The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PC

(5階ラウンジ)

Fri. Nov 7, 2014 4:00 PM - 6:00 PM 5階ラウンジ (5階)

[PC049] 教科教育・教育方法学の基礎としての教育心理学の発展過程

教科の教育・学習過程の教育心理学的研究を例に

坂西友秀 (埼玉大学)

Keywords:教科教育, 教育方法, 教育心理学

目的 心理学は、目的に照らして対象の性質・特徴を客観的・実証的方法を用いて、解明・検証する。客観性を発揮することで、実証科学としての位置を確立しようとしてきた。学校教育分野における心理学研究は、徐々に国語、理科、算数(数学)等、個別の教科領域における子どもの理解の過程や誤答の分析など、心理的な過程を具体的に明らかにする方向に発展してきた。本稿では、戦前期に教育心理学が、教科教育法(指導法)・教育方法の研究分野として学問的基盤を確立する過程を明らかにする。算数等の教科の分析事例から、研究が教科領域に拡大したことを確認し、「教育の客観性」、「実証性」を重視したことを例証する。
方法 分析対象は、東京高等師範学校刊の「教育心理研究」(全15巻、「心理」と略)の掲載論文である。当時、教育心理学が、教科指導・児童の理解等に研究の焦点を当て、有効な教育方法学としての貢献を模索していたことを事例分析で示す。
結果 「敎育研究と心理研究を結びつけることに因って、教育実践を科学的に解明し、より効果的な教育方法の発展を心理学者は期待していた」。「敎育心理學、敎育に關係を有する精神現象を研究して得た結果を整理して敎育的心理學なるものを成立せしめやうとする方針に從ひ心理學者は努力している」(松本亦太郎,心理,第1巻)。教科教育への研究の拡大は、松本のこの言葉を裏づける。
算術 尋常高等小學校兒童を対象にした研究等々がある。「作業時間を考慮する立場と考慮しない立場、前者にも規定の時間内の遂行作業の質と量に注目する立場と所定の推理作業を遂行するのに要する時間を考査する立場がある.實驗的研究、讀字の抵抗を少なくする條件、理解の抵抗を減少する條件、問題數と時間、問題の配列、學年と問題、練習問題、算術的推理能力テスト問題」(松本亦太郎,心理,第1巻)等々、具体的な課題解決と諸条件の関係を心理学的に分析している。
国語 「綴り方敎育の實際に携わっている者に取って、正しき讀みの指導は、敎材を理解させる上に於いても、或は又、標準語の訓?といふ意味に於いても必要な課題であるが、この課題を遂行する為には、先づ兒童に於ける讀み誤りの發生條件を知らなければならぬ。方法・手續:普通の綴り方敎授に於ける授業形式の下で種々なる敎材を兒童に朗読せしめ、一々の讀み誤りを記録することによった」(松本金壽・小林清一,心理,第11巻)。
城戸幡太郎・松本金壽(心理,第6巻)は、小學二年-六年生を対象に「格助詞・副助詞・接続助詞・係助詞・終助詞・間投助詞」の分析を行っている。
英語 水野常吉は、中学一年から五年、工業学校、商業学校、高等学校、専門学校を対象に「四十分間、自分の知っている語彙を出来るだけ多く書き出してもらった。英語の成績と語彙数との相関係数を算出した。その結果、譯解,書取、英作の順位相関係数は高かった」(心理,第2巻)。
理科 武政太郎は、堂東傳著「新理科敎育」を新著紹介で取り上げている。「理科敎育の本質、敎材、方法、設備等に亘って、具體的に而かも理論的に且極めてわかり易く書いてある」。杉藤芳男は、小学四-六年生対象の「一つの理科檢査の結果について」(心理,第2巻)報告している。
図工科・家庭科・ 青木誠四郎は、小學兒童を対象に東京市裁縫研究會が行った「兒童運針成績の測定」についてまとめている(心理,第13巻)。武政太郎・加部銀之助は「小學兒童の粘土細工製作活動の發達について」分析している。
授業と疲労 「兒童一日の各時に於ける精神作業力と敎科の時間割」(楢崎淺太郎,心理,第1巻)と題して、児童の疲労度と作業率の関係を検討している。「午前9時より午後4時に至る各30分毎の5分間の加算數を其の各測定時に關係せしめて一日の作業線を…描き、…各個人に共通な一般的な形式を認むることは絶對に出來ない」。授業の編成と子どもの学習効率に関わる研究だ。
考察 教育実践への教育心理学の有効性と、応用科学としての存在意義が問われた。「大伴茂著,敎育科學の諸問題」の紹介(武政太郎,心理,第2巻)は、教育心理学者が、教育内容、方法、子どもの教科理解の過程に関する科学的解明・研究に強い関心を持っていたことを示す。「敎育の獨斷より科學的判斷へ」移行させることが教育心理学の中心課題だった。他方で、中野佐三による『日鮮滿に於ける我が「てにをは」表現の比較研究』(心理,第9巻)等は、教科教育学として教育心理学がアジアに研究領域を広げ、植民地の「国語教育」の一端を担いつつあったことを示すものである。