日本教育心理学会第56回総会

講演情報

ポスター発表 » ポスター発表 PB

ポスター発表 PB

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 13:30 〜 15:30 5階ラウンジ (5階)

[PB048] 緘黙生徒に対する高校教員の指導意識について

緘黙についての理解と指導意識の類型

成瀬智仁 (神戸国際大学)

キーワード:緘黙生徒, 高校教員, 支援

1.目的
緘黙生徒は自己表現することが少ないために理解されにくく特に,重大な不適応問題がない場合には注目されることがないままに見過ごされることが多い。しかし,教科指導や校内行事など学校現場ではそのかかわり方が難しく,緘黙生徒の指導にはとまどうことが多い(成瀬,2007)。特に進路指導では就職・進学の面接指導の難しさだけでなく,卒業後の不適応(離職・中退)なども多く見られる。そこで本研究では緘黙生徒に対する高校教員の意識を明らかにし,緘黙生徒の指導援助に必要な教員の課題を検討する。
2.方法
①調査時期と手続き:2010年10~11月予備調査:公立高校教員15名に対して緘黙生徒の認知調査実施。本調査:2011年2月~3月に質問紙の配布による依頼,後日回収。
②調査協力者:高等学校教員(公立共学校,私学男子校,私学共学校)124名(男性91名,女性33名) ,平均年齢40.5歳(SD=11.69,内訳:20代19名,30代26名,40代30名,50代49名)
③調査内容:緘黙についての知識4項目,緘黙生徒に対する指導意識9項目(5件法),緘黙指導の体制6項目,基本的特性:性別,年齢,教職経験。
3.結果
(1) 緘黙生徒に対する指導意識 「進路や将来を心配する」は「そう思う」(「やや思う」合わせて以下同様)11.0%であり,「心配でかかわる」は24.5%,「消極的だが問題はない」47.1%,「安定した性格で心配しない」69.8,%「不安で悩んでいる」は20.1%、「大人しい個性」24.3%であった。緘黙生徒の指導では「必要なら話すので待つ」24.3%「声を出そうと励ます」が51.2%「説諭・注意・叱責」が65.3%,だった(図1)。一要因分散分析の結果,「緘黙の知識」がない教員ほど「将来を心配する」とは「思わない」F(2,116)=3.08,p<.005、「大人しい個性」とは「思わない」F(2,116)=4.78, p<.001だった。教員経験年数の長いほど「説諭・注意・叱責する」F(3,116)=5.06,p<.001や,「声を出そうと励ます」F(3,115)=2.60,p<.005傾向が見られた。また,「緘黙生徒の理解が困難」であるほど「進路や将来を心配」していないF(3,115)=2.81,p<.005結果だった。
(2)指導意識の類型 指導意識項目をもとに主成分分析した結果から(KMO=.629)「安定した大人しい性格」「積極的指導」の2成分が得られた(表1)。また,主成分得点をもとにクラスター分析をした結果,「放置型」「困惑型」「介入型」「見守り型」のクラスターが得られた(図2)。クラスターと年代別の分析では20代が「放置型」、30代が「介入型」,50代が「困惑型」「見守り型」が多くF(2,115)=4.67,p<.001年代間での差がみられた。
4.考察 多くの高校教員は緘黙生徒の知識や指導についての知識も自信もなく,経験豊富な教員においても緘黙生徒を理解した指導がなされているとはいえず,緘黙生徒の支援ニーズに応じきれていないと考えられる。また,幼児童期の緘黙の指導についての研究はみられるが(河井1994,角田2011etc.),思春期青年期についての継続的な文献は少ない。今後,高校現場での特別支援として,教員に対して情緒障害である緘黙生徒の理解をすすめ,適切なかかわりかたや指導をサポートする研究や体制作りが課題である。