日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PC010] Kit-Build方式による概念マップと学習方略の関連

宇井美代子1, 茅島路子1, 林雄介2, 平嶋宗2 (1.玉川大学, 2.広島大学)

キーワード:概念マップ, Kit-Build法, 学習方略

目的
学習者が授業内容を把握している程度を評価する方法の一つとして,Kit-Build方式(以下,「KB方式」と略記)による概念マップがある(山崎ら, 2009など)。KB方式では,最初に教授者がゴールマップ(「概念」と概念間を結ぶ「リンク」で授業内容を表現した概念マップ)を作成する。次にゴールマップに含まれる概念とリンクが断片化され,学習者に提供される。学習者は提供された概念とリンクとを用いて,ゴールマップを再構築する(学習者マップ)。学習者マップとゴールマップとの一致度は情報検索の分野での評価値であるF値で表され,学習者が授業内容を把握している程度が判断することができる。
概念マップを用いることによって,学習者は自分自身の思考内容・理解内容を二次元平面に視覚的に外在化することができるため,思考を整理するための手段としても役立つことが指摘されている。しかし,KB方式概念マップを用いれば,すべての学習者が思考の整理を円滑に進められるわけではない。本研究では,KB方式概念マップで良い成績をとる学習者の特徴を把握するため,学習方略を取り上げて検討する。授業内容を学習する際に用いる方略によって,KB方式概念マップの成績へと結びつくのかを探索的に検討することによって,KB方式概念マップの効果的な利用方法についての示唆が得られると期待される。
方法
調査対象者:2013年9月に実施された貧困をテーマとするオムニバス式集中授業の受講生24名。
分析項目:(1)KB方式概念マップF値 ゴールマップと学習者マップとの一致度を示す。0から1の値をとり,数値が大きいほど両者が一致していることを示す。なお,学習者マップに示されたリンクにおいて,ゴールマップとは異なるが,内容的に間違いとはいえないリンクは正解としてF値の算出に用いた。(2)学習方略尺度(精緻化方略尺度とモニタリング方略尺度)(植木, 2002)。
調査手続き:集中授業の一部として,貧困をテーマとする社会学,宗教学,倫理学,法学のそれぞれの分野を専門とする教員によって,100分の授業が行われた。集中授業が開始される1週間ほど前までに,各授業を担当する教員に,ゴールマップを作成するように求めた。受講生に対しては,集中授業初回のガイダンスの後に,学習方略尺度を含む複数の尺度に回答するように求めた。また,それぞれの授業終了後に,KB方式概念マップを作成するように求めた。教員によって作成されたゴールマップの概念数とリンク数はそれぞれ,社会学が7と5と最も少なく,次いで法学の9と8,宗教学の13と13であり,倫理学が17と17で最も多かった。
結果
KB方式概念マップの成績と学習方略との間に関連があるかを検討するため,授業内容別にF値と学習方略尺度得点の相関を算出した。社会学と法学では,精緻化方略を用いる学習者ほど,KB方式概念マップのF値が高く(社会学r=.50,法学r=.48,いずれもp<.05),宗教学では,モニタリング方略を用いる学習者ほど,KB方式概念マップのF値が高かった(r=.67, p<.01)。なお,授業内容別にみたF値の平均は,Table 1に示す通りであった。
考察
本研究の結果,ゴールマップにおける概念数やリンク数の比較的少なかった社会学と法学の2つにおいて,既存知識と関連づけようとしながら学習を行う精緻化方略を用いる者ほど,KB方式概念マップの成績が良かった。概念マップでは,概念と概念とをリンクによって結びつけていく作業が行われる。したがって,既存の知識と結びつけようとする精緻化方略を行う学習者にとって,概念マップで行う作業は,普段の学習方略と一致していると考えられる。そのため,KB方式概念マップの成績が良かった可能性が示唆される。
一方,概念数やリンク数がやや増加する宗教学においては,自分の理解状態をメタ的に監視するモニタリング方略を行う学習者ほど,KB方式概念マップの成績が良かった。把握すべき概念数やリンク数が増加すると,個別的に概念を結びつける作業だけではなく,自分の理解を全体的に把握するような認知活動が必要であることが示唆される。以上のように,概念数やリンク数により,KB方式概念マップでより良い成績をとるために必要な方略が異なることが示唆される。
また,概念数とリンク数が最も多かった倫理学では,いずれの方略とも関連が見られなかった。倫理学のF値の平均が比較的高いことも踏まえると,概念数やリンク数が多くなると,さらなる学習方略が必要である可能性が示唆される。
【謝辞】本研究はJSPS科研費25350295の助成を受けた。