日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PC028] 英語ライティング授業における学習意欲・自己効力感・学習方略及びテストスコアの関連

藤森千尋 (埼玉医科大学)

キーワード:英語ライティング, 自己効力感, 学習方略

【問題と目的】英語学習活動において,4技能(スピーキング,リスニング,リーディング,ライティング)のうち,ライティングは学習者にとって情意的にも認知的にも負担が大きいためか,毎年入学当初,大学1年生に尋ねている非公式的な調査では,最も好まれない学習活動となっている。しかし,あるテーマに関して,内容のあるまとまった考えを,一貫性をもって筋道正しく英語で書くという活動は,論理的思考力と表現力の向上といった一般的言語能力の育成につながる有効な学習活動と考えられる。また,自律的学習者の育成を目指した場合,メタ認知的に自己の学習をモニタリングし,高い内発的動機を持ち,積極的に学習方略を用いて自己の学習を調整する,自己調整学習(Zimmerman & Shunk,2001)が注目されている。では,ライティング学習ではいかに書く意欲が喚起され,自信を持ち,内発的に動機づけられた学習活動が行われるか,また,どのような学習方略が学習意欲や自信,実際のパフォーマンスと関連しているか,一連のライティング学習における自己調整学習の過程を明らかにすることが必要である。本稿では,書くことが楽しいと思えること(学習意欲),書けるという自信(自己効力感,Bandura,1977;Zimmerman & Bandura, 1994 ),自己の学習のモニタリング力を養うことを目的とした英語ライティング授業において,1年間でそれらがどのように変化したか,また,実際のパフォーマンスとどのような関連があるか,更に,どのような学習方略がそれらと関連しているかを明らかにする。
【方法】1.対象授業:大学1年生を対象としたアカデミック・ライティングの授業。パラグラフ構成(Introduction, Development, Conclusion)と論の展開(Process, Compare and Contrast, Cause and Effect)の一貫性を強調した指導をおこない,各自選んだタイトルで書きたい内容をまとまって書くことができる(CEFR, 2001参照)という〈自己効力感〉の向上を目標とし,ピア・フィードバックを取り入れ,協働的に学び合う中で自己の学習のモニタリング力を養い,書くための〈意欲〉の向上を狙いとした授業。2.分析データ:大学1年生118名(男子学生73名,女子学生45名)を対象におこなったライティング学習の意識(学習意欲,自己効力感,学習方略,自己モニタリング)に関する5段階尺度の質問紙調査(事前調査として2013年5月,事後調査として2014年1月実施)と英作文の課題テストのスコア(60点満点)(2014年1月実施)。3.分析方法:(1)意識の変化:①質問紙調査の事前と事後における〈自己効力感〉や〈意欲〉の変化。②自己モニタリングの変化。(2)意識及びテストスコアとの相関:③<意欲>,<自己効力感>及びテストスコアの相関。④<学習方略> (因子解の抽出)と〈自己効力感〉,〈意欲〉,テストスコアとの相関。
【結果】①〈意欲〉(「書く楽しさ」1項目)と〈自己効力感〉(10項目。α= 0.89)の変化:事前と事後の意識調査を比較検討した結果,書くことの自信に関する10項目すべてにおいて有意に「できる」という<自己効力感>が向上した。また「書くことは楽しい」という<意欲>も有意に向上した(Table 1)。②事後に伸びた自己モニタリング項目(全5項目。α= 0.65):「(C1)英語の学習に関して、自分がどのような点が苦手でどのような点が得意か理解している」,「(C18)自分自身の英語を書く力を向上させるためには、どのようなことをすれば良いか分かる」「(C5)英語の文章を書くときは、内容よりも書いた英語が間違っているのではないかと気になる(気にならなくなった)」が有意に向上した(Table 2)。③〈意欲〉,〈自己効力感〉及びテストスコアの相関:<意欲>と<自己効力感>には中程度の相関が見られた(r=0.50, p<. 01)が,テストスコアと<意欲>,<自己効力感>には相関が見られなかった(Table 3)。④〈学習方略〉を探索的に因子分析した結果,3因子解が得られた。[説明・暗記重視型(α= 0.60)],[理解重視型(α= 0.79)],[協同学習型(1項目のみ)]の3つの〈学習方略〉とテストスコア,〈自己効力感〉,〈意欲〉,及び〈自己モニタリング〉の相関を調べた結果(Table 4), [説明・暗記重視型]は〈自己効力感〉と〈意欲〉に弱い相関,〈自己モニタリング〉と中程度の相関が見られた。[理解重視型]はテストスコアと弱い相関,〈自己効力感〉,〈意欲〉,〈自己モニタリング〉と中程度の相関が見られた。[協同学習型]は〈自己効力感〉,〈意欲〉と弱い相関,〈自己モニタリング〉と中程度の相関が見られた。
【まとめ】1年間のライティングの授業を通して,学習者は学習意欲と自己効力感が高まった。また自己の学習をモニタリングする力も高まった。ただ,学習意欲と自己効力感との間には相関が見られたが,それらと実際のパフォーマンス(課題テストスコア)との間には相関が見られなかった。用いている学習方略と学習意欲,自己効力感,自己モニタリングとの間には相関が見られたが,テストスコアと関連している学習方略は理解重視型のみであった。