The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

ポスター発表 » ポスター発表 PB

ポスター発表 PB

(5階ラウンジ)

Fri. Nov 7, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 5階ラウンジ (5階)

[PB064] キャリアレジリエンス要因の構成概念の検討

児玉真樹子 (広島大学)

Keywords:キャリアレジリエンス要因, 構成概念

問題
本研究ではキャリアレジリエンス要因を「キャリア形成を脅かすリスクに直面した時,それに対処し,キャリア形成を促す,個人の保有している心理的特性」と定義する。キャリアレジリエンス要因を測定する既存の尺度(London, 1993; Noe et al., 1990)は,レジリエンスの構成概念と照らし合わせると,その一部しか扱っていない可能性が高い。そのため,キャリアレジリエンス要因の構成概念を明らかにすることを本研究の目的とする。
Grzeda(1999)などより,キャリアレジリエンス要因を保有しているほどキャリア形成度合が高くなることが考えられる。さらに,キャリア形成上のリスク要因によるキャリア形成へのネガティブな影響を,キャリアレジリエンス要因が減少させるという働きも考えられる(e.g., Cowen & Work, 1988)。キャリアレジリエンス要因の構成概念はこれら2つの働きを示すものとし,それを検証する。
方法
企業で働いている241名分(男性112名,女性129名;平均年齢39.44歳)のデータを用いた。
調査項目としては,キャリアレジリエンス要因を,キャリアレジリエンス要因を測定する既存の尺度とレジリエンス要因を測定する尺度(小塩他, 2002; 森他, 2002など)を基に作成した。さらに,キャリア形成の指標として職業的アイデンティティ(児玉・深田, 2005)とキャリア成熟(坂柳, 1999)と職務関与(安達, 1998)を測定した。また,リスク要因として,高比良(1998)を参考に,ネガティブライフイベント(以下,NLEと呼ぶ)の達成領域と変化領域の2領域について,経験の有無とそのつらさを測定した。NLEの質問項目の内容を経験しており,かつそれをつらかったと認識している場合,NLEを経験した者と判断した。
結果と考察
キャリアレジリエンス要因の因子構造 因子分析を行った結果,チャレンジ因子(α=.89),ソーシャルスキル因子(α=.88),新奇・多様性因子(α=.82),未来志向因子(α=.81),理解力・主張力因子(α=.60),援助志向因子(α=.82)が抽出された。理解力・主張力因子はα係数の値が低かったため除外し,キャリアレジリエンス要因は5つの構成概念からなると解釈した。
相関分析 キャリアレジリエンス要因の各因子とキャリア形成諸指標との相関係数を算出した結果,キャリアレジリエンス要因の全因子の得点が高いほどキャリア形成度合が高くなっていた。よって,キャリアレジリエンス要因の全因子の,キャリア形成への直接的な促進効果は認められた。
NLE経験とキャリアレジリエンス要因の状態 キャリアレジリエンス要因を従属変数とし,NLE経験の有無による差をt検定で検討した結果,チャレンジ因子は,各領域のNLEの経験無群が有群より高かった。この因子が高いほど,NLEそのものを経験したという認知が低くなり,その結果,キャリア形成の度合が高くなると考えられる。
分散分析 キャリアレジリエンス要因(チャレンジ因子以外)の保有度合の高低と,NLEの経験の有無を独立変数,キャリア形成の諸指標を従属変数とした分散分析を行った。交互作用における単純主効果の検定の結果より,キャリア成熟度の関心性以外の従属変数においては,達成領域のNLEを経験した場合,援助志向が高ければキャリア形成に負の影響はないが,援助志向が低いとキャリア形成に負の影響がもたらされることが示された。その他,援助志向が低い場合,変化領域のNLEを経験すると職業的アイデンティティの職業実現感が低くなることも示された。これらはいずれも,援助志向因子がリスク要因によるキャリア形成の諸指標へのネガティブな影響を軽減させることを示している。一方,援助志向が高い場合,達成領域のNLEを経験するとキャリア成熟度の関心性が高まる,すなわち,自らの今後の職業生活について関心が高まることも判明した。
その他,ソーシャルスキル因子が,職業的アイデンティティの職業実現感因子に対して,変化領域のNLEによるネガティブな影響を軽減させる働きを示した。未来志向因子においても,有意傾向ではあるが,職務関与に対して,変化領域のNLEによるネガティブな影響を軽減させる働きを示した。よってソーシャルスキル因子と未来志向因子も,わずかではあるが,リスク要因によるネガティブな影響の軽減効果を示すと言えよう。
以上より本研究では,キャリアレジリエンス要因として,チャレンジ,ソーシャルスキル,未来志向,援助志向の4つの構成概念が確認された。