[PC052] 教室における教師の感情経験と感情表出
教室内・外の感情経験の差異と連関に着目した検討
キーワード:教室, 教師, 感情
目 的
教育実践は,“社会的状況に埋め込まれた感情的経験に根付いたもの”(Hargreaves,1998)であり,教職は児童の感情に基づいた専心没頭を行う“ケアリング”(Noddings,1992)の専門職である(O’Connor,2008; Rosiek,2003)と言われる。近年では,教師を中心に構成される教室内の“感情的文化(emotional culture)”(Zembylas,2004)がいかなるものであるかということが,教室での学習において,重要であることが示されている。しかしながら,教師の実践知についての研究の蓄積(e.g., Shulman,2000)がある一方で,感情を手がかりとした支援を教師がどのようにして行っているかということについての知見は乏しい(Rosiek,2003)。
本研究では,特に教師の感情経験の個人差に着目し,教室内・教室外での教師の感情経験の差異と関連,及び感情経験と学級内での感情表出との関連を検討することを目的とする。
方 法
調査対象 小学校4~6年生を担当する学級担任教諭70名(男性35名,女性35名; 平均年齢27.2歳(SD = 9.5,レンジ23-60歳))を対象とした。
調査時期 2013年12月~2014年3月。
調査方法 質問紙を用いて,次の内容を測定した。
感情経験と感情表出 Izardら(1993)の個別感情尺度第4版(Discrete Emotion Scale Ⅳ: DES-Ⅳ)を参考に尺度を作成し,興味,喜び,驚き,悲しみ,怒り,嫌悪,軽蔑,恐れ,罪悪感,羞恥心,シャイネス,自己敵意の12の個別感情について,日常生活での経験頻度について尋ねた。本研究では,回答にかかる教師の負担を考慮し,DES-Ⅳの日本語版(坂上,1999)の項目内容を参考に,12の個別感情名と対応する感情語例を挙げ,各個別感情につき1項目で尺度を構成した。
作成した項目を用いて,12の個別感情について,“児童と接しているときの経験頻度”,“児童と接していないときの経験頻度”,“感情を経験したときの児童の前での表出の頻度”を5件法で尋ねた。
結 果
教室内・教室外の感情経験の差異 教師の感情経験について,教室内・教室外での経験の差についてt検定を行った。その結果,喜び(t(68)= -5.60,p = .00),興味(t(69)= -6.34,p = .00),驚き(t(68)= -9.66,p = .00),怒り(t(69)= -3.81,p = .00),自己敵意(t(69)= 6.64,p = .00),罪悪感(t(69)= 4.09,p = .00)については,教室内での経験の方が教室外での経験よりも有意に多く,軽蔑(t(69)= 3.18,p = .00)のみ,教室外での経験の方が有意に多いことが示された。
教室内・教室外の感情経験の関連 教室内・教室外での教師の感情経験の関連を検討するため,相関分析を行った。その結果,怒りを除く11の感情において,教室内の経験と教室外の経験の間に有意な正の相関が見られた(r = .27~.73,p < .05)。
感情経験と児童の前での感情表出の関連 教師の感情経験と児童の前での感情表出の関連を検討するため,相関分析を行った。その結果,教室内での感情経験について,喜び(r = .55,p = .00),興味(r = .66,p = .00),怒り(r = .62,p = .00),嫌悪(r = .52,p = .00),罪悪感(r = .50,p = .00)において,児童の前での感情表出との間に有意な正の相関が見られた。
考 察
教師の感情経験について,教師は喜び,興味,驚きといったポジティブな感情を教室内で多く経験している一方で,怒りや自己敵意,罪悪感といったネガティブな感情の経験も教室外に比して多いという特徴が見られた。先行研究では,教室実践を通して教師が経験するポジティブな感情は動機づけを生み出し(木村,2010),一方でネガティブな感情は教師の“省察”(Shulman,2000)につながる(木村,2010)ことが示されてきた。教室内での教師の感情経験の頻度の高さは,教師が自身の実践を省察し,実践への動機づけを高める機能を有していると考えられる。
一方,教室内での感情経験と教室外での感情経験の間には,いずれの感情でも正の関連が見られ,感情表出についても同様の傾向が確認された。特定の感情を経験しやすい教師は,教室内でも同一の感情を経験しやすい傾向があると考えられる。こうした感情経験の一貫性は,教師の個人差としての“感情特性”(Malatesta & Wilson, 1988)が反映されたものである可能性がある。
こうした教師側の感情経験や感情表出の度合いが,教室全体の“感情的文化”(Zembylas,2004)の構成など,教室実践に及ぼす効果について検討していくことが今後の課題として挙げられる。
教育実践は,“社会的状況に埋め込まれた感情的経験に根付いたもの”(Hargreaves,1998)であり,教職は児童の感情に基づいた専心没頭を行う“ケアリング”(Noddings,1992)の専門職である(O’Connor,2008; Rosiek,2003)と言われる。近年では,教師を中心に構成される教室内の“感情的文化(emotional culture)”(Zembylas,2004)がいかなるものであるかということが,教室での学習において,重要であることが示されている。しかしながら,教師の実践知についての研究の蓄積(e.g., Shulman,2000)がある一方で,感情を手がかりとした支援を教師がどのようにして行っているかということについての知見は乏しい(Rosiek,2003)。
本研究では,特に教師の感情経験の個人差に着目し,教室内・教室外での教師の感情経験の差異と関連,及び感情経験と学級内での感情表出との関連を検討することを目的とする。
方 法
調査対象 小学校4~6年生を担当する学級担任教諭70名(男性35名,女性35名; 平均年齢27.2歳(SD = 9.5,レンジ23-60歳))を対象とした。
調査時期 2013年12月~2014年3月。
調査方法 質問紙を用いて,次の内容を測定した。
感情経験と感情表出 Izardら(1993)の個別感情尺度第4版(Discrete Emotion Scale Ⅳ: DES-Ⅳ)を参考に尺度を作成し,興味,喜び,驚き,悲しみ,怒り,嫌悪,軽蔑,恐れ,罪悪感,羞恥心,シャイネス,自己敵意の12の個別感情について,日常生活での経験頻度について尋ねた。本研究では,回答にかかる教師の負担を考慮し,DES-Ⅳの日本語版(坂上,1999)の項目内容を参考に,12の個別感情名と対応する感情語例を挙げ,各個別感情につき1項目で尺度を構成した。
作成した項目を用いて,12の個別感情について,“児童と接しているときの経験頻度”,“児童と接していないときの経験頻度”,“感情を経験したときの児童の前での表出の頻度”を5件法で尋ねた。
結 果
教室内・教室外の感情経験の差異 教師の感情経験について,教室内・教室外での経験の差についてt検定を行った。その結果,喜び(t(68)= -5.60,p = .00),興味(t(69)= -6.34,p = .00),驚き(t(68)= -9.66,p = .00),怒り(t(69)= -3.81,p = .00),自己敵意(t(69)= 6.64,p = .00),罪悪感(t(69)= 4.09,p = .00)については,教室内での経験の方が教室外での経験よりも有意に多く,軽蔑(t(69)= 3.18,p = .00)のみ,教室外での経験の方が有意に多いことが示された。
教室内・教室外の感情経験の関連 教室内・教室外での教師の感情経験の関連を検討するため,相関分析を行った。その結果,怒りを除く11の感情において,教室内の経験と教室外の経験の間に有意な正の相関が見られた(r = .27~.73,p < .05)。
感情経験と児童の前での感情表出の関連 教師の感情経験と児童の前での感情表出の関連を検討するため,相関分析を行った。その結果,教室内での感情経験について,喜び(r = .55,p = .00),興味(r = .66,p = .00),怒り(r = .62,p = .00),嫌悪(r = .52,p = .00),罪悪感(r = .50,p = .00)において,児童の前での感情表出との間に有意な正の相関が見られた。
考 察
教師の感情経験について,教師は喜び,興味,驚きといったポジティブな感情を教室内で多く経験している一方で,怒りや自己敵意,罪悪感といったネガティブな感情の経験も教室外に比して多いという特徴が見られた。先行研究では,教室実践を通して教師が経験するポジティブな感情は動機づけを生み出し(木村,2010),一方でネガティブな感情は教師の“省察”(Shulman,2000)につながる(木村,2010)ことが示されてきた。教室内での教師の感情経験の頻度の高さは,教師が自身の実践を省察し,実践への動機づけを高める機能を有していると考えられる。
一方,教室内での感情経験と教室外での感情経験の間には,いずれの感情でも正の関連が見られ,感情表出についても同様の傾向が確認された。特定の感情を経験しやすい教師は,教室内でも同一の感情を経験しやすい傾向があると考えられる。こうした感情経験の一貫性は,教師の個人差としての“感情特性”(Malatesta & Wilson, 1988)が反映されたものである可能性がある。
こうした教師側の感情経験や感情表出の度合いが,教室全体の“感情的文化”(Zembylas,2004)の構成など,教室実践に及ぼす効果について検討していくことが今後の課題として挙げられる。