[PC007] 3囚人問題はなぜ難しいのか
視点教示の効果
キーワード:3囚人問題, ベイズの定理, 確率推論
3囚人問題(Shimojo & Ichikawa, 1989)はベイズの定理を適用して解決できるが,非常に難しく,しかも正解を納得しがたい。
本研究では,比較的容易なベイズ推論課題が解決できる学習者への,視点教示(佐伯,1987認知科学会)の効果を検証した。
方 法
参加者:青山学院大学社会情報学部での1年生必修科目「統計入門」の受講者のうち,本実験を行った2回の授業にいずれも出席した60名のデータを分析した。
材料と手続き:確率についての学習が2回の授業(1回180分)にわたって行われた。ベイズの定理は2回目の授業で講義された。ベイズの定理の使用を補助する図として,樹形図とルーレット図(Ichikawa, 1989)の説明がなされた。
1回目および2回目の授業終了後に「くじびき課題」(伊藤,2008発心研)の解決を求めた。2回目の「くじびき課題」の解決では,ベイズの定理での仮説とデータの記述が求められた。この問題の正解を呈示した後で,「3囚人問題」の解決を求めた。最初に,事前分布のみが示された未完成の図が呈示された。参加者は,仮説とデータを記述し,問題文に登場する看守の視点から図を完成させて,10分間で解答を行うよう指示された。次に,完全な図とその説明が呈示され,7分間で解答を行った。
結果と考察
くじびき課題
ベイズの定理を未習の時点では,くじびき課題での正答者は2名(3%)であった。
ベイズの定理学習後は,正答者は47名(78%)に増加した。仮説とデータを正しく記述した34名では,正答者は30名(88%)であり,これを正しく記述できなかった26名では,正答者は17名(65%)であった。分割表の独立性の検定を行うと,χ2(1) = 4.53, p = .033 となり,正答率の差は有意であった。樹形図あるいはルーレット図を正しく描いた52名では,正答者は46名(88%)であった。図が正しくなかった8名では,正答者は1名(13%)であった。Fisher’s exact test の結果は p < .001 となり,正答率の差は有意であった。
3囚人問題
3囚人問題への1回目のチャレンジでは,正答者は4名(7%)であった。仮説とデータを正しく記述したのは6名(10%),正しい樹形図あるいはルーレット図を描いたのは11名(18%)であった。4名の正答者はいずれも,仮説とデータの記述か,あるいは図の,少なくとも一方が正しかった。
完成した図を用いた2回目のチャレンジでは,正答者は34名(57%)であった。1回目のチャレンジで仮説とデータを正しく記述した6名は,2回目で全員が正答した。記述が正しくなかった54名では,正答者は28名(52%)であった。Fisher’s exact test の結果は p = .031 となり,正答率の差は有意であった。1回目のチャレンジで正しい図を描いた11名のうち,9名(82%)が2回目のチャレンジで正答を与えた。図が誤っていた49名では,正答者は25名(51%)であった。正答率の差は大きいが,Fisher’s exact test の結果は p = .093 であり,有意ではなかった。
くじびき課題と比べ,3囚人問題は問題表象の構築が難しい。視点教示だけでは,この困難は解決されないと考えられる。
本研究では,比較的容易なベイズ推論課題が解決できる学習者への,視点教示(佐伯,1987認知科学会)の効果を検証した。
方 法
参加者:青山学院大学社会情報学部での1年生必修科目「統計入門」の受講者のうち,本実験を行った2回の授業にいずれも出席した60名のデータを分析した。
材料と手続き:確率についての学習が2回の授業(1回180分)にわたって行われた。ベイズの定理は2回目の授業で講義された。ベイズの定理の使用を補助する図として,樹形図とルーレット図(Ichikawa, 1989)の説明がなされた。
1回目および2回目の授業終了後に「くじびき課題」(伊藤,2008発心研)の解決を求めた。2回目の「くじびき課題」の解決では,ベイズの定理での仮説とデータの記述が求められた。この問題の正解を呈示した後で,「3囚人問題」の解決を求めた。最初に,事前分布のみが示された未完成の図が呈示された。参加者は,仮説とデータを記述し,問題文に登場する看守の視点から図を完成させて,10分間で解答を行うよう指示された。次に,完全な図とその説明が呈示され,7分間で解答を行った。
結果と考察
くじびき課題
ベイズの定理を未習の時点では,くじびき課題での正答者は2名(3%)であった。
ベイズの定理学習後は,正答者は47名(78%)に増加した。仮説とデータを正しく記述した34名では,正答者は30名(88%)であり,これを正しく記述できなかった26名では,正答者は17名(65%)であった。分割表の独立性の検定を行うと,χ2(1) = 4.53, p = .033 となり,正答率の差は有意であった。樹形図あるいはルーレット図を正しく描いた52名では,正答者は46名(88%)であった。図が正しくなかった8名では,正答者は1名(13%)であった。Fisher’s exact test の結果は p < .001 となり,正答率の差は有意であった。
3囚人問題
3囚人問題への1回目のチャレンジでは,正答者は4名(7%)であった。仮説とデータを正しく記述したのは6名(10%),正しい樹形図あるいはルーレット図を描いたのは11名(18%)であった。4名の正答者はいずれも,仮説とデータの記述か,あるいは図の,少なくとも一方が正しかった。
完成した図を用いた2回目のチャレンジでは,正答者は34名(57%)であった。1回目のチャレンジで仮説とデータを正しく記述した6名は,2回目で全員が正答した。記述が正しくなかった54名では,正答者は28名(52%)であった。Fisher’s exact test の結果は p = .031 となり,正答率の差は有意であった。1回目のチャレンジで正しい図を描いた11名のうち,9名(82%)が2回目のチャレンジで正答を与えた。図が誤っていた49名では,正答者は25名(51%)であった。正答率の差は大きいが,Fisher’s exact test の結果は p = .093 であり,有意ではなかった。
くじびき課題と比べ,3囚人問題は問題表象の構築が難しい。視点教示だけでは,この困難は解決されないと考えられる。