The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PB

(5階ラウンジ)

Fri. Nov 7, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 5階ラウンジ (5階)

[PB062] エリクソンの斉一性と連続性を現象学的方法で捉える(1)

アイデンティティ危機でも喪失されない斉一性と連続性とは

小沢一仁 (東京工芸大学)

Keywords:アイデンティティ, 斉一性と連続性, 現象学的方法

1.問題と目的
エリクソンのアイデンティティ概念は,青年理解や人間理解,自己理解に寄与している反面,日本語への翻訳者による小此木(1973)や西平直(2011)においてその難解さが指摘されている。本発表では,エリクソンの記述の中で,斉一性と連続性に着目する。エリクソンは,アイデンティティ危機(以下ID危機)において斉一性と連続性が問題になるとしている(Erikson,1959)。しかし,主観的視点で意識において捉えると,斉一性と連続性が完全に断絶してしまうと,記憶喪失及び多重人格となる。このことから,ID危機においても,喪失されない斉一性と連続性と,ID危機で喪失される斉一性と連続性のふたつのレベルが考えられる。本発表では,前者の斉一性と連続性について概念検討を行うことを目的とする。
2.概念検討に現象学的方法を用いる
竹田(1989)は,現象学的方法について確信成立の条件を明らかにすると述べている。この捉え方をもとに,主観的視点で意識において確信・体験・意味という3つのステップを設定し,ID危機においても喪失されない斉一性と連続性に適用していくことを試みる。
3.ID危機でも喪失されない斉一性と連続性を現象学的方法で捉える
(1)斉一性
①社会の中で自分は生きているという確信
客観的視点では,根本的には現在ここいる個人が他の空間に移動しても同じ人間であることが斉一性である。主観的視点においては,斉一性と連続性とは,様々な空間で社会の中で自分が生きているという確信であるといえる。
②様々な空間における身体的及び心理的体験
社会の中で自分が生きているという確信の根拠として,様々な空間で自分及び他者との間の活動で,五感における身体的体験と,感情や思考などの心理的体験を見出すことができる。
③社会の中で自分が生きているという意味
社会とは他者と共に生きている空間であるという意味づけが根底にあるからこそ,様々な空間における他者との間の活動における身体的及び心理的体験が根拠となり,社会の中で自分は生きているという確信が成立していると考えられる。
(2)連続性
①生涯の中で自分は生きているという確信
客観的視点では,根本的には過去と現在,そして,将来の個人は同じ人間であることが連続性といえる。主観的視点においては,過去から現在そして未来へと自分が生きているという確信であると捉えることができる。さらに,時間の中で起点と終点を考えると,誕生から死までの生涯の中で自分が生きているという確信であるといえる。
②過去の想起及び将来の予期という体験と伝聞情報を受け取る体験
竹田(1989)は現象学において,記憶を思い出すことを想起といい,将来の予想を予期といい,共に確信の根拠である体験となるとする。また,伝聞情報を受け取る体験も確信の根拠となるという。このことから,過去の自分を想起する体験,将来の自分を予期する体験が時間の中で自分が生きているという確信の根拠となっている。さらに,記憶がなく想起できない過去については,親などの養育者から誕生時の様子を伝聞情報として受け取る体験も,誕生から自分は生きているとい確信の根拠となっているといえる。
③誕生から死までの生涯を生きるという意味
自分が生きていることは,誕生から死までの間の生涯である意味づけがあるとえる。つまり,生涯の中で自分が生きているという確信において,すべての時間の流れの中での記憶は想起されず断片的な想起でも,また充分な予期がなくても,自分は生涯を生きていると意味づけているといえる。
(3)斉一性と連続性
以上より,主観的視点においては,斉一性と連続性とは社会及び生涯の中で自分が生きていること捉えることができる。この確信はID危機においても失われることはないものである。この捉え方を元に,鑪(1990)による斉一性と連続性の二つの図式をひとつにまとめると,誕生という起点から,時間的経緯の中で,社会の中という空間的円環において,死という終点まで生涯の中で自分は生きているという図式を描くことができる。
4.課題
本発表で,斉一性と連続性をまず根底のレベルで捉えたことは,アイデンティティ概念を検討する上での基盤となったといえる。この基礎をもとに,ID危機において喪失される斉一性と連続性とは何かを検討していくことが今後の課題である。