日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PC002] 大学1年生における時間的展望の構造

写真投影法を用いた実態把握と働きかけ

田澤実 (法政大学)

キーワード:時間的展望, 写真投影法, 初年次教育

【問題と目的】都筑(1999)は,大学生の時間的展望が未来志向的であり,将来目標への強い動機に支えられ,統合された過去・現在・未来の関係のうえに,自らの目標が設定されていることを示した。しかしながら,大学新入生は,まだ明確に未来のことを思い描けないことがある。そこで,本研究では,写真投影法(野田,1988)を用いることにした。都筑・白井(2007)は,時間的展望の研究方法上の争点として6点を取り上げている。その中には,「実態をみるのか,働きかけによる変化もみるのか」「過去と現在と未来のつながりをみる」が含まれている。本研究の目的は,写真投影法を用いて大学1年生の時間的展望の構造について実態を把握し,そこから可能な働きかけについて検討することである。なお,以降に示す本研究のデータは,大学1年の前期におこなわれる(いわゆる)基礎ゼミの場面である。
【方法】調査期間:2012年度と2013年度の4月および7月。対象者:大学1年生向けの基礎ゼミの受講生29名であった(2012年度と2013年度の合計)。手続き:4月に写真投影法を用いた自己紹介用のパワーポイントの作成を依頼した。7月にそれらの写真を筆者がカード形式にした。以下の要領で写真カードの配置を依頼した。①写真投影法による自己紹介(4月):先行研究(都筑,2005:田澤,2010)を参考にして以下の教示をした。「あなたがどのような人間であるか分かるような写真を一週間以内に撮って下さい。その際に,あなたの過去,現在,未来を表すような写真を撮ってきてください(例えば,高校時代の思い出の品,現在,好きだと思えるもの,将来なりたい職業についている人など)。必ず自分自身で撮影して下さい。何を撮るかは自由です。人でも物でも風景でも構いません。一日に何枚撮っても構いません。同じものを何枚撮っても構いません。」最低9枚(あなたの過去=3枚,あなたの現在=3枚,あなたの未来=3枚),最高27枚になるように撮影を依頼した。4月に対象者はこれらのスライドを用いて授業内で発表をした。②写真カードの配置(7月):対象者が作成した過去・現在・未来についてのスライドを一枚一枚カード形式にして手渡した。横軸(時系列順)と縦軸(重要度の高い順)を示し,関連があるカードは可能な限りくっつけて配置するに依頼した。個人で作成した後は,これらを二人一組で発表し合うように指示した。
【結果と考察】 ①実態把握 過去,現在,未来の連続性を捉えられる先行研究(園田・穴井,2003;半澤,2013)にならい,各時制におけるつながりの有無に着目して結果をまとめることにした(Table1)。「過去・現在・未来にすべてに,つながりなし」が最も多かった(55.17%)。奥田・半澤(2003)は大学1年生の時間的展望の構造の特徴として,「未来の目標はあるが現在との間がないもの」が多いという結果を見出している。本研究においても,例えば「未来」として,「就職」の写真はあるものの,「現在」の写真とのつながりがないという者が多かった。②働きかけ 大学1年のキャリア発達の課題は「大学進学の目的,選択した専門分野などを,自己の将来のキャリア計画に照らして総合的に検討するとともに,4年間の大学生活(勉学)の目標を明確にし,暫定的な計画を立てる(野々村,2001)」である。大学1年の7月は夏休みをどう過ごすか考えさせる意味でも,計画立案に適した時期といえる。例えば,将来の目標と現在との間に空白があることを学生に可視化したことは,今後の学生生活を考える必要性を感じさせるきっかけになるかもしれない。働きかけとして考えられるのは「この空欄をどうしようか」「現在取り組まなければいけないことは何か」などという問いかけであろう。同様のことは,半澤(2013)の「見える化」ワークでも可能であるが,言語化,文章化がまだうまくいかないような学生には,本研究のような写真を媒介させる方法が有効であると思われる。