日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PB

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 13:30 〜 15:30 5階ラウンジ (5階)

[PB057] 学業の失敗に対する友人の慰めによって生じる感情

共感と励ましの言葉かけとそっと離れる行動の違い

小川翔大 (東京学芸大学大学院)

キーワード:慰め, 青年期, 友人

目的 青年にとって学業は友人と優劣を比較することが多い。そのため,学業の失敗での友人の慰めは受け手を傷つける可能性が高い。本研究では,学業の失敗で友人から慰められた場合,友人の慰め方によって,慰めの受け手に生じる感情が異なるのかを検討する。
方法 調査対象者 中学生384名(男性206名,女性178名;平均年齢13.20歳,SD=0.70),高校生310名(男性150名,女性160名;平均年齢15.85歳,SD=0.36),大学生264名(男性155名,女性109名;平均年齢19.80歳,SD=1.13)。
手続き 質問紙による場面想定法を用いた。調査対象者は同じ学校にいる親しい同性の友人Aを思い浮かべ,学業の失敗の話(表1)を読んだ。話の中で友人Aから慰められた場面を3つ想像してもらった(励まし:「今はうまくいかなくてもきっと大丈夫だよ」と言われる,共感:「つらい気持ちだよね,大丈夫?」と言われる,離れる:友人Aはあなたに声をかけずそっとその場を離れる)。各場面で以下の質問項目に,とても感じる(6点)-まったく感じない(1点)で評定してもらった。
慰められた時の感情 感謝 (3項目:嬉しさ,友人Aへのありがたさ,安心),自責 (4項目:恥ずかしさ,自分への情けなさ,自分への苛立ち,自分への怒り),反発 (2項目:友人Aへの怒り,友人Aへの苛立ち)。
結果 慰め方による感情得点の違いを検討するため,各感情で学校段階(3)×慰め方(2)の分散分析を行った。慰め方の主効果:感謝(F(2,1910)=61.12, p<.01),反発(F(2,1910)=5.94, p<.01)で有意であり,自責ではみられなかった。多重比較の結果,感謝では,励まし(3.89)が最も高く,共感(3.72),離れる(3.26)の順に低かった。反発では,共感(2.22)は励まし(2.07)より高く,離れる(2.10)は共感,励まし共に差はなかった。年齢の主効果:感謝(F(2,955)=22.54, p<.01),自責(F(2,955)=10.32, p<.01)で有意であり,反発ではみられなかった。多重比較の結果,感謝は中学生(3.84)が最も高く,大学生(3.66),高校生(3.39)の順に低かった。自責は高校生(3.73)と大学生(3.74)が中学生(3.39)より高かった。慰め方×学校段階の交互作用:感謝(F(4,1910)=8.28, p<.01: 図1),反発(F(4,1910)=6.52, p<.01: 図2)で有意であった。各感情で学校段階別に慰め方の多重比較を行った(表2)
考察 中学生は,励ましと共感が離れるより高かった。中学生は友人と活動を共有することが多いため(榎本, 1999),友人が何もせず離れる事よりは,言語的な慰めを受ける事を期待しているのだろう。しかし高校生は,励ましよりも共感が低かった。これは高校生が,表面的な友人関係から内面的な友人関係へと変化する段階であり(落合・佐藤,1996),友人と内面的に深くつながりたいとする欲求と自分が傷つきたくない欲求の葛藤が生じ始める状態にあるためだと考えられる。共感(同情)は受け手に自分の能力不足を認識させやすい(Graham, 1984)。そのため自己が傷つくことに敏感な高校生では,共感の感謝が励ましよりも低くなったのだろう。
引用文献 ◆榎本淳子. (1999). 青年期における友人との活動と友人に対する感情の発達的変化. 教育心理学研究, 47, 180-190.◆落合良行・佐藤有耕. (1996). 青年期における友達とのつきあい方の発達的変化. 教育心理学研究, 44, 55-65.◆Graham, S. (1984). Communicating sympathy and anger to black and white children: The cognitive (attributional) conseqence of affective cues. Journal of Personality and Social Psychology, 47, 40-54.