日本教育心理学会第56回総会

講演情報

ポスター発表 » ポスター発表 PC

ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PC029] 音韻意識を高める指導による英単語分節化への影響

オンセット・ライム意識と音素意識に着目して

木澤利英子 (東京大学)

キーワード:音韻意識, 英単語分節化, オンセットライム

問題・目的 英語学習における音韻意識の重要性は繰り返し指摘されている。日本語はモーラ(拍)言語であり,その処理単位を英語にも当てはめてしまうことが正確な発音や聞き取りの妨げとなっている可能性がある。つまり,文字単語や聴覚単語を処理する際に,どのような単位で分節するかが非常に重要なのである。実際,英語熟達者ほど,母語話者に近い処理を行っていることを示唆する研究もある(水口ら, 2013など)。英語の音韻単位は,音節,オンセット・ライム,音素の順で小さくなるが,日本では近年,この音素への関心が高まっている。フォニックスという読みの指導を通して,音素意識を高めることで,スキルの向上が見られることも示されてきた(湯澤ら, 2010)。しかし,音素より大きな塊であるオンセット・ライムレベルの音韻意識について,重要性は指摘されてきたものの(垣花,2004),その影響を実証的に検討した研究は見当たらない。オンセット・ライムとは,例えばboyであれば,語頭の子音bがオンセット,母音から終わりまでのoyがライムに当たるもので,母語話者においては音素意識以前に獲得されるものである(Goswamiら,1990)。このレベルの音韻意識が重要となるのは,日本語の構造上,日本人英語学習者にとって「子音と母音の切り分け」が一つの大きな課題と言えるからである。
そこで木澤(2012)では,中学校2年生を2群に分け,オンセット・ライム意識を高める指導と音素意識を高める指導をそれぞれ行い,未知語の発音や聞き取りへの影響を検証した。結果,音素指導を受けた参加者と比べ,オンセット・ライム指導を受けた参加者において事後の成績が有意に高かった。しかし,この成績の向上が,真に分節化の変容によるものであるかは明らかではない。そこで本研究では,英単語の分節化についても指導の前後で測定を行い,分節化の変容と成績との関連を検討する。

方法 2014年3月に東京大学で行われた5日間の学習ゼミナールに参加した86名の中学校2年生を,学校の成績を統制した上でオンセットライム群と音素群に配置し,それぞれ3日間,1授業80分のうち20分の音韻指導を行った。ライム群では,一日に10個のライムを紹介し,発音の確認,ライムを共有する単語生成(akeからmake, take, lakeなど),聴覚提示,および視覚提示された数語に共通するライムの同定課題を行った。音素群では,一日6~10の子音を導入し,発音の確認,頭子音を共有する単語生成,聴覚提示された単語から音素を同定する課題を行った。初日と最終日には,未知語の綴りを推測する課題と発音を推測する課題,単語の分節化の様相を明らかにするために,一音節単語の分節箇所にスラッシュを入れさせる課題を行った。綴り推測課題では,聴覚提示された未習単語を綴ること,発音推測課題では,視覚提示された未習単語の発音を,聞かされた3種類の発音から選択することが求められた。分節課題では,例えば”spray”に対し,ライム認識がなされているのであれば”spr/ay”,モーラ認識がなされているのであれば”s/p/ra/y”のように分節されると予測した。

結果 綴り推測課題の事前事後得点について分析を行ったところ,ライム群の得点が音素群より有意に高いことが明らかとなった(F(1,69))=14.92, p<.01)。一方で,発音推測課題については有意な差が認められなかった(F(1,69))=2.74, n.s.)
また,ライム分節数について事前の数値を共変量とした共分散分析を行ったところ,ライム群において音素群より有意に多いことが示された(F(1,69))=99.80, p<.01)。一方,モーラ分節数についても同様の分析を行ったところ,音素群においてライム群より有意に多いことが示された(F(1,69))=31.00, p<.01)。指導が推測課題の成績に及ぼす影響について,ライム分節数を媒介変数とした分析を行った結果,指導の影響が,分節化の変容を媒介するものではないことが示された。

考察 本研究では,3日という非常に短い介入の結果,ライムを学習した参加者において,未知語の綴り成績が高くなった。ライムとは音素に比べ,より大きな塊であるため汎用性が高い。既有知識から仲間を見つけ出せることで綴りが正確になったものと思われる。しかし,分節化の媒介が認められなかったことから,その成績向上に寄与する要因について更なる検証が求められるであろう。