の評価や,成績ばかりがとりざたされる一方,授業設計における診断的評価の重要生や,具体的な実施方法については十分に検討されていないのが現状である。荒尾(2013)は,中学校教員を対象として,授業改善の具体的実施や改善策について自由記述式調査を実施したが,回答があった60の事例の内,診断的評価に関連する記述は認められなかった。また,教員への聞き取り調査によると,過去の主観的経験に基づいて授業設計を行っている実態が把握された。
診断的評価は一般に,対象学習の基礎となる先行学習内容に関するアチーブメントテストが多く用いられるが,学習者の既存知識の深さや思考の特徴を柔軟に把握することは容易ではない。よって,診断的評価に特化し上記の目的を満たした新たな診断的評価方法の開発の必要があると考えた。
そこで,本研究では中学校理科の授業設計において,視覚的素材を用いた診断的評価を開発し,授業設計における有効性を検討することとした。
2研究方法
診断的評価のための視覚的素材と提示法は,以下の要件を満たすことが必要であると考えた。
・授業設計に活かすための情報を得られるもの
・教師にとって予定調和的ではなく,生徒の実態について新たな発見が可能なもの
・評価者が異なっても解釈がある程度一致し,評価の基準が設置可能であるもの
・診断的評価をするための素材づくりが容易
最終的に作成したものは,生徒にとって既習であり,かつ学習する単元にとって重要である内容を含む,教科書等に掲載されている視覚的素材を提示し,それについて自由に意見を求め既存知識や理解の深さを確認するという手法を考案した。
視覚的素材による診断的評価を用いた授業設計とその分析についての実践については,中学校2年生「電流の働きはどのように表したらよいのか」と,「呼吸とはどのような働きか」について行った。
3結果と考察
【実践1電流の働きはどのように表したらよいか】
本時の前に,家庭にある電流の働きを表す量の例を挙げ,表示されているWの計算について説明を行った。その後,視覚的素材を提示し,素材に関連する既習事項などを自由に記述させた(診断的評価)。回答を複数の理科教員で分析した結果以下のような傾向が見られた。ア)電流の働きの大きさが,電圧や電流の値と関連づけられていない。イ)電力について記述した生徒は,13%で,教師が経験的に予測した値よりも少数であった。
本授業では,診断的評価ア)を基に,豆球の明るさが異なる回路の電流と電圧を測定させれば,生徒は素直に実験データを受け入れて分析し,豆球の明るさと電流値,電圧値それぞれが単独で相関するのではなく,電流と電圧をまとめて考えると相関することを発見できると推測し授業を設計した。授業後に分析すると,生徒は豆球の明るさと電圧,電流の個々の相関にこだわらず(実験結果が間違いとせず),実験結果を素直に受け入れ,考察を行うことができたと推測される事実が見られた。
【実践2 呼吸とはどのような働きか】
本時の前に,小学校の教科書にある内臓の模式図を提示し,知っている事,疑問点について多く具体的な記述を求めた(診断的評価)。分析すると,次のような結果が見られた。肺に関する記述については,気管もしくはガス交換について100%記述されていたが,肺内の血管に関する記述はほとんど見られなかった。よって,生徒にとって肺は表面的な外呼吸をするという認識はあるが,血管を通してガス交換する機能があることについては関連づけて理解していないことが予測された。
そのため,豚の肺にある血管の存在を試行錯誤させながら生徒に見つけさせる授業設計を行い,血管の存在を発見的に認識できるようにした。授業後の分析の結果,気管支に空気を送り込んで肺が膨らむ様子を経験した生徒は,膨らまない管はないはずと血管にも空気を送る様子が観察開始後15分程度見られたが,肺の機能と合わせて考え,詳細に観察することによって,肺の血管の存在に気づく様子が確認できた。
以上の2例から,視覚素材を用いた診断的評価は,授業設計に有効であるとの示唆を得た。
授業において,学習者の実態を把握する診断的評価は,形成的評価や,総括的評価と同様に,効果的な学習を促すためにきわめて重要である。しかし,学校教育においては,テスト等の結果の評価や,成績ばかりがとりざたされる一方,授業設計における診断的評価の重要生や,具体的な実施方法については十分に検討されていないのが現状である。荒尾(2013)は,中学校教員を対象として,授業改善の具体的実施や改善策について自由記述式調査を実施したが,回答があった60の事例の内,診断的評価に関連する記述は認められなかった。また,教員への聞き取り調査によると,過去の主観的経験に基づいて授業設計を行っている実態が把握された。
診断的評価は一般に,対象学習の基礎となる先行学習内容に関するアチーブメントテストが多く用いられるが,学習者の既存知識の深さや思考の特徴を柔軟に把握することは容易ではない。よって,診断的評価に特化し上記の目的を満たした新たな診断的評価方法の開発の必要があると考えた。
そこで,本研究では中学校理科の授業設計において,視覚的素材を用いた診断的評価を開発し,授業設計における有効性を検討することとした。
2研究方法
診断的評価のための視覚的素材と提示法は,以下の要件を満たすことが必要であると考えた。
・授業設計に活かすための情報を得られるもの
・教師にとって予定調和的ではなく,生徒の実態について新たな発見が可能なもの
・評価者が異なっても解釈がある程度一致し,評価の基準が設置可能であるもの
・診断的評価をするための素材づくりが容易
最終的に作成したものは,生徒にとって既習であり,かつ学習する単元にとって重要である内容を含む,教科書等に掲載されている視覚的素材を提示し,それについて自由に意見を求め既存知識や理解の深さを確認するという手法を考案した。
視覚的素材による診断的評価を用いた授業設計とその分析についての実践については,中学校2年生「電流の働きはどのように表したらよいのか」と,「呼吸とはどのような働きか」について行った。
3結果と考察
【実践1電流の働きはどのように表したらよいか】
本時の前に,家庭にある電流の働きを表す量の例を挙げ,表示されているWの計算について説明を行った。その後,視覚的素材を提示し,素材に関連する既習事項などを自由に記述させた(診断的評価)。回答を複数の理科教員で分析した結果以下のような傾向が見られた。ア)電流の働きの大きさが,電圧や電流の値と関連づけられていない。イ)電力について記述した生徒は,13%で,教師が経験的に予測した値よりも少数であった。
本授業では,診断的評価ア)を基に,豆球の明るさが異なる回路の電流と電圧を測定させれば,生徒は素直に実験データを受け入れて分析し,豆球の明るさと電流値,電圧値それぞれが単独で相関するのではなく,電流と電圧をまとめて考えると相関することを発見できると推測し授業を設計した。授業後に分析すると,生徒は豆球の明るさと電圧,電流の個々の相関にこだわらず(実験結果が間違いとせず),実験結果を素直に受け入れ,考察を行うことができたと推測される事実が見られた。
【実践2 呼吸とはどのような働きか】
本時の前に,小学校の教科書にある内臓の模式図を提示し,知っている事,疑問点について多く具体的な記述を求めた(診断的評価)。分析すると,次のような結果が見られた。肺に関する記述については,気管もしくはガス交換について100%記述されていたが,肺内の血管に関する記述はほとんど見られなかった。よって,生徒にとって肺は表面的な外呼吸をするという認識はあるが,血管を通してガス交換する機能があることについては関連づけて理解していないことが予測された。
そのため,豚の肺にある血管の存在を試行錯誤させながら生徒に見つけさせる授業設計を行い,血管の存在を発見的に認識できるようにした。授業後の分析の結果,気管支に空気を送り込んで肺が膨らむ様子を経験した生徒は,膨らまない管はないはずと血管にも空気を送る様子が観察開始後15分程度見られたが,肺の機能と合わせて考え,詳細に観察することによって,肺の血管の存在に気づく様子が確認できた。
以上の2例から,視覚素材を用いた診断的評価は,授業設計に有効であるとの示唆を得た。