[PB038] 教員養成大学生における子どもへの「障害の説明力」の評価
Keywords:障害の説明, 特別支援教育, 大学生
Ⅰ.目 的
インクルーシヴ教育の推進に伴い,通常学級の教師が「障害のある子ども」ばかりでなく,周囲の「障害のない子ども(周囲児)」に対して障害を説明する機会は増えていくと考えられる。従って,教員養成大学においては,普通教育を専攻する学生にも周囲児への「障害の説明力」を習得させておくことが望まれる。そこで,本研究では,教員養成大学に在籍する学生の「障害の説明力」について,他領域を専攻する学生と比較することによって特徴づけ,「障害の説明力」を習得するプログラムの基礎的知見を得ることを目的とする。
Ⅱ.方 法
1.対象者:筆者の講義を受講する国立大学と私立大学に在籍する大学生であった。内訳は,普通教育を専攻する大学 3 年生 68 名(普通教育専攻群),特別支援教育を専攻する大学 4 年生と特別専攻科,大学院生22 名(特別支援教育専攻群),他領域(工学・生命環境系)を専門とする大学 1,2 年生 46 名(他領域専攻群)であった。
2.課 題:初回の講義終了後にアンケートの一環として実施した。受講生に対して「もし皆さんが教師となった時,担任している小学校 3 年生の子どもに『障害って何ですか?』と聞かれたら,どのように説明しますか?」とプロジェクタ投映によるスライドに質問文を提示したうえ,口頭で尋ねた。他領域専攻群の学生には,教師という想定は省いて,「もし皆さんが小学生3 年生の子どもに…」と尋ねた。また,回答は任意であり,分からない場合は無記入でもよいこと,回答内容が成績に関与しないこと,自由記述であり,何を書いてもよいことを補足した。
3.「障害の説明力」の評価:周囲児に対する説明の観点としては,筆者が小学校 3 年生程度の理解力を考慮しながら,田中(2007)と相川・仁平(2005)を参考に素案を作成した。それに,小学校 3 年生を担任した経験のある小学校教員 1 名と特別支援学校教員 1 名(いずれも教師歴 10 年以上)との討議による修正を加え,Table 1 のような評価の観点とその趣旨に整理した。
Ⅲ.結 果
1.「障害の説明力」得点:得点化は,評価の観点毎に次のような評価基準によって行った。説明の観点に関する記述がない場合は 0 点,記述があっても記述内容に不足や適切ではない表現が認められた場合,あるいは小学生が理解するためには難しい言葉を使っていると判断された場合は 1 点とした。そして,記述内容が適切で小学校 3 年生程度の理解力に相応すると判断された場合は 2 点を与えた(得点範囲:0-14 点)。その結果,「障害の説明力」得点の各群の平均は,普通教育専攻群 4.58(1.89)点,特別支援教育専攻群 10.86(2.63)点,他領域専攻群では 4.04(2.53)点であり,これらの間に有意差が認められた(F(2,133)=75.44, p<.01)。多重比較によれば,特別支援教育専攻群が他の 2 群に比べて得点が高く,普通教育専攻群と他領域専攻群の間に得点差はないことが示された(MSe= 5.21, p<.05)。
2.説明の観点毎の特徴:各観点について,「記述内容が十分と判断された者」と「それ以外の者」の人数比の群間差を χ2 検定で調べた。その結果,普通教育専攻群は,他群に比べて「2.障害の原因」「3.障害の抱える困難」「4.障害者の気持ち」「6.障害者に対する肯定的な捉え方の促進」において記述が不十分であったり,記述なしであったりする者が多いことが示された。
Ⅳ.考 察
近い将来,通常学級の担任になる可能性のある普通教育専攻の学生における「障害の説明力」が,学校教育を専攻していない他専攻の学生と同水準に止まっている可能性が示唆された。また,説明の観点毎に検討すると,障害の知識の不足や,障害者の視点に立った伝え方ができない傾向が窺われた。これらの観点については,大学の講義のなかで理解を促すと共に,それを他者に説明する機会を設ける等の実践的な学習が必要と考えられる。
インクルーシヴ教育の推進に伴い,通常学級の教師が「障害のある子ども」ばかりでなく,周囲の「障害のない子ども(周囲児)」に対して障害を説明する機会は増えていくと考えられる。従って,教員養成大学においては,普通教育を専攻する学生にも周囲児への「障害の説明力」を習得させておくことが望まれる。そこで,本研究では,教員養成大学に在籍する学生の「障害の説明力」について,他領域を専攻する学生と比較することによって特徴づけ,「障害の説明力」を習得するプログラムの基礎的知見を得ることを目的とする。
Ⅱ.方 法
1.対象者:筆者の講義を受講する国立大学と私立大学に在籍する大学生であった。内訳は,普通教育を専攻する大学 3 年生 68 名(普通教育専攻群),特別支援教育を専攻する大学 4 年生と特別専攻科,大学院生22 名(特別支援教育専攻群),他領域(工学・生命環境系)を専門とする大学 1,2 年生 46 名(他領域専攻群)であった。
2.課 題:初回の講義終了後にアンケートの一環として実施した。受講生に対して「もし皆さんが教師となった時,担任している小学校 3 年生の子どもに『障害って何ですか?』と聞かれたら,どのように説明しますか?」とプロジェクタ投映によるスライドに質問文を提示したうえ,口頭で尋ねた。他領域専攻群の学生には,教師という想定は省いて,「もし皆さんが小学生3 年生の子どもに…」と尋ねた。また,回答は任意であり,分からない場合は無記入でもよいこと,回答内容が成績に関与しないこと,自由記述であり,何を書いてもよいことを補足した。
3.「障害の説明力」の評価:周囲児に対する説明の観点としては,筆者が小学校 3 年生程度の理解力を考慮しながら,田中(2007)と相川・仁平(2005)を参考に素案を作成した。それに,小学校 3 年生を担任した経験のある小学校教員 1 名と特別支援学校教員 1 名(いずれも教師歴 10 年以上)との討議による修正を加え,Table 1 のような評価の観点とその趣旨に整理した。
Ⅲ.結 果
1.「障害の説明力」得点:得点化は,評価の観点毎に次のような評価基準によって行った。説明の観点に関する記述がない場合は 0 点,記述があっても記述内容に不足や適切ではない表現が認められた場合,あるいは小学生が理解するためには難しい言葉を使っていると判断された場合は 1 点とした。そして,記述内容が適切で小学校 3 年生程度の理解力に相応すると判断された場合は 2 点を与えた(得点範囲:0-14 点)。その結果,「障害の説明力」得点の各群の平均は,普通教育専攻群 4.58(1.89)点,特別支援教育専攻群 10.86(2.63)点,他領域専攻群では 4.04(2.53)点であり,これらの間に有意差が認められた(F(2,133)=75.44, p<.01)。多重比較によれば,特別支援教育専攻群が他の 2 群に比べて得点が高く,普通教育専攻群と他領域専攻群の間に得点差はないことが示された(MSe= 5.21, p<.05)。
2.説明の観点毎の特徴:各観点について,「記述内容が十分と判断された者」と「それ以外の者」の人数比の群間差を χ2 検定で調べた。その結果,普通教育専攻群は,他群に比べて「2.障害の原因」「3.障害の抱える困難」「4.障害者の気持ち」「6.障害者に対する肯定的な捉え方の促進」において記述が不十分であったり,記述なしであったりする者が多いことが示された。
Ⅳ.考 察
近い将来,通常学級の担任になる可能性のある普通教育専攻の学生における「障害の説明力」が,学校教育を専攻していない他専攻の学生と同水準に止まっている可能性が示唆された。また,説明の観点毎に検討すると,障害の知識の不足や,障害者の視点に立った伝え方ができない傾向が窺われた。これらの観点については,大学の講義のなかで理解を促すと共に,それを他者に説明する機会を設ける等の実践的な学習が必要と考えられる。