[PB069] ベビーサインから話し言葉へ
キーワード:ベビーサイン, 自発的象徴的身振り, 範疇化
目的 1988年にAcredolo,L.& Goodwyn,Sらの提唱したベビーサインは,欧米を中心に普及し,近年では日本でも乳幼児のいる家庭で多く使われるようになってきた。その後Acredolo,L.& Goodwyn,Sらは,ベビーサインを介することで,言葉を話せない子どもがおとなとスムーズに意思疎通することが多くなり,意思疎通の困難によるストレスが軽減されること(1996)や,ベビーサインを使用しなかった子どもに比べ,話し言葉の発達が促進されること(2000)などの効果があると報告している。
自発的な象徴的身振りと異なり,ベビーサインを用いたコミュニケーションは,まず,ベビーサインを習得したおとなが,それを子どもに教示するところから始まる。このように人工的に導入されるベビーサインは,自発的な象徴的身振りより定式化されているので,共通認識されやすい。おとなとのやりとりの中で,子どもはベビーサインを自ら用いるようになるが,話し言葉の出現と共に用いる回数は徐々に減っていく。やがておとなとの意思疎通は話し言葉中心となり,最終的にベビーサインは消滅していく(赤津,2013)。
本発表では,乳児期にベビーサインを用いる頻度の高かった子ども1名に関して,教示者である母親とその子どもとのベビーサインを用いたやりとりについて,言葉を話し始めた生後16ヶ月から29ヶ月まで14ヶ月間に渡り追跡調査した結果を報告する。母子のやりとりが,ベビーサインを中心としたものから,話し言葉を中心としたものへと変化していく過程を見ていくことにより,ベビーサイン消滅のきっかけは何なのかを探った。子どもは教示を受けたベビーサインをどのように活用しているのか,話し言葉の出現により母子間のベビーサインの使い方には変化が見られるか,変化がみられる場合,その要因はどのようなものなのか,これら3つの観点から母子のやりとりを検討した。
方法 調査対象者:生後6ヶ月からベビーサインを習っている男児とその母親である。男児が生後16ヶ月時から29ヶ月時までの期間,毎月1回ずつ家庭訪問をした記録を分析対象とした。この男児は,KIDS(乳幼児発達スケール)では,「理解言語」「対成人」「概念」が月齢標準を上回っている。資料:1.母親への聞き取り調査,2.母子のやりとりのエピソード記録(補足としてビデオ映像)を資料とした。1については,現在使用しているベビーサインの種別(母子が互いに使うベビーサイン・母親は使用するが子どもは用いないベビーサイン・子どもが自発的に使うベビーサイン)と子どもの発語の特徴を,2については,母子が絵本を見ている場面とおやつを食べている場面を分析対象とした。
ベビーサインから話し言葉への移行-結果と考察- 生後16ヶ月~18ヶ月:母親が既知のベビーサインを使うように促しても,子どもはジャーゴンで応えようとする一方,新たに習得したベビーサインは自発的に使用する。19ヶ月:一語文の時期。発語できる単語に関してはベビーサインを用いなくなる。未知の単語に関してはベビーサインを用いる。20ヶ月:二語文的ベビーサイン(2つの組み合わせ)が見られる。21ヶ月:二語文の時期。自発的にはベビーサインを使用しなくなる。二語文的ベビーサインは使う。22ヶ月:車,動物,色に関する単語を集中的に発するようになる。範疇化の意識が発生したと考えられる。同様に絵本に描かれた物とそのベビーサインと自分が所有している実物(たとえばラッパ)が対応すると認識できるようになる。ベビーサインを知っている子どもとサインを使って意思疎通する。23ヶ月: 3語文の時期。初めて発語と共にベビーサインを用いる。24ヶ月:幼児音(語の転置)が見られる。25ヶ月:ベビーサインはほとんど用いないが,切迫した場面では発語と共に用いる。26ヶ月:話し方が滑らかになる。独語が見られる。27ヶ月:出会った乳児に「赤ちゃん」のベビーサインをする。28ヶ月:第二質問期。「貸して」のサインをして,相手が理解できないとわかると,「カシテ」と発語する。29ヶ月:平仮名,アルファベットを全て読むことができ,ベビーサインは使わない。
このようにベビーサインは一語文,二語文の生成において言葉を先導するが,急速に言葉に置き換えられていく。範疇化の確立がその転換に対して重要な関わりを持つのではないかと考えられる。言葉が中心化すると,ベビーサインは言葉に対して副次的なものとなり,低年齢的伝達手段と本人にも意識されるようになる。
自発的な象徴的身振りと異なり,ベビーサインを用いたコミュニケーションは,まず,ベビーサインを習得したおとなが,それを子どもに教示するところから始まる。このように人工的に導入されるベビーサインは,自発的な象徴的身振りより定式化されているので,共通認識されやすい。おとなとのやりとりの中で,子どもはベビーサインを自ら用いるようになるが,話し言葉の出現と共に用いる回数は徐々に減っていく。やがておとなとの意思疎通は話し言葉中心となり,最終的にベビーサインは消滅していく(赤津,2013)。
本発表では,乳児期にベビーサインを用いる頻度の高かった子ども1名に関して,教示者である母親とその子どもとのベビーサインを用いたやりとりについて,言葉を話し始めた生後16ヶ月から29ヶ月まで14ヶ月間に渡り追跡調査した結果を報告する。母子のやりとりが,ベビーサインを中心としたものから,話し言葉を中心としたものへと変化していく過程を見ていくことにより,ベビーサイン消滅のきっかけは何なのかを探った。子どもは教示を受けたベビーサインをどのように活用しているのか,話し言葉の出現により母子間のベビーサインの使い方には変化が見られるか,変化がみられる場合,その要因はどのようなものなのか,これら3つの観点から母子のやりとりを検討した。
方法 調査対象者:生後6ヶ月からベビーサインを習っている男児とその母親である。男児が生後16ヶ月時から29ヶ月時までの期間,毎月1回ずつ家庭訪問をした記録を分析対象とした。この男児は,KIDS(乳幼児発達スケール)では,「理解言語」「対成人」「概念」が月齢標準を上回っている。資料:1.母親への聞き取り調査,2.母子のやりとりのエピソード記録(補足としてビデオ映像)を資料とした。1については,現在使用しているベビーサインの種別(母子が互いに使うベビーサイン・母親は使用するが子どもは用いないベビーサイン・子どもが自発的に使うベビーサイン)と子どもの発語の特徴を,2については,母子が絵本を見ている場面とおやつを食べている場面を分析対象とした。
ベビーサインから話し言葉への移行-結果と考察- 生後16ヶ月~18ヶ月:母親が既知のベビーサインを使うように促しても,子どもはジャーゴンで応えようとする一方,新たに習得したベビーサインは自発的に使用する。19ヶ月:一語文の時期。発語できる単語に関してはベビーサインを用いなくなる。未知の単語に関してはベビーサインを用いる。20ヶ月:二語文的ベビーサイン(2つの組み合わせ)が見られる。21ヶ月:二語文の時期。自発的にはベビーサインを使用しなくなる。二語文的ベビーサインは使う。22ヶ月:車,動物,色に関する単語を集中的に発するようになる。範疇化の意識が発生したと考えられる。同様に絵本に描かれた物とそのベビーサインと自分が所有している実物(たとえばラッパ)が対応すると認識できるようになる。ベビーサインを知っている子どもとサインを使って意思疎通する。23ヶ月: 3語文の時期。初めて発語と共にベビーサインを用いる。24ヶ月:幼児音(語の転置)が見られる。25ヶ月:ベビーサインはほとんど用いないが,切迫した場面では発語と共に用いる。26ヶ月:話し方が滑らかになる。独語が見られる。27ヶ月:出会った乳児に「赤ちゃん」のベビーサインをする。28ヶ月:第二質問期。「貸して」のサインをして,相手が理解できないとわかると,「カシテ」と発語する。29ヶ月:平仮名,アルファベットを全て読むことができ,ベビーサインは使わない。
このようにベビーサインは一語文,二語文の生成において言葉を先導するが,急速に言葉に置き換えられていく。範疇化の確立がその転換に対して重要な関わりを持つのではないかと考えられる。言葉が中心化すると,ベビーサインは言葉に対して副次的なものとなり,低年齢的伝達手段と本人にも意識されるようになる。