日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PB

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 13:30 〜 15:30 5階ラウンジ (5階)

[PB035] 田中ビネー知能検査Vの4~7歳級の項目の因子分析

吉村拓馬1, 大六一志2 (1.横須賀市療育相談センター, 2.筑波大学)

キーワード:知能検査, 田中ビネー知能検査, WISC

目 的
子どもの発達のアセスメントにおいて,知能検査・発達検査を活用することが重要である。本研究では田中ビネー知能検査V(以下,ビネーV)に関して,項目の因子分析を行い構成概念の特徴を検討することを目的とする。
方 法
A県内のB療育センターを受診した児童362名(男268名,女94名)にビネーVを実施した。検査時の生活年齢の平均は73.3か月(SDは17.0)であった。うち46名にWISC-IIIまたはWISC-IVを実施した。WISC実施時の生活年齢の平均は87.9か月(SDは14.6)であった。
結 果
4~7歳級の項目(24項目)に対して,探索的因子分析(主因子法,Biquartimin回転)を行った結果,6因子が抽出された。表1に回転後の因子負荷量,初期の共通性を示した。第I因子は言語的刺激・視覚的刺激に対する比較的単純な反応を求める5項目,第II因子は5,6歳級の「絵の不合理」,第III因子は生活に近い事柄の知識や語彙に関する3項目,第IV因子は模写や具体物を伴う作業に関する8項目,第V因子は6,7歳級の「数の比較」,第IV因子は問題文の正確な理解や比較的複雑な言語反応が求められる4項目の因子負荷量が高かった。
抽出された因子ごとの得点(通過項目に1点を与え,合計したもの)とWISCの4つの合成得点(群指数)との相関を算出した。算出にあたっては,項目の難易度が異なること,対象者の年齢の幅が大きいことを考慮して,ビネーV実施時の生活年齢をコントロールした偏相関を採用した。結果を表1に示した。第I因子は「言語理解」および「知覚推理・知覚統合」との相関が強かった。第II因子,第VI因子は「言語理解」との相関が最も強かった。第III因子は「ワーキングメモリ・注意記憶」との相関が強く認められた。第IV因子,第V因子は「知覚推理・知覚統合」との相関が強かった。
考 察
因子分析の結果,刺激の特性や求められる反応の特性によって,6つの異なる因子が抽出された。因子のまとまり,および,WISCの合成得点・群指数との関連は,検査項目の性質から,妥当なものと考えられる。言語,認知,記憶など,主要な知的機能の領域に関わる因子が抽出されており,ビネーVが知能の諸側面を包括的に測定することができる検査であることが確認された。田中ビネー知能検査は一般知能の測定を主眼とした検査であり,その主たる目的は知的な発達の遅れの有無の確認である。本研究の結果は,田中ビネー知能検査が本来持つ特長に加えて,個人内での得意・不得意の把握,知的な障害が伴わない発達障害のある児童のアセスメントや支援への活用の可能性を示唆するものである。知能の構造に関しては,近年CHC理論による整理が進んでいる。田中ビネー知能検査の理論的枠組みの更なる検討は,今後の知能の研究や,より優れた知能検査の開発に寄与すると考えられる。