日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PC038] 学級規模の大小とフィードバックの実施状況

小学校第3・4学年国語の場合

山森光陽 (国立教育政策研究所)

キーワード:学級規模, 形成的評価, フィードバック

問題
学級規模の大小と児童生徒の学力との関係を検討した研究では,小規模学級ほど学力が高いという傾向を示したものが一定程度見られる(山森, 2013)。これは,小規模学級ほど教師による個別支援が実施しやすいためと考えられている(Ehrenberg, Brewer, Gamoran, & Willms, 2001)。
個別支援には様々なものがあるが,それらの中でも形成的評価の実施は児童生徒の学力を高めることに大きく寄与すると考えられている(Hattie, 2009)。形成的評価としてフィードバックする情報としては個人の努力の程度,課題に対する正誤や得点よりも課題を解決するための手がかりや考え方を与える方が効果が高いことが明らかとなっている(Hattie & Timperley, 2007など)。
なお,指導方法・内容の実現状況は教職経験年数によって異なることが指摘されている(永田・松本・板垣・荒木, 2005)。このような指摘を踏まえると,授業中に実施される形成的評価の実施状況も教職経験年数によって異なると考えられる。

目的
上記の問題を踏まえ,本研究では学級規模の大小と学級規模の大小による形成的評価としてのフィードバックの実施状況の違いを明らかにすることが本研究の目的である。そのために,(1)授業中に児童が個別に課題に取り組む時,(2)グループで取り組む時,(3)学級全体で課題解決の結果を共有する時,(4)宿題を戻す時,(5)小テストの結果を戻す時のそれぞれの場面について,(a)正誤を示すこと,(b)課題を解決するための考え方や正誤の理由を示すことの2種類のフィードバックを対象とし,教職経験年数の多少に分けて検討する。

方法
山形県内の休校中を除いた小学校のうち調査協力の同意の得られた市町村の複式学級を設置していない学校学校(206校)を対象に,第3,4学年の学級担任に調査を実施した。そのうちインターネット調査に回答した学校(163校)の教諭が担任している学級(502学級)を分析対象とした。調査は国語の指導について,目的に示した(1)~(5)の場面における(a)および(b)の年間の実施状況を「いつも,またはほとんどで行った」「半分くらいで行った」「ときどき行った」「全く行わなかった」の4件法で回答を求める形式だった。

結果
回答者を教職経験年数10年以下(105人),11年以上(397人)に分け,調査回答の「いつも,またはほとんどで行った」を1,これ以外を0として,フィードバックの実施状況を基準変数,学級規模を説明変数としたロジスティック回帰分析を実施した。なおこの調査が抽出調査ではなく特定の地域の特定の条件を満たす学校の全てを対象に実施されたことを踏まえ,ベイズ推定を行った。RのMCMCpackを用い長さ5万個のマルコフ連鎖を発生させそのうち最初の1万個をバーンイン期間として破棄し残りの4万個にもとづいて回帰係数を推定した。
基準変数に対する説明変数の回帰係数の90%信用区間に0を含まなかったのは,教職経験年数10年以下の教員においての,目的に示したところの(1),(2),(4)の(b)についてであった。これらの結果のうち,教職経験年数10年以下の教員においての(1)授業中に児童が個別に課題に取り組む時の(a)正誤を示すこと,(b)課題を解決するための考え方や正誤の理由を示すこと実施状況の結果を図示するとFigure 1の通りであった。また(1)授業中に児童が個別に課題に取り組む時の(b)課題を解決するための考え方や正誤の理由を示すことの実施状況を教職経験年数ごとに図示するとFigure 2の通りであった。

考察
以上の結果から,経験年数の短い教員において学級規模が大きいほど効果的な形成的フィードバックを実施しにくいことが示唆された。小規模学級ほど児童生徒の学力が高いという傾向が見られる背景には,このようなフィードバックのしやすさの違いがあるといえよう。

※本発表はJSPS科研費(基盤研究B)25285189の助成を受けて実施された研究の一部である。