[PB097] 違反行為をした他者を隠す嘘に対する児童の認識
先行援助エピソードの影響の検討
キーワード:嘘, 善悪判断, 児童
目的
本研究は,違反行為をした他者を隠す嘘に対する児童の認識(嘘と真実の同定や善悪判断)を検討するものである。Greengrass(1972)は,賞品を手に入れる手助けをしてくれた人物が花瓶を割ってしまう,という場面をサクラを用いて設定した。そして,実験に参加した子どもが,手助けをしてくれたサクラが花瓶を割ったことを隠すために嘘をつくかを検討している。その結果,8歳児に比べて,12歳児は手助けをしてくれたサクラを隠すために嘘をつくことを明らかにした。しかしながら,Greengrass(1972)ではこのような嘘に対する子どもの認識は検討されていない。そこで本研究では,隠す(かばう)相手に以前援助を受けたことがあるか否かで,嘘の発言に対する認識に違いが生じるかを明らかにする。
方法
調査対象 公立小学校に通う小学6年生77名(平均年齢11.81歳 男子38名 女子39名)。
課題内容 以前困ったことがあったときに援助をしてくれたクラスメイトが,何らかの違反をしてしまったことを主人公が目撃し,その後教師から違反をした者は誰かと尋ねられる,というストーリー課題が用いられた。先行援助エピソード要因として,援助あり条件(主人公が絵の具セットを忘れて困っていると,クラスメイトが貸してくれた)と援助なし条件(主人公が絵の具セットを忘れて困っていたが,クラスメイトは誰も貸してくれなかった)の2条件が設定された。また発言内容要因については,教師に違反をした者を「知りません」と告げる嘘条件と,「○○がやりました」と告げる真実条件の2条件が設定された。先行援助エピソード要因と発言内容要因の組み合わせから,4つのストーリー課題が作成された。
質問内容 嘘と真実の同定質問 主人公の発言は「嘘」「本当(真実)」「どちらでもない」のどれに該当するかを選択させた。善悪判断質問 主人公の嘘と真実の発言が良いか悪いかを7件法(「とても悪い」から「とても良い」)で尋ねた。
結果
嘘と真実の同定 発言内容の条件と,嘘と真実の同定質問の回答が一致しているか否かで,児童を分類した。その結果,全てのストーリー課題において,80%以上の児童が発言内容の条件と一致した回答をしていることが明らかになった(援助なし-嘘条件:84.4%,援助なし-真実条件:81.8%,援助あり-嘘条件:88.3%,援助あり-真実条件:92.2%)。ストーリー課題間における嘘と真実の区別の差異を明らかにするために,コクランのQ検定を行ったところ,有意差は得られなかった(Q(3)=5.19,ns)。
善悪判断 援助エピソード(援助あり,援助なし)×発言内容(嘘,真実)の被験者内計画による2要因分散分析を行った。なお,分析にあたって善悪判断質問の7件法を-3点~3点に得点化した(表1)。分析の結果,援助エピソードの主効果は有意でなかったが,発言内容の主効果(F(1,76)=43.80,P<.01),および援助エピソードと発言内容の交互作用(F(1,76)=9.12,P<.01)が有意であった。交互作用について単純主効果を検討したところ,発言内容の単純主効果は,援助エピソードの両条件において1%水準で有意であった(援助あり条件:F(1,76)=54.44,P<.01;援助なし条件:F(1,76)=22.83,P<.01)。援助あり,援助なしのいずれにおいても,児童は嘘を真実より悪いと判断していた。それに対し,援助エピソードの単純主効果は発言内容が嘘条件においてのみ有意であった(F(1,76)=15.29,P<.01)。援助なし条件に比べ,援助あり条件における嘘の発言を,児童はより良いととらえていることが示された。
考察
嘘と真実の同定に関しては,先行援助エピソードの有無は影響をもたらさないことが示された。善悪判断に関しては,援助の有無に関わらず,嘘は真実より悪いものと児童は認識していた。これはこれまでの先行研究(楯,2010;楯,2012;楯,2013)の結果と一致していた。また,援助してくれたクラスメイトを隠すためにつく嘘は,そうでないクラスメイトを隠す嘘よりも悪くないと児童は認識していることが示された。これは,Greengrass(1972)が示した子どもの実際の嘘行動と,ある程度対応していると考えられる。
本研究は,違反行為をした他者を隠す嘘に対する児童の認識(嘘と真実の同定や善悪判断)を検討するものである。Greengrass(1972)は,賞品を手に入れる手助けをしてくれた人物が花瓶を割ってしまう,という場面をサクラを用いて設定した。そして,実験に参加した子どもが,手助けをしてくれたサクラが花瓶を割ったことを隠すために嘘をつくかを検討している。その結果,8歳児に比べて,12歳児は手助けをしてくれたサクラを隠すために嘘をつくことを明らかにした。しかしながら,Greengrass(1972)ではこのような嘘に対する子どもの認識は検討されていない。そこで本研究では,隠す(かばう)相手に以前援助を受けたことがあるか否かで,嘘の発言に対する認識に違いが生じるかを明らかにする。
方法
調査対象 公立小学校に通う小学6年生77名(平均年齢11.81歳 男子38名 女子39名)。
課題内容 以前困ったことがあったときに援助をしてくれたクラスメイトが,何らかの違反をしてしまったことを主人公が目撃し,その後教師から違反をした者は誰かと尋ねられる,というストーリー課題が用いられた。先行援助エピソード要因として,援助あり条件(主人公が絵の具セットを忘れて困っていると,クラスメイトが貸してくれた)と援助なし条件(主人公が絵の具セットを忘れて困っていたが,クラスメイトは誰も貸してくれなかった)の2条件が設定された。また発言内容要因については,教師に違反をした者を「知りません」と告げる嘘条件と,「○○がやりました」と告げる真実条件の2条件が設定された。先行援助エピソード要因と発言内容要因の組み合わせから,4つのストーリー課題が作成された。
質問内容 嘘と真実の同定質問 主人公の発言は「嘘」「本当(真実)」「どちらでもない」のどれに該当するかを選択させた。善悪判断質問 主人公の嘘と真実の発言が良いか悪いかを7件法(「とても悪い」から「とても良い」)で尋ねた。
結果
嘘と真実の同定 発言内容の条件と,嘘と真実の同定質問の回答が一致しているか否かで,児童を分類した。その結果,全てのストーリー課題において,80%以上の児童が発言内容の条件と一致した回答をしていることが明らかになった(援助なし-嘘条件:84.4%,援助なし-真実条件:81.8%,援助あり-嘘条件:88.3%,援助あり-真実条件:92.2%)。ストーリー課題間における嘘と真実の区別の差異を明らかにするために,コクランのQ検定を行ったところ,有意差は得られなかった(Q(3)=5.19,ns)。
善悪判断 援助エピソード(援助あり,援助なし)×発言内容(嘘,真実)の被験者内計画による2要因分散分析を行った。なお,分析にあたって善悪判断質問の7件法を-3点~3点に得点化した(表1)。分析の結果,援助エピソードの主効果は有意でなかったが,発言内容の主効果(F(1,76)=43.80,P<.01),および援助エピソードと発言内容の交互作用(F(1,76)=9.12,P<.01)が有意であった。交互作用について単純主効果を検討したところ,発言内容の単純主効果は,援助エピソードの両条件において1%水準で有意であった(援助あり条件:F(1,76)=54.44,P<.01;援助なし条件:F(1,76)=22.83,P<.01)。援助あり,援助なしのいずれにおいても,児童は嘘を真実より悪いと判断していた。それに対し,援助エピソードの単純主効果は発言内容が嘘条件においてのみ有意であった(F(1,76)=15.29,P<.01)。援助なし条件に比べ,援助あり条件における嘘の発言を,児童はより良いととらえていることが示された。
考察
嘘と真実の同定に関しては,先行援助エピソードの有無は影響をもたらさないことが示された。善悪判断に関しては,援助の有無に関わらず,嘘は真実より悪いものと児童は認識していた。これはこれまでの先行研究(楯,2010;楯,2012;楯,2013)の結果と一致していた。また,援助してくれたクラスメイトを隠すためにつく嘘は,そうでないクラスメイトを隠す嘘よりも悪くないと児童は認識していることが示された。これは,Greengrass(1972)が示した子どもの実際の嘘行動と,ある程度対応していると考えられる。