The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PB

(501)

Fri. Nov 7, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 501 (5階)

[PB084] 現在指向性の持ち方が死について考えることの効果に及ぼす影響

石井僚 (名古屋大学)

Keywords:死, 現在指向性, 時間的態度

問題と目的
青年期において死と対峙することは,その後のよりよい生に結びつく (Wong, 2009; Hee & Eunjoo, 2009)。特に,死を自覚することにより,漫然と過ごしていた時間の貴重さに気がつくようになる (白井, 2001) といった知見からは,青年の時間に対する認知への効果が予想され,石井 (2013) では時間的態度への効果が示されている。
よりよい生に対する効果の検証が進む一方,その効果の個人差は明らかにされていない。効果指標としている時間的展望の獲得期は青年期とされているため (都筑, 1994),その発達の様相によって効果が異なる可能性が考えられる。白井 (2001) の知見から,中心的な効果は現在に対する時間的態度であると予想されるため,死について考えることが効果を持つためには,その効果対象である現在という時間への意識が必要と思われる。時間に対する意識は,時間的展望の1下位概念である時間的指向性として研究が進められているため,本研究では,青年の持つ時間的指向性を個人差要因として,死について考えることの効果にどのような影響を及ぼすのかについて検討する。
仮説 現在指向性が高いほど,死について考えることで時間的態度が肯定的になる。
方 法
対象 私立A大学の学生および公立B短期大学の学生計32名 (男性15名,女性17名;平均年齢19.5歳)。
手続き 両大学の講義時間において,課題およびその前後の質問紙を順に配布し,その場で回答を求め回収する一斉配布,一斉回収方式での実験を実施。課題に取り組む1週間前に課題前の時間的態度と現在指向性を,課題に取り組んだ後すぐに課題後の時間的態度を測定した。
実施時期 2013年10月。
質問紙 ①時間的態度:白井 (1994) の時間的展望体験尺度 (目標指向性,希望,現在の充実感,過去受容;18項目5件法)。②現在指向性:石井 (投稿中) の狭義の時間的指向性尺度から,現在に対する意識を測定する「現在指向性」5項目 (5件法) を用いた。
課題 死についてのエッセイを読ませた後,死および生き方についてどう考えたかをそれぞれ自由記述形式で尋ねた。
結 果
現在指向性の持ち方 現在指向性の記述統計量 (M=3.89, SD=0.67) を算出した (α=.78)。平均値を基準として,その平均値以上の得点群と平均値より低い得点群に実験参加者を分けた。
時間的態度 時間的展望体験尺度の下位尺度ごとの加算平均を下位尺度得点とした (α=.66~.84)。
効果に対する現在指向性の影響 現在という時間への意識によって死について考えることの効果が調整されるという仮説を検証するため,時間的展望体験尺度の各下位尺度の課題前後の差得点を従属変数,現在指向性の高・低群を独立変数としたt検定を行った。その結果,目標指向性 (t (30) = -2.11, p<.05) および現在の充実感 (t (30) = -2.28, p<.05) を従属変数とした場合に有意差がみられ,いずれも現在指向性高群の方が,差得点の平均値は高かった。課題前後における各群の平均値および標準偏差をTable 1に示す。
考 察
現在という時間への意識によって死について考えることの効果が調整されるという仮説が支持された。現在という時間への意識が高い場合には,死について考えることで目標を指向するようになったり,現在に充実感を持ったりするようになる一方,現在への意識が低い場合には正反対の結果が得られた。現在という時間への意識は,死について考えることの効果として予想される時間的態度のレディネスのようなものである可能性が示唆された。デス・エデュケーションの実践を行う際には,現在に対する意識の様相を事前に確認する必要があると思われる。