日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PB

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 13:30 〜 15:30 5階ラウンジ (5階)

[PB047] ディスレクシア・スクリーニング検査(ELC: Easy Literacy Check)による音読・音韻評価

読み書き障害2事例の比較検討を通して

安藤壽子1, 瀬戸口裕二2 (1.お茶の水女子大学, 2.名寄市立大学)

キーワード:ディスレクシア, スクリーニング検査, 音韻処理

はじめに
発達性ディスレクシア(以下ディスレクシア)は,IDA(International Dyslexia Association)の定義によれば,神経生物学的要因による特異的な学習障害で単語の読み書きにおける正確さと流暢性,decoding(文字記号の音声への変換)の障害を特徴とし,これらの障害は言語の音韻処理障害に起因し,全般的な知能は正常で適切な教育環境にありながらそこから予測できない低い読みレベルを示す(Lyon, Shaywitz, & Shaywitz, 2003)。また,障害は生涯継続することから,早期発見・早期介入によって認知的な強さの伸長と弱さの克服を図ることが重要とされる(Shaywitz,2003)。
一方,文部科学省の全国調査(2012)によれば,知的発達に遅れが無く「読みあるいは書き」領域に困難がある児童生徒の割合は2.4%である。しかし,知的能力に対する読み書き能力の乖離診断だけでは,ADHDや自閉症スペクトラム等による読み書き困難が含まれディスレクシアとの判別は困難であり,decoding,音韻操作,流暢性等に対する効果的な指導に結びつかない(加藤,2013)。
Snowling(2000)は,認知特性に応じた効果的な指導を行うためにディスレクシアと全般的知的遅れによる読み困難を区別することが重要で,両者の違いは音韻処理障害の有無にあると述べ,音韻処理能力のアセスメントの重要性を指摘した。
目的
本研究は,教師がディスレクシアの兆候を発見し適切な指導を行う手がかりを得るために筆者等が開発したディスレクシア・スクリーニング検査(ELC)を用いて,読み書き障害2事例を分析し,特性に応じた指導の検討を行うことを目的とした。
方法
対象児:小学校5年生男子2名。通常学級在籍。A児はADHDの診断があるが特に支援無し。B児はディスレクアの診断があり通級指導教室を利用。
検査課題:ELCは3課題で構成され,短文音読課題(文脈のある文章)で音読特徴を捉え,音韻操作課題(単語と非語の逆唱・削除)で音韻意識を評価し,単語・非語音読課題でdecoding能力を評価する。課題はPCで提示,正答数(音読得点),反応時間(音読速度),誤読特徴により評価した。
結果
ELCの結果を3年生の標準値と比較した(表1-3)。音読レベルと誤読特徴:短文音読課題で,A児は低得点で速度も遅く,ディスレクシアの誤読特徴が認められ,B児は得点,速度とも3年標準域で,ディスレクシアの誤読特徴は認められなかった。
音韻処理レベルと音読方略:音韻操作課題で,A児は得点が-1SD レベルで速度は3年生標準域,B児は特に削除で高得点,速度はAより遅いが3年生標準域。単語・非語音読課題で,A・Bとも単語は満点だが非語が低得点でAは速度も遅かった。
考察
ELCによる音読特徴,音韻意識,decoding能力の評価結果から,A児にはディスレクシアの特徴が認められ,対してB児は学業不振と推測され,ディスレクシア診断の有無と逆の結果になった。したがって,A児には音韻処理の弱さへの介入とトップダウン的な読み方略の促進,B児にはスローラーナー対応のスモール・ステップ指導とボトムアップ的読み方略の促進が効果的と判断された。
今後,A児・B児のように,音韻意識や注意など就学前から健常児が自然に獲得する読み書きレディネスの形成につまずきのある子どもに対し,失敗経験を軽減し負担なく取り組むことができる認知促進プログラムの開発を行っていきたい。