日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

2014年11月7日(金) 16:00 〜 18:00 5階ラウンジ (5階)

[PC045] 教育実習生の授業実践過程における感情の生起と機能

松尾剛 (福岡教育大学)

キーワード:教育実践, 感情, 教員養成

問題と目的
教育実習の質を高めることは,教員養成における重要な課題の一つである。しかし,教育実習における様々な業務や人間関係がストレッサーとなり,ストレス反応を示す学生も存在する(e.g.,坂田・音山・古屋, 1999)。教育実践の過程で,教師には様々な感情が生起する(e.g., Frenzel, 2014)。これまでの研究は,ポジティブ感情が実践への活力や動機づけを高めるというだけでなく,ネガティブ感情であっても,それが教師のストレスを引き起こす一方で,深い省察を促し,教師としての成長の契機ともなりうることを示している(e.g., Day & Leich,2001; 木村, 2010)。従って,教育実習の過程における実習生の感情に注目することは,単に実習ストレスへの対応というだけでなく,実習生が教員として成長するための重要な契機を見いだすという点においても重要だと考える。そこで本研究では教育実習生を対象に,感情を中心とした授業の振り返りを実施し,その内容を分析することで,教育実習生の授業実践における感情の生起過程とその機能について探索的に検討を行う。
方法
教員養成系大学で教育心理学を専攻する学部4年生1名(女性)が,教育実習で行った国語の授業3回分を調査対象とした。実習生には,自分の実習中の授業をVTR録画し,授業後にそのVTRを見ながら,授業中に感じた事を自由に記述すること,その際に,どのような感情が生じたか,また,その原因(できごとや,自分の認知過程),そして,生じた感情がその後の授業に対して与えた影響,などについて,できるだけ自分の言葉で自由に記述することを求めた。この3回分の振り返り5965文字分を分析対象とした。
可能な限り具体的な振り返りを促すために,教室の後方から全体の様子を撮影するビデオに加えて,授業者の頭部に装着して撮影するビデオを用いて撮影を行った。
結果と考察
授業中の感情の生起過程(感情が生起する文脈,生じた感情,その後の授業への影響)に関するひとまとまりのエピソードを分析の際の1単位とし,全部で124のまとまりに分類した。これらについて,含まれる内容を分類するための223カテゴリを導出した。
カテゴリの関連性や出現頻度などについて分析を行った結果,授業中の感情の生起過程と機能について,以下の特徴が示唆された。①自分の意図や計画通りに授業が進んでいることで,ポジティブな感情が生起していた。それに対して,予想外の偶発的な出来事はネガティブな感情を引き起こしていた。②生徒と直接やりとりをしていた時だけでなく,生徒が自分の考えを書く際の机間巡視中にも,生徒の考えをうまく理解することの困難さから,【迷い】や【ためらい】などのような感情が生じていた。③【迷い】や【焦り】などの感情が生じることで,生徒の話を聞けなくなってしまうなど,その後の教授行為が妨げられていた。④全体的にネガティブな感情と教授行為のつながりが語られることが多く,ポジティブな感情の生起と教授行為とのつながりが語られることが少なかった。⑤事前の授業プランを授業の流れに応じて修正する必要が生じた際に「ひらきなおり」や「あきらめ」といった感情がしばしば生起していた。このような感情が生起することにより,迷いのために身動きがとれなくなっている状況から開放され,授業を先に進めることができるようになっていた。また,これらの感情が生じる際には,授業中に目標を調整するといったことも行われており,そのことが自分を落ち着かせるという感情調整の方略としても機能していた。