The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

Fri. Nov 7, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 5階ラウンジ (5階)

[PC022] マニュアル制作授業受講者の読み手意識の変化

冨永敦子1, 中村綾乃1, 岸学2 (1.早稲田大学, 2.東京学芸大学)

Keywords:読み手意識, 文章産出困難感, テクニカルライティング

1.はじめに
大学生を対象としたマニュアル制作授業にペルソナ手法を導入し,実践した。ペルソナ手法とはユーザー分析の一手法である。対象商品の典型的なユーザーを想定し,そのプロフィール(年齢,性別,家族構成,知識,経験等)を具体的に明文化することにより,ユーザーのニーズにあったマニュアルを開発できるという手法である。冨永・岸(2013)は,この授業の受講者の文章産出困難感(岸ら2012)を測定し,全体構成,読み手意識,アイディア,推敲が授業後に向上したことを報告した。本研究では,読み手意識に着目し,同授業の受講者が読み手に対して具体的にどのように配慮するのかを調査した。

2.授業概要およびデータ収集の方法
マニュアル制作授業は冨永・岸(2013)と同様であった。1グループは3~4人で構成され,「50代女性向けtwitterの使い方」「小学生向けtwitterの使い方」のうち,制作したいほうをグループで決めた。制作手順は,1)構成・ページレイアウト作成,2)初校作成,3)ペルソナの検討,4)ペルソナに合わせて再校作成,5)完成校作成であった。ペルソナの検討では,まず教員がペルソナ手法の目的を説明し,次にペルソナのプロフィールをグループで検討し,模造紙に書き出した。
データ収集は,授業前,初校を作成しペルソナを作成する前,授業後の3回行った。調査内容は文章産出困難感(31項目,7件法)とマニュアルイメージ調査であった。マニュアルイメージ調査は,わかりやすいマニュアルあるいはわかりにくいマニュアルの特徴と,その特徴が読み手に与える認知的効果(読み手がどのように感じるのか),その特徴が読み手に与える行動的効果(読み手がどのように行動するのか)をセットにし,思いつく限り書いてもらった。

3.結果と考察
受講生28人中,すべての調査に回答した24人(1年9人,2年2人,3年13人)を分析対象とした。授業後に収集した文章産出困難感の「読み手意識」の下位尺度得点の平均値より高い受講生を「高群」(n=11),低い受講生を「低群」(n=13)とし,群(2)×時期(3)の2要因分散分析を行った結果,群および時期ともに主効果は1%水準で有意であった(F(1,22)=32.38, p<.01;F(2,44)=17.91, p<.01)(図1)。交互作用は有意でなかった。時期の多重比較(Bonferroni法)は,授業後>初校後>授業前の順に高かった(MSe=0.318, p<.05)。読み手意識低群・高群ともに,授業前よりは授業後のほうが読み手意識が高くなったことが示された。
マニュアルイメージ調査では,わかりやすいマニュアルあるいはわかりにくいマニュアルの特徴(授業前96件,初校後138件,授業後216件)を<構成・検索性><内容><文章表現><図・写真><専門用語><デザイン・レイアウト><分量><読み手意識><その他>の9カテゴリに分類した。この中で<読み手意識>は,授業前4件,初校後2件,授業後17件であり,全体の件数からすると少なかった。また,読み手意識の高群11人のうち,読み手意識について記述したのは授業前1人,初校後2人,授業後5人であった。低群13人では授業前1人,初校後0人,授業後6人であった。高群・低群ともに授業前よりは授業後のほうが増えたものの,授業後においても各群の半数の受講者は読み手意識について言及しなかった。
以上の結果から,ペルソナ手法を用いたマニュアル制作授業を受講することにより,読み手意識は向上してはいるものの,自分の言葉で明文化できるまでには至っていないと考えられる。

引用文献
岸学・梶井芳明・飯島里美(2012)文章産出困難感尺度の作成とその妥当性の検討.東京学芸大学総合教育科学系Ⅰ,63:159-169.
冨永敦子・岸学(2013)ペルソナ手法を用いたマニュアル制作授業における文章産出困難感の変化.日本教育心理学会第55回総会発表論文集,147.